今週のトピックス

ミシュランガイド・フランス版の発表が3月18日、ロワール地方トゥールにてありました。2022年に引き続き、パリではなく地方都市における発表で、地方の活性化を目指したものでもあります。パリからトゥールはTGVで１時間少しという距離が近いこともあり、昨年のストラスブール、あるいは一昨年のコニャックという遠距離での開催とは異なって、パリのシェフたちもこの発表だけのために足を運んだという方々も多かったのではないかと思います。

今回新たにミシュランの星を獲得、あるいは増やした店は62軒。1つ星は52軒、2つ星は８軒、3つ星は2軒という結果でした。全体では、3つ星30軒、2つ星75軒、1つ星534 軒の、計639軒が星を獲得しています。

3つ星を獲得したのは、パリのシャンゼリゼ大通りそばにあるホテル「ラ・レゼルヴ」内のメインダイニング、ジェローム・バンクテルによる「Le Gabriel」と、プロヴァンス地方の「La Table du Castellet」。後者は、クリストフ・バキエシェフが長年3つ星を支えてきて（2018年より3つ星）、この度独立し「Le Mas Les Eydins」というホテル・レストランをやはり南仏にオープンしているのですが、この店は今年2つ星を獲得。新しい「La Table du Castellet」は引き継いだファビアン・フェレシェフが厨房を牽引しています。フェレシェフはバキエシェフを10年間支えてきた右腕でした。

日本人シェフは、1つ星でパリの3名が獲得しました。「パッサージュ53」で日本人で初めて2つ星を獲得した佐藤伸一さんが昨年の秋にパリ16区に隈研吾さんの内装でオープンした「Blanc」。Sushi Okudaの現場の料理長をされていた吉永友幸さんがカウンターに立つ「Sushi Yoshinaga」。さらに京都の「瓢亭」で腕を研磨し、Paris OECDの料理長にも就任した経験を持つ秋吉雄一朗さんによるパリ15区「Chakaiseki Akiyoshi」でした。この３店舗ともがそうなのですが、2023年にオープンした新店であるということも、今回の特徴でした。1つ星を獲得した52店舗中23店舗が新店というのは驚きでした。昇格したシェフたちの平均年齢が40歳以下ということも。

若手や新しい挑戦に対して寛容なのに対し、正直に感じたことは、2つ星、あるいは3つ星という、1つ星の先の大きな壁を乗り越えることができたのは、大きなグループのバックアップのあるレストランがほとんどで、後味が少し寂しいというか、個人店がなかなか難しい時代に入ったということでした。

MetroというBtoBの大型食品卸業者や、または、予約システムにおいてパートナーシップを結ぶThe Forkのパブリシティを隠さず伝えていることもあり、決して広告を取らないという信条を守り抜いた時代とは、もはや異なるということを如実に感じさせられた発表でした。

個人店がどんなにがんぱっても1つ星止まりかもしれない、とさえ思わせる。同じように感じたシェフやオーナーたちは少なからずいらしたのではないかと思います。

そんな中、3つ星を2020年に獲得した小林圭シェフの存在は、さらに貴重に感じました。ビックスポンサーが3つ星を取りにいくことを掲げる時代に、自身の腕一本で、無論スタッフや彼の熱量に動かされた人々の支援も追い風にして勝ち取った3つ星でした。

虎ノ門ヒルズ　ステーションタワー49階にオープンしたばかりの「KEI Collection PARIS」のオープニングパーティに参加させていただきましたが、その華やかなパーティーは、小林圭が自身の「ブランド構築」に成功したことを示す、大きな標であったような気がします。海外で活動する一人の日本人として、彼は誇りです。

と同時に、3つ星をおそらく目指している「Blanc」の佐藤伸一シェフは、今年1つ星獲得に止まり、上記に記載した空気を読み取って肩を落としているかもしれませんが、唯一無二の食卓を目指す佐藤シェフにとって、もはや星は関係ないところにあるのではないかとも思います。

自分の目指す世界さえ見えていれば、他者からの評価は関係ない。いかに、顧客を大切にしていくかこそが原点で、枠に囚われない店のエネルギーをぜひに追求していただきたいと思っています。

渥美創太シェフの「MAISON」は星はついていませんが、毎日満員御礼。ダイニングは、彼の料理を愛する人々で活気に満ち溢れています。ミシュランガイドには掲載されない通の店という貴重さを伝えるのは、新しいツールで、もしかしたらガイドという形ではないのかもしれないと思う、今日この頃です。