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山形に1週間滞在したらひょんなことから演歌デビューすることになった話

「あれよあれよと言うまに」とか「ひょんなことから」っていう言葉は
よく漫画や映画の冒頭説明なんかで使われているけど、
「おいおい、ひょんなことでそんなことになるわけないだろ」と思って今まではあまりピンときていなかった。

ひょんなことから宇宙生命体と付き合うことになったA子は……
あれよあれよと言うまに、気がつくと一国の姫になっていた

みたいな。

そういう表現ってズルいなと思っていた。
ひょんなことなんて、ありえないのに。

だがしかし、実際、私も思いっきり使うことになる。
ひょんなことから田舎町で演歌を歌うことになり、あれよあれよと言う間に演歌の小さなライブを開くことになる。びっくりだ。
これは、あまりにも適切な表現だった。

今回はそんな私のひょんなエピソードをお話したいと思う。

微住、してみない??

2022年秋。
ことの発端は、微住という企画に参加したことにある。
知り合いが「山形の金山町で1週間の微住体験を行います!参加したい人はぜひ応募してください!」という情報を流していたのをたまたま発見した。

微住ってなんだ?
と思いながらも詳細ページを読み込むと、
「移住ではなく、短い期間、暮らすような感じで微かに住んでみて、そこでの人との繋がりや体験によって地域の活性化を目指すこと」(私の雑な意訳)
みたいなことが書かれていた。

何度読んでもイマイチよくわからない。
だが、1週間、山形の山奥に滞在するということだけはわかった。

山形県の金山町というのは、山形駅からもさらに北へ数時間行ったところにある、
山に囲まれた自然豊かな小さい町だ。
Googleマップでみても、私の住む横浜からは驚くほど遠く、驚くほど山と田んぼ!!という風情で、なんかいいなぁ、とふんわり思った。
コロナ疲れの穴にどっぷりつかっていた時期だった。
広い空が見たい。新しい出会いがほとんどない世の中で、今しか出会えない人と知り合ってみたい。

自慢じゃないが、私のいいところは「よくわからなくても感覚的に面白そうだったら行ってみる」という行動力である。
なんて偉そうなことを言ってるけど、まぁ、要は1週間も突然仕事の休みを取れるくらい暇だったということでもある。

というわけで、第一ひょんなことが起こり、微住に参加することになった。

ひょんなことから、決まった演歌ライブ

今回の微住は、なんらかのクリエイティブ活動を行う人たちだけが集まった企画で、
私以外の参加者は写真家や映像クリエイター、デザイナー、木工アーティストなどがいる。もちろん全員、ここで初対面だ。私は絵本作家・イラストレーターとして参加した。

1週間を共にする、はじめましての方々

参加してみて初めて知ったのだが、微住はクリエイターがそれぞれ自分の持てる力を最大限に活かしながら、その町に貢献できるなにかを探して、1週間で成果物を作りあげることが最終ゴールなのだそうだ。

私は絵本作家として参加してるし、ということで、金山町に到着した翌日には、その町の保育園で読み聞かせをさせてもらった。
アポの取り方は超シンプル。ほとんどナンパみたいな感じで、たまたま通りがかった保育士の方に声をかけて実現させた。
絵本作家として先生方やママさんたちともお話をし、なるほど、私はきっとこんな感じで1週間を過ごすのだろう、と思った。

これまで読み聞かせイベントにたくさん参加しててよかった

そしてその日の夜。

みんなでホテルの部屋に集まって、よろしく〜ということで地酒で乾杯しながら自己紹介をすることに。
クリエイターというだけあってなかなかに個性が強いメンツが揃っている。

そして夜も深まった頃、微住の主催者である田中さんが
「カラオケができるマイクを持ってきたんですよ、小さい声でカラオケしません?」
と言って、YouTube等で音源を流しながら歌うことができるマイクを取り出した。

地酒を飲み、しんみりとした雰囲気の中、あまり歌う気配のない空気が漂う。
私は、とりあえず場を繋ぐためマイクを持った。

なにを歌おうか。椎名林檎? ちがうな。
ここは山形。そう、ここは北の宿……
ということで、私は都はるみさんの「北の宿」をぼそぼそ歌う。

それを聴いた主催者・田中さん。
「え!演歌いけるんですか! 演歌のデュエットとかできそうじゃないですか!」

「あ、面白そうですね〜」
と、そのときは雑に聞き流していたが、まさか本気でやることになるとはおもわなかった。

まさにひょんなことから、絵本作家として山形に来たはずが、なぜか演歌ライブを行うことになった瞬間である。

町の人たち、みんな巻き込みます

地元の有力者的存在の大工の棟梁が、演歌が好きでCDデビューもしているという。

その話を聞きつけた私たちは、翌日には棟梁の家にドカドカと上がりこみ、
「一緒に演歌歌いませんか!!????」
と話を持ちかけた。

めちゃくちゃ気さくで朗らかな棟梁。
突然の申し出にも関わらず、「おう!やろう!」の一言であっさり快諾してくれた。町の有志たちで作詞・作曲した「我が里」という地元の歌があり、その歌を歌うことに決まる。

突然やってきた私たちにも朗らかに対応してくれる棟梁

演歌のライブをするだけでは勿体ないので、せっかくならということでMVも撮ることになった。
幸い、微住で来ている仲間の中には映像クリエイターもいたため、突然のことでも対応できたのだ。

ただ、MV撮影ともなると地元の人たちの協力が必須だった。

そこで私たちは町の電気屋に行ってCDを借り、マイクや音楽機材、ライブを行う際のセッティングまでお願いした。

歌の練習は地元のスナックで行った。

ここしか大声で練習ができないのです

演歌を歌うなら着物が必要だ、と木工屋さんから振袖を借りた。

お茶屋さんのおかみさんが着付けと髪結ができるという話を聞いて、
着付けをお願いすることになった。

町の人たちが快く協力してくれたおかげで、あれよあれよという間に、
ステージとMV撮影の準備が整っていく。

たった1週間。

あまりにも短くて、人と仲良くなるには時間が足りないんじゃないか、繋がりを持つことはそう簡単ではないんじゃないかと思っていた。
でも、私の不安は杞憂に終わった。

「ののちゃん、ライブがんばって!」

関わる人たちからたくさん声をかけてもらう。
時間の短さなんて関係なかった。私が歩み寄るだけではなく、町の人たちも同じ速度で歩み寄って来てくれたから、時間は少なくても仲を深めるには十分だった。

そして怒涛のMV撮影、ライブ開催

一言にMV撮影と言っても、やることはたくさんある。
だけど1週間しか時間がないので、すべてが急ピッチにすすめられた。

朝一で着付けをしてもらい、どういう映像にするかという計画もなく撮影現場にいき、半日くらいかけて撮影。
意見を出し合いながらその場のノリと雰囲気でMV撮影を行っていったのだが、出来上がったものはその場のノリとは思えないクオリティのMVだ。
(↓↓まじですごいからぜひ観てください!!!)


そして写真家が撮影し、デザイナーがものすごいスピードでポスターを作成。
そのポスターを入れる額縁を木工アーティストが作成。まさにクリエイターたちがそれぞれの力を使って、ひとつの作品を完成させたのだ。
(だが、私の本業は演歌歌手ではなく絵本作家である)

がちすぎるポスター
今でも金山の商店に貼られているらしい

MV用に歌声を録音。棟梁も疲れているだろうにめちゃくちゃ付き合ってくれた。
すみません本当、無理言って。

何度も練習して本番に臨む棟梁。

それからまた数日後、私たちの滞在も残すところあとわずかというところで、ライブが開催された。
関わってくれた人たちがたくさん観に来てくれて大盛り上がりだった。なんか、最終回にこれまで出会ったキャラが全員集合してくれるみたいなエモい展開。
……うん、この例えだとなんかチープだけど、でもなんかそんな感じ。

そもそも人前で歌うのは初めて。着物のおかげでテンションがあがり、緊張はしなかった

私はこの短い時間で、町の人たちになにかを残せただろうか。
変なやつが来て、なんか歌って帰っていったな〜と、少しでも覚えていてくれるだろうか。

こうしてあまりにも早く、駆け抜けるようにして1週間が終わった。

微住、地元の新聞にも取り上げられました

仲良くなる秘訣は「自分から心を開くこと」

主催者・田中さんはこんな感じで様々な地域に赴き、微住プロジェクトをおこなっている。
短い期間でも、その土地の人と繋がり、旅行ではなく暮らすように滞在することで、「ふるさと」よりももう少しゆるい、ゆる里が生まれ、また帰りたいなと思う場所を作ることが微住の目的のひとつだと言っていた。
たしかに私は山形や金山というワードを聞くと「みんな元気かな?」と思い出している。これは、ただの旅行で観光地を巡っただけでは味わえない親しみを、その土地や人々に対して持つことができたからだろう。

いろんな土地で短期間で人と仲良くなる経験を積む田中さんに、「人と短期間で仲良くなるコツは?」と聞いてみた。

「3日間同じ店に通うことかな。1日目は顔見せ、2日目でまた来たなと認識してもらう、そうすると3日目には話かけてきてくれる」

なるほど、かなり具体的で役にたつ。
私も実際、金山微住ではほぼ毎日、魚屋さんや文房具屋さんなどの商店を挨拶をしてまわり、4日目くらいには家にあがってご飯までご馳走になった。

でもこれは、たぶん金山町の人たちがオープンで心の広い人たちだったからなのだろう。

魚屋さんのご自宅で食べたご飯。参加者みんなの分用意してくれてすごい量!
家に上がって、趣味で描いてるという絵を見せてもらったりも

演歌デュエットをした棟梁にも「なんでここの人たちはみんな気さくなの?」と聞いてみた。

棟梁は「ここは宿場町だったから昔から人の出入りは多いしよ、自分から心を開くっていうのが当たり前になってるのかもしれないなぁ。人の話をきくのは楽しいしなぁ」と笑う。
なるほどねぇ、とうんうん頷きながら話を聴いていると、「それに、」と付け加えた。

「人間は、みんないい人だからよ」

たかが1週間、されど1週間。
突然現れた私たちを受け入れて、心を開いてくれた金山のみなさん、今でも感謝しています。

お世話になった人たちに似顔絵をプレゼントしました
微住のZINE


稲葉野々.

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