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人生の選択肢を集める旅

思えば、生まれる前から決まっていたような気もする。

死んだ祖父は若い頃、ばら積み船の航海士として世界中の海を渡り、ビートルズに憧れた父は、当時の節約旅行のバイブル本「EUROPE ON $5 A DAY(ヨーロッパ1日5ドルの旅)」を携えて、1974年にたった1人で旅に出た。若き父は、フランスパンを買って三等分にし、朝昼晩の食糧にあてた。教会で施しを受け、夜は公園にテントを張って寝泊まりした。ユースホステルでは世界中から集まったバックパッカー達と酒を飲みかわし、スペインではなんと指名手配中の殺人犯にピストルを突きつけられたこともあったらしい。

そんな旅に関係の深い家系に生まれた私も多分に漏れず、初めて航空券を買って旅に出たのは大学3年生の9月。そして、そこで人生が変わるような旅をした。

「シューカツ」という言葉が脳裏にちらつきながらも、大学を出てどう生きようか、やりたいことがわからなかった。一方で、周りの友人は皆、早期化する採用選考に乗り遅れまいと、インターンや、素晴らしい社会人の先輩へのOB訪問に精を出していた。

そんな中、”スタンドバイミー”の映画の主人公たちように、旅に出て人生変わっちゃうような経験がしたい。
そんなことを思った私は、格安航空の中でも一番安かった、タイ行きの深夜便を購入した。
旅に出れば、人生が変わるとさえ思っていた。
場所はどこでもよかったけれど、もちろんお金はないので、安いところをと思って、バンコクにした。
購入して1分と経たないうちに、「ブーッ」というバイブ音が鳴り、【お支払い完了のお知らせ】という題名のメールが届いた。

旅が幕を開けた。

人生初めての一人旅。バックパックを背負って、実家の玄関を出た瞬間から、たくさんの人との触れ合いをした旅だった。
飛行機で隣に乗り合わせたお兄さん。彼らは、タイで起業するらしい。仕事の元同僚同士で、面白いことしようと仕事を辞めて出てきたそうだ。カオサンロードの近くに取った、安いバックパッカーホステルで出会った日本人の女性。大学4年生で、卒業後はマッサージ師として働く予定で、タイへは、タイ古式マッサージの資格取りに来たらしかった。・・・と、こんな調子で、序盤からたくさんの素敵な人達と出会った。

タイの、もわんとした空気と独特な匂いを胸いっぱいに吸い込みながら、これから自分が出かける土地のこと、出会う人のことを考えて、ワクワクが止まらなかった。

そしてこの旅のハイライトであり、その後の私の人生を大きく変えた出来事がある。
その日は、一人旅の5日間で、唯一予約していたアユタヤ遺跡へのバス旅行に参加する日だった。ツアーガイドとの待ち合わせ場所に時間通りに着いたのに、なぜか誰もいない。
序盤で幸運が起きすぎていたタイ旅行だったが、ついに運を使い果たしたか…。実は、ツアー会社なんてものは架空の会社で、「騙されたんだ。」そう思って途方に暮れていた。
諦めてはいたが、一応電話してみようと思ってツアー会社に電話をしたら、なんと違う日本人の女の子をピックアップしてツアーに連れてきてしまったとのこと。騙されていなかったという安堵感とともに、今度は、なんておかしな子なんだろう。タダでツアーに参加しようとする、とんでもなく傲慢な女性なんだろうと思っていた。
ツアー会社の担当の女性に指定された合流場所に向かうと、ショートヘアの女の子が駆け寄ってきた。

「本当に、ごめんなさい。私別のツアーに予約していたんだけど、名前、似てたから。勘違いしてしまったみたい。本当に、ごめんね。」
そう声をかけてきたのは、思っていたより、若くて美人な顔立ちをした女性だった。よくよく聞いてみると、”吉井”さんだそうだ。私は”石井”だから、確かにタイ人に呼ばれたら、違いがわからないかもね、と言って二人で笑った。そして驚くことに、同い年で、お互いが初めての一人旅だった。それから先は、同じバスに乗って、二人でツアーに参加した。「食べることが好きで健康に興味があるんだ」と話すめるちゃんの隣で、興味津々に彼女の話を聞く私。

ツアーが解散になった後、ナイトマーケットでビール飲みながら、「来年、ベトナムでインターンに参加しようと思っているんだ。」めるちゃんは話し始めた。
そこで、そんな生き方もあるんだ、と思い立った私は、その次の春、大学を1年間休学して、なんとミャンマーで働きながら暮らし始めることになる。

別に「ちゃんと」しなくていい。
いろんな世界がある、いろんな生き方があっていい。
中高女子校、有名な大学に通い、井の中の蛙だった自分に新しい光が射した。

旅は食材集めに過ぎず、そこからどう調理していくかは自分次第。
人よりも好奇心が強かったから、というのは理由の一つではあるけれど、
旅に出る、そしていろいろな選択肢に触れる、集める、整理する。その過程で人生が変わる気づきがたくさんあった。 旅そのものよりも、旅から帰ってきた後に価値がある、と思う。
自分の感情が揺り動かされる感覚がとっても愛おしい。

また旅に出たい。

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