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【童話】ワープ

ワープ


 「つばさくん、痛かったら右手を上げてね」
 歯医者の先生は、優しい声でいつも同じことを言う。ぼくのママより少し若そうな女の先生だ。
 でもぼくは、「痛い!」と声を出す前に手を上げられたことなど、一度もない。まだ小学校2年生だからだろうか。大人はみんなちゃんと手を上げられるのかな。
 もうすぐ夏休みだ。そしたらぼくも8才になる。


 キーン、カチャカチャ、グワン...。
 先生が機械や道具の準備をしている音がする。
 あ~怖い! すごく痛かったらどうしよう...。やっぱり、ママに付いて来てもらえば良かった...。 

 今日、ライバルでいじめっ子のつよしくんに学校で、「や~い、つばさくんはまだママといっしょに歯医者さんに行ってるんだって!」とみんなの前でからかわれた。だから、心配するママをお家に残して、ひとりで歯医者さんにやって来たのだった。

 でも、やっぱり怖い! 怖い! 怖~い!
 あ~、どうしよう! もう、からかわれたってかまうもんか! ママあ! 助けてえ!

 「つばさ...、つばさ...、何やってるの?」
あ! ママの声だ! やっぱり来てくれたんだ!
「早くしましょう。予約の時間におくれるわよ」
そう言いながら、ママはぼくを軽くゆすった。
「おにいちゃあ~ん、なにしてるのお?」
3才になった妹のユキの、おっとりした声まで聞こえる。
 不思議に思いながらそっと目を開けてみた。
 びっくりした!
 ぼくは、口を大きくあんぐりと開けて、体中をこわばらせながら、お家のソファーに横たわっていた。
 ぼくは飛び起きてさけんだ。
 「あれ? どうして? ママ、ぼく、ひとりで歯医者さんに行ったんだよねっ?!」
 「まあ、つばさったら...。夢でも見ていたのかしら? お家に帰るなり、”今日は一人で歯医者さんに行く”ってがんばっていたかと思ったら、とつ然、”やっぱりママ、いっしょに行って~!”って言い出すから、ママは急いでお出かけの準備をしたところじゃないの...」
 「そんな...!」
 そんなこと、ゼッタイない! さっきまで、ぼくは確かに歯医者さんにいた!
 しん察いすのひじかけをにぎりしめていた手も、まだ痛い。少し効き過ぎていたエアコンの寒さだって、体に残っている。
 それなのに...。
 「あ!」
 ぼくは、はっと思い出した。今日、学校の帰りに起こった出来事を...。

 家の近くの大通りにバス停がある。そこのベンチのかげで、ひとりのおじいさんが、つえにしがみつくようにしてうずくまっていた。ぼくは、しばらく見ていたけれど、通り過ぎる大人たちはみんないそがしそうで、だれも気が付いてくれなかった。
 あんまりつらそうに見えたので、ぼくは「どうしたんですか? ぼくのお家はすぐ側だからママを呼んできましょうか?」と声をかけた。
 すると、そのおじいさんは顔を上げ、長くて真っ白なあごひげをゆらしながら、「いいんじゃ。大人を呼ぶ必要はない。でも、もし、ぼうやが助けてくれるなら、あっちのナマズ川まで連れて行ってくれないか?」と言った。
 ナマズ川なら、ここから100メートル位だし、ぼくの家のすぐ先だ。
 ママからいつも、「知らない人に付いて行ってはいけません」と言われているけれど、「知らない人を連れて行ってはいけません」とは言われていない。
 ぼくは、おじいさんをちゃんと支えてあげられるかどうか自信がなかったけれど、「いいですよ」と答えた。

 ぼくの肩につかまったおじいさんは、思ったよりずっと軽かった。ぼくは、ほとんどおじいさんをおんぶするようなかっこうで、ラクラクおじいさんをナマズ川まで連れて行ってあげられた。
 土手に立った時、ぼくはおじいさんに「ここでいいですか?」とたずねた。するとおじいさんは、「もっと水の近くまで連れて行ってくれんかね?」と言った。
 ぼくは、おじいさんを連れて土手を下りた。そして、いつも遊んでいる広い河川じきに作られた公園をぬけて歩いた。
 暑いせいか、公園にはだれもいない。ぼくは、公園の一番はじっこにあるベンチの横を通り、みんなで水遊びをする浅せの川岸までおじいさんを連れて行った。

 おじいさんは、ゆったり流れている大きな川の岸に立つと、「ぼうや、もうここでいい。ありがとう」と言った。
 こんなところでだいじょうぶなのだろうか、と思いながらぼくがおじいさんの顔を見ていたら、「ぼうや、心配しなくてだいじょうぶじゃよ。親切にしてくれたから教えてあげよう。わしはここに住む”ナマズ”なんじゃ。陸の上は暑過ぎてバテてしもうた...」
「ナマズ?」
「そう。こんなにつかれてしもうたら、ワープはできん...」
「ワープ?」
「そう。時間と空間をこえて、なりたいもの、行きたいところに自由にしゅん間移動することじゃ。ナマズは、一生に10回だけワープできるんじゃよ」
「すご~い!」
「お礼に、ぼうやにワープを3回分けてあげよう。でもこれは絶対に秘密じゃぞ! さあ、もう行きなさい」
 おじいさんはそう言うと、いたずらっぽい目をして笑った。
 ぼくは、なんだかフワフワした感じがして、もう少しおじいさんと話したいような気がしたけれど、歯医者さんの予約を思い出したので帰ることにした。
 なんとなく気になってふり返った時には、おじいさんの姿はどこにもなかった。 

 もしかして、これがワープ?
 ぼくは、信じられなかった。
 でも、だれが何と言おうと、ぼくはさっきまでまちがいなく歯医者さんにいた! そしてママに付いて来てもらえば良かったってすごく後かいして、心の底からそう思って、気が付いたらお家のソファーで横になっていた...。歯医者さんに出かける前の時間にもどっていた...。
 そうだ! やっぱりぼくはワープしたんだ!
 すごい! すごいぞ~!
 「おにいちゃん...どうしたのお?」
 妹のユキが、また不思議そうにぼくの顔をのぞきこんだ。
 ぼくは、興奮してさけび出したいくらいだったけれど、このことは絶対に秘密にする約束だ。それに、ママに言っても信じてくれないかも知れないし、しかられた上に「知らない人をどこかに連れて行ってはいけません」という、”いけません約束”がひとつ増えてしまうかも知れない。
 「さあ、つばさ、早く歯医者さんに行きましょう」
「う、うん...」
 ぼくは、かろうじてママに返事をすると、げん関に向かった。

 歯医者さんでは、さっきぼくが来たことなど全くなかったように、いつも通り治りょうをしてもらった。そしてぼくはいつも通り、痛くてちょっぴり泣いてしまったのだけれども...。 

 やっぱり、ぼくは時間を完全に逆もどりしたんだ! すっごいぞお~!
 おじいさんはあの時、ワープを3回分けてくれるって言ってた。ということは、あと2回残っていることになる。
 ワア~、最高だ~! 何に使おう...。
 歯医者さんで、痛さにまた泣いてしまったことも、かわいい妹の前でたよりないおにいちゃんを見せてしまったことも忘れ、ぼくはひとりでニヤニヤしながら、ママとユキといっしょに歯医者さんからの帰り道を歩いていた。

 明日は苦手の算数のテストがある。明日、テストの問題が配られてからワープを使って今夜にもどり、ママに答えを出してもらってテスト用紙に書きこんでから、テストの終わりごろの時間にまたワープしようかな。算数が得意のつよしくんよりもいい点数を取って、見返してやる!
 ああ、でもそうしたら、カンニングだよねえ...。いけないことだよね。やっぱり、それはやめようかな。
 そうだ、サッカーの試合の時に使おう。ボールを持った時、そのまま20秒ぐらい前にワープしたら、だれにもじゃまされずにすごくかっこいいゴールが決められるぞ!
 でも、それもちょっとずるいことかなあ...。どうしよう...。悩むなあ...。

 「だれかあ、助けてえ~!」
 とつ然、女の人のさけび声が聞こえた。
 ワープの使い道をあれこれ考えながら歩いてきたら、いつの間にかもうナマズ川の土手に来ていた。
 声がする方を見て、ぼくたちはおどろいた。
 小さな女の子が、広いナマズ川の真ん中くらいまで流されている。川の下流に見えるナマズ橋のすぐ上には、太陽がかくれようとしていてまぶしかったので、ぼくたちはみんなで目を細めて女の子を見た。
 「まあ!なつみちゃん!」
 ぼくのママが大声をあげた。
 なつみちゃんというのは、ユキの同い年のお友達だ。なつみちゃんには、まだ歩けない小さな弟のりょうくんがいる。
 なつみちゃんのママはりょうくんをだいて、さっきぼくがナマズのおじいさんと別れたあたりでさけんでいた。

 ぼくのママはぼくたちに、「ここで待っててね!」とちょう早口で言い残すと、なつみちゃんのママのところに全速力で走って行った。
 ぼくは、今までこんなに速く走るママを見たことがない。のんびりやで走るのがおそいママは、「お上品だから速く走れないのよお、オッホッホッホ」なんていつも言ってたのに...。

 ママはなつみちゃんのママとひとことふたこと話をすると、またぼく達のところまで必死で走ってもどってきた。そして息をハーハーさせながら、「ママは、ハー、救急車にお電話するからね、ハー。2人はここで、ハー、ハー、だれか通ったら、ハー、だれでもいいから、ハー、み~んなに助けてもらうようにたのんでみて、ハー。つばさ、いいわねっ! ハー」と言うと、おもむろにスマホを取り出し、ぼく達から少しはなれて電話をかけ始めた。

 その間にもなつみちゃんは、夕日に向かってどんどん流されている。なつみちゃんの頭は、水面に見えたりかくれたりしていた。
 「ねえ、おにいちゃ~ん、どうしよう...」
 ユキが、ぼくの足にだきついて泣き出した。ぼくは「きっとだいじょうぶだよ」と言いながら、しゃがんでユキをだきしめた。

 でも、ぼくは心の中で、なつみちゃんがたいへんなことになっているのは、なつみちゃんのママが悪いからだと思っていた。

 なつみちゃんのママは、まだ3才になったばかりのなつみちゃんをいつも、ガミガミおこってばかりいるか、放っておくかのどちらかだ。
 ぼくのママに対しても、「なつみは泣き虫だし、わがままでしょうがない」とか、「子育ては、ホントにつかれてたまらない」とか、「自分の時間がぜんぜんなくていやになる」とか、なつみちゃんの悪口やぐちばかり言っている。なつみちゃんのママは、なつみちゃんより自分のことの方が大事なんだなっていつも思う。
 ぼくのママは、そんななつみちゃんのママの話を、何も言わずにうなずきながら聞いてあげているのだ。
 ぼくのママは、ぼく達にそんなことを一度も言ったことがないし、家事をしていて危ない時や連続ドラマの重要なところを見ていていそがしい時以外、いつもぼく達といっしょに楽しそうに遊んでくれる。
 ぼくが歯医者さんで泣いたって、「泣きたかったら泣いてもいいのよ。ママだって泣きたい時は泣いちゃうんだから...」って言ってくれる。
 ぼくは、ぼくのママが大好きだ。もちろん、ぼく達が悪いことをしたらすごくおこることもあるし、あんまり美人じゃないかも知れないけれど、いつも明るくて、優しくて、何よりぼくとユキの気持ちを一番分かってくれている。何があってもぼく達を絶対に否定したりしない。心から信じられる。

 でも、なつみちゃんのママといっしょにいる時のぼくのママは、正直言ってあまり好きじゃない。ぼくは、ママが毎日ぼく達に「つばさとユキは、パパとママの一番大切な宝物よ。つばさとユキがいてくれるだけで、パパとママはホントに幸せなの」って言ってくれてるように、なつみちゃんのママにもなつみちゃんにそう言って欲しい。
 だって、なつみちゃんのママの話を聞いていると、ぼく達の存在そのものが悪いみたいに感じてきちゃうから...。なつみちゃんは本当にかわいそうだ...。

 「ねえ、おにいちゃん、おにいちゃ~ん! なつみちゃんのこと、助けてあげて~!」
ユキが泣きながらさけび出した。
「そんなこと言われたって...」
さっきから、だれも通ってくれない。
なつみちゃんは今、ぼくが歯医者さんで怖い思いをするより、何十倍も、何百倍も、苦しいにちがいないんだ。
早く助けてあげたい...。
 なつみちゃんは、だんだん水面に顔を出す回数が少なくなってきている。
 なつみちゃんのママは、りょうくんをだっこしながらなすすべもなく、ただなつみちゃんの名前をさけび続けている。
 夕日はもうナマズ橋にかかってきた。
 ぼくのママは、せっぱつまった感じでまだ電話をかけている...。
 もしかしたら、間に合わないかも知れない!
 そう思うと、ぼくはあせって、ドキドキして、足がすくんだ。
 どうしよう...。
 そうだ! ワープ!
 ぼくは、ちょっとためらった。
 でも、すぐに決めた! やってみよう!

 ぼくは、目を閉じ、必死で念じた。
 川に落ちる前の、なつみちゃんのそばに行きたい...。
 川に落ちる前の、なつみちゃんのそばに行きたい...。
 川に落ちる前の、なつみちゃんのそばに行きたい...。

 川の流れる水の音が、すぐ近くで聞こえた。目を開けると、2メートルくらい先に、なつみちゃんがいた。
 「カエルさ~ん! カエルさ~ん!」と言いながら、ぴょんぴょん飛びはね、かえるを追って遊んでいる。
 なつみちゃんは、川岸まであと3メートルくらいのところにいた。
 そこは、川岸がコンクリートになっていて水面からずいぶん高く、すぐ下の川の流れも速くて危ない場所だ。
 なつみちゃんのママを探すと、ずっと遠くに見える河川じきの公園のはじっこにあるベンチで、りょうくんをだっこしながら川の向こうをながめていた。なつみちゃんがこんなに遠くまで来てしまっていることに、ぜんぜん気が付いていない様子だ。

 なつみちゃんは、カエルだけしか見ていなかった。
 ぼくは、急いでなつみちゃんの前にまわり、カエルをつかまえた。
 「あ、ユキちゃんのおにいちゃん!」
 「なつみちゃん、こんにちは。ここは危ないからあっちで遊ぼうか...」
 ぼくがそう言うと、なつみちゃんは素直に「うん!」と笑顔で返事をし、またぴょんぴょん飛び跳ねるようにしてぼくに付いて来た。
 ぼくは、ひとまずホッとした。ぼくの手の中では、カエルも飛びはねていた。

 ぼくは、なつみちゃんのママに気が付かれないように、なつみちゃんのママがいる真後ろの、いちばん土手に近い所まで行った。
 ぼくは、そこでなつみちゃんに聞いてみた。
 「なつみちゃん、ママのこと好き?」
 するとなつみちゃんは、大きな目をかがやかせて、「うん!だあい好きだよ!」とはじけるような笑顔で言った。
 「そっか...なつみちゃん、ほら、あそこになつみちゃんのママがいるでしょ? あんまりママから遠くにいかないでね」
 ぼくはそう言って、そこでてのひらを開いた。
 カエルが勢いよくぼくの手から飛び出すと、なつみちゃんはまたそのカエルを追って、河川じきの公園の中をママがいる方へぴょんぴょん飛びはねて行った。
 ふ~良かった...。
 これで...良かったんだよね、きっと...。

 ぼくはまた目を閉じて念じた。
 さっき、なつみちゃんのママのさけび声を聞く前の土手に行きたい...。
 さっき、なつみちゃんのママのさけび声を聞く前の土手に行きたい...。
 さっき、なつみちゃんのママのさけび声を聞く前の土手に行きたい...。

 「そうねえ、じゃあ結局、今夜のお夕食は何がいい?」
 ママの声だ。
 目を開けると、ママとユキとぼくの3人で、ナマズ川の土手を歩いていた。ふり向いたら、太陽はナマズ橋のすぐ上にかくれようとしていて、さっきと同じようにまぶしかった。
 ぼくは、なつみちゃん達を探した。
 すると、りょうくんをだいたなつみちゃんのママが、なつみちゃんといっしょに河川じきの公園のベンチでおしゃべりをしていた。
 ぼくのママも、ユキも、なつみちゃん達もおたがいに、近くにいることに気が付かないようだ。
 なつみちゃん達の姿はオレンジ色に染まり、幸せな親子のかげ絵みたいに見えた。
 これで良かったんだよね、たぶん...。

 「じゃあ、シチューに決まりね! いいでしょ? おにいちゃん?」
 「それとも、今日は暑いから、つばさは冷やし中華かカレーの方がいいかしら?」
 ユキとママが歌うように笑顔でぼくの顔を見つめた。

 
 その時、前方で立ち止まってもめている親子が目に入った。
 あ! つよしくんとつよしくんのママだ!
 ぼくは心の中でさけんだ。ぼく達は夕日を背にしていたので、つよしくん達はぼく達に気が付いていない。
 近付くに連れて、つよしくんのだだっ子のような声が聞こえてきた。

 「やっぱり歯医者さんに行くの、今日はやめようよ、ママ! ぼく、行きたくないよお...。おねがあ~い、ママあ~!」
 つよしくんは、つよしくんのママの手を引っ張って、そこに座りこもうとしていた。ぼく達は、つよしくん達のすぐ側まで近付いた。そこでつよしくんは、やっとぼく達に気が付いた。

 つよしくんは、すごくびっくりした様子で、だだをこねるのをピタッとやめ、泣きべそ顔のまんま、ぼくをじっと見つめた。
「こんにちは!」
 ぼくのママが明るくつよしくん達にあいさつをした。そして「つよしくん、どうしたのかなあ?」と、優しくつよしくんに話しかけた。
 「つよしったら...歯医者に行きたくないって、このとおり...!」と、つよしくんのママがちょっとおおげさにおどけて困った顔をした。

 いつものぼくだったら、「なあんだ、つよしくんだって歯医者さんが怖いんじゃないか! ママといっしょじゃないか! 明日、学校でみんなに言ってやる!」とさけんでいたと思う。
 でもぼくは、そう言う代わりに、「つよしくん、ぼくも今、歯医者さんに行って泣いちゃったんだ。ほんのちょっとだけどね。つよしくんもがんばって!」と言った。

 つよしくんは、しばらく固まってしまったように動かなかったけれど、やがてニッと笑うと、「うん、ありがとう!」と言った。
 ぼくは、なつみちゃんのママと話している時のぼくのママの気持ちが少しわかったような気がした。

 つよしくん達と別れた後、ぼくはママとユキに言った。
 「夕食のことだけど...ぼくはどれでもいいよ。ママのお料理は何でもおいしいから!」
「まあ、くいしんぼうのつばさく~ん! どうしたの? パパみたいなこと言っちゃって...」
 「おにいちゃん? だいじょうぶかなあ」
ママとユキがふざけて笑い出した。
 「つばさ、どうもありがとう! ママ、すっごくうれしい~!」
 「ユキも、すっごくうれしい!」
と言いながら、二人ともぼくに思いっきりだき付いてきた。

 ぼく達の笑い声もオレンジ色に染まった。
 どこかから、風りんの音が聞こえてきた。
 なんだか、とっても気持ちがいい。

 やっぱり、これで良かったんだ...。
 ぼくは、心の底からそう思った。

 でも、やっぱり...ちょっともったいなかったかなあ...。


      終      


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