ポリシーに反することを思わず言いたくなってしまった話


 社会人になると出会いが無くなるらしい。


同級生や先輩から散々脅されて、
残りの大学生活が1ヶ月を切った頃、わたしは焦っていた。

 30までには結婚したい!
 できれば25くらいで結婚したい!

なぜか強迫観念のようにそう思い込んでいた。
なんかの呪いにかかっていたかのようだった。


ただでさえ不安な社会人生活を前に、
さらに不安が上乗せされてきたのである。

そこで、ぬかりのないわたしは保険をかけることにした。


その日二人で飲む約束をしていたのは、
就活の時に出会った、この辺では一番いい大学出身中央省庁への入庁が決まっている明らかに童貞の男Sだった。

Sはどう見ても童貞だし、なんかそういうオーラが出ていたし、
明らかにやることなすこと童貞だった。

とはいえ見た目はまぁそこまで悪くない。
頭もいい。
就職先もいい。
友人期間もあったしまあ問題ないであろう。


普通に2人で友達として飲んでいた飲み会の終盤、

「30までにお互い結婚していなかったら、結婚しようよー」

と切り出してみた。


ベタなセリフだが、仲の良さ的にもSならイケr…じゃねぇ、
断られないであろうという確信があった。



そもそも保険、あくまでも保険である。

30歳まであと7年くらいあった。
7年もあればお互いどうなるかわからない。

保険、あくまでも保険なのである。(2回目)


急に自分が土俵に上げられてテンパるS。

主導権を握りたいのか、

 「じゃ、じゃあそれなら今日ホテルとか…」

と言い出した。


最後まで言わないうちに、

 「良いけどホテル代は出せよ」

あっさり言ったわたしにSは驚いていたが、
一刻も早く保険の契約をしたいわたしはそんなの知ったこっちゃなかった。



居酒屋を出ると、明らかにソワソワしているS。

「じゃ、じゃあここでキスとか…」

道のど真ん中である。
終電もない夜中とはいえ、まぁまぁの人通りがあった。


まぁしょうがねぇ、童貞君の記憶に残してやるか。

外だけど軽くキスくらいはいいかと思った。
(わたしも酒飲んでてまぁまぁ頭がおかしかった…)
(そもそもこの話の最初から頭がおかしいのは置いておこう)


どちらからともなく顔が近づいて…




ガッチーン!!!


ギャグ漫画みたいに歯と歯でガッツリ当たった。

顎に振動が伝わる。

いやそんな本気で歯と歯がぶつかることある????

勢い〜!!!!




あずきバー噛んだ時くらいの衝撃はあった。
正直、歯が折れたかと思った。
(もちろん折れてはいなかったが)



わたしは思った。
「今夜は絶対うまくいかないな」
と。


だけどワクワクもしていた。

『どうせうまくいかないけど、
 絶対いつかネタにするから良いんだ☆』
って。

 (※どこでネタにするんかって、何年も経って今このnoteでネタにできていますありがとう!)



お互いの顎を慰めつつ、

 「俺実は童貞なんだ」

と深刻にカミングアウトするSの話を

 「知ってたよー、バレバレじゃん?」

とおちょくりつつ近くのラブホに入った。



童貞Sは何もかも新鮮のようで喜びに震えていた。

わたしはだんだんと後悔し始めた。


わたしにメリットなさすぎじゃない?
いや将来の約束のためなのか。保険よ保険!

っていうか現時点で好きでもないしな…。
何してるんだろうほんとに…。


しかし不安の解消のためである!
よりよい将来(?)のためである!

万が一のために備える、それが保険なのである!


Sのテンションがどんどん高まるたび、
わたしのテンションがどんどん下がる。

始まる前に先に賢者タイムが来てしまったが、

わたしは義理堅いので、
しょうがない、わたしで卒業させてあげようと思っていた。
(なんでこんなに偉そうなんだろうね)


Sの初体験の思い出にわたしの顔が刻まれる。
いや刻みたいかって言ったらそうでもないけど。

一生消えない思い出に居座ってやる!
いや別に居座りたくはないけど。


というわけでお互いにシャワーを浴びて、
前菜的なんやかんやの事があった。
(と思う。正直この辺の記憶がない。)


そして、Sの卒業式が執り行われる…

まさに執り行われている…時に!

二人が一つに…的な時に!!!





Sは全身でプルプルと震えだしたのである。



は???????



卒業に感極まってるのかと思ったがそうではない。

「喜びに震える」を体現してるわけでもない。



どうやら彼はセッ久をしているつもりっぽいのだ。




え???????

どうしろと??????



自分の上に乗っかっている男が、
全身の微振動を続けている。




さすがのわたしもちょっと驚き慌てた。
(もちろん顔や態度には出さないが。)



人間ってそんな震えることある?
ってかこんなに全身が震えてる人初めて見たわ。

寒いのか?
病気??


っていうか、なんか、セミみたい…

こういうの、夏の終わりによく見る気がする。
でも今は春だ。
春に間違って出てきちゃったセミじゃん。
予定より早かったんか、遅かったんか…
たぶん遅い方やろなぁ…?


え、てか大丈夫??
死んだ??
まだ生きてる???


何か言ったほうがいいのかなー
こっちが動いたほうがいいのかなー
でもめんどくさいなー
どうしようかなー
どうせすぐ終わるだろうしなー


などと思ってたらマジで終わった。

S、挿入して微振動して、すぐに果てるの巻。


え、もう!!!!!!!
唐突ー☆


最初からなんとなくうまくいかないだろうな、とは思っていたけど、

まさかセミとセッ久(いや、相手はセミだったかもしれんから交尾になるのか?)をする羽目になるとは思わなかった。


えーーー何これ。
どうしよう、ノーカンでいいっすか???



わたしが何か言えばよかったんでしょうか?
「震えてないで上下、前後に動けよ!!」とか???

でもそういう間も無く終わってしまったし…。


マジで、

AVを見ろ!!!!!
参考にしろ!!!!!

と言いたくなった。


わたしだってほんとはそんなこと言いたくない。

AVは男性向けのファンタジーであって、
ガシマン野郎(リンク)が量産されたり、
変な言葉責め野郎(リンク)が爆誕したりするから、

ほんとはそんなこと言いたくないけど!!!!!


AVを見ろ!!!!
参考にしろよ!!!!!

と言いたかった。
心の底から言いたかった。


いい大学!!!行ってるんだから!!!
お勉強は得意なはずでしょ!!!!
予習しとけよ!!!!!



よく微振動でイケましたね…?
童貞の神秘である。




ちなみにSとはこの日以来もう会っていない。

SってまさかセミのSだったん??




そして保険の甲斐なくわたしは27歳で別の人と結婚した。



S、今頃何しているんだろう。
元気でいるといいなぁ…


とは思わん別に。

共通の友達から死んだとは聞かんからまぁ元気やろうとは思う。



彼の現在の相手(居るかは知らん)のためにも、
普通に腰を振れるようになっててくれよな!

とも思わん別に。




※決して童貞を馬鹿にしているわけではなく(セミだった彼のことを馬鹿にしてはいますが)、当時のメンタリティのまま書いたらこんなことになってしまいました、ごめんなさい

童貞をバカにしたせいでしっぺ返しがきた話もあるので、
更新したらこのへんに貼っておきます!

↓このへん

※「恐怖の微振動男」というタイトルにしようと思ったけど
 思いっきりネタバレするのでやめときましたw

本を買って読んで語彙を増やしたり、楽しいことをしようと思っています!それでまたネタを増やして記事を書きますね!!!