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始まらなかった恋 ④/6 「合コン」

前回の話はコチラ↓

若い頃に合コンはいくつもやったけど、この日の事は忘れられない。

1995年3月

高校の卒業式まであと数日となった日、ついに私と久我くん主催の合コンが開催される事になった。
女子メンバーは、S美、B子、Y子。

S美から、
「アヤちゃん、この合コンは勝負だと思って挑みな。わかった?いつものように盛り上げ役はやらなくていいから、アヤちゃんは久我とくっつく事だけを考えればいいから」

B子からも、
「アヤチ、盛り上げるのは私達に任せて!アヤチなら行ける!頑張れ!」

Y子からも、
「アヤちゃん、この前の時みたいに控えめキャラでいいからね。久我なら行ける、絶対行ける、頑張れ!」

そんな感じで、私はみんなから(特にS美)
「さり気なく隣の席に座る」とか、
「どさくさに紛れて手を握る」とか、
「酔ったフリしてしなだれかかる」とかの、ベタでベタ過ぎるテクニックを伝授され、入念に入念な作戦会議をして合コンに挑むことになった。

みんなありがとう!
私頑張る!

ということで、
当日私はいつもとちょっと違うテイストの装いをして、合コンの待ち合わせ場所の渋谷ハチ公前に向かった。

そこで私は女子メンバーに会うや否や皆に爆笑された。

「ちょっとアヤチどうしたの?」
「アヤちゃんウケる。でも似合ってる」
「キャー、アヤちゃんかわいい!」

「おしとやか系と言ったら、こんなん出ましたwww」

S美「だからそういう小ネタとか出さなくていいから!今日は笑いを封印しなさいね!いい?今日は久我を落とす事だけを考えればいいから!私達に任せて!」
(ビックリマーク多過ぎだけど、それだけの気迫をS美からは感じられたw)

そして、、、

あ、久我くんいた。
え?
なにあれ?
男子メンバーあれなの?
ちょっと待ってちょっと待ってお兄さん


イケメン揃い


高校生最後の合コンがこれかよ。
ってか、もう少し早く出会いたかった。

でもね、顔も格好も凄くカッコイイんだけど、それこそいかにも都心の男子校に通うおぼっちゃま感を醸し出してるんだけど、なぜかね、どうにもね、

怖い雰囲気がある


なんなのコレ?
なにモンなのコイツら?

「久我く~ん、お久しぶり~(ふ)」←(ふ)はもちろん心の中で

私は満面の笑みを作り久我くんに話しかけた。一瞬私の顔を見て久我くんが変な顔をしたけど、そんなことは気にせずにちょっと怖いけど男子メンバーにも挨拶をした。
「アヤです。今日はよろしくお願いします」
そこで振り返って女子メンバーを見ると、、、


固まってる

引き攣ってる

完全にビビってる



目の前の上級レベルの容姿を持つ男子メンバーを見て、明らかにビビり散らしている。

S美「ヤバイ、アヤちゃん私無理だわ」
B子「何話していいか、私わかんない」
Y子「ごめん、ちょっと帰ってもいいかな」

やべー、これはやべー
久我の野郎、とんでもないの連れてくんじゃねーよ
と思ったけど、やるしかない
やるしかないのだ

そして、満を持して始まったが


全く盛り上がらない


女子メンバーがビビり散らしているのもあって、イケメン達もなんだか不機嫌になっている。恐らく、私が女子メンの選択をミスした事は否めない。男子達はコギャル軍団がお好みだったかもしれないが、私達はファッションもバラバラで統一感が無くて、MAX現象になれていなかった。

MAX現象とは?
一人一人の顔面は大したことないのに、グループの統一性があるが故、あたかも美人グループとして認識されること

AYA辞典より引用

やべー
これはやべー
ヤバすぎるぞコレは

そう思ったのは私だけではなく、どうやら久我くんも同じことを思っているようだった。私は久我くんにアイコンタクトを送ろうとするが、さっきから久我くんの私を見る目がどうにもおかしい。何かを疑っているような目で見ている気がする。

まぁそんな中でも、久我くんは一生懸命盛り上げようとしていたけど、それも虚しく時間だけが過ぎようとしていた。

やばい
これはやばすぎる

私はそこで一人、トイレに立った。
トイレで用を済まし、手を洗い、鏡に映る自分を見た。
いつもとちょっとテイストが違う自分を見ながら私は思った。

自分主催の合コンを盛り上げられないなんて、私はそれでいいのか?
このままだと女が廃るんじゃないのか?

あの男子メンバーはイケメンかもしれないけど、ちょっと怖いかもしれないけど、所詮は18歳の男子だよ。

よくよく見れば、地元の宮沢とかヒロミとかと顔面的には同レベルじゃないか。アイツらと同じだよ。じゃ、地元のアイツらが私に求めてるのは何か?可愛さか?癒しか?違う違う、そんなんじゃない、アイツらが求めているのは、、、

私は鏡に向かって髪の毛をガッとつかみ、気合いを入れ直した。


「お待たせしましたー」

私がテーブルに着いた途端、一斉に静まり返ったと同時に一気に笑いが起きた。そして両手を広げて、

「カツラ取っちゃいましたー」


私はその日の合コンに、元カリスマ美容師の母の部屋から見つけたロングヘアーのカツラを被って挑んでいたのだ。久我くんに気に入られるために、おしとやか系を演出するために、カツラを被って挑んだのだ。

久我くんが速攻に、

「マジでおかしいなと思ったんだよ!夏に会った時は金髪のショートで、この前電話した時に「ベリーショートになっちゃった」とか言ってたから、そんな短期間でこんなに伸びんのかって、ずっとおかしいと思ってたんだよ。
ってか、

ヅラかぶってんじゃねーよwww」

女子メンバーの「あちゃー」といった顔と、男子メンバーのビックリする様子を見て、私の暴走は始まりを見せるのだった。

「さー、みんなー、気を取り直して山の手戦ゲーム行くよー!
負けた人は、男も女もこのヅラ被って飲むからねー!行くよーーー、せーの!」

そこから先は久我くんも一緒になって盛り上げてくれたので、私達のテーブルは異様な盛り上がりをみせるのだった。

最初は、ゲームに負けた人が普通にヅラを被って飲んでたんだけど、ヅラは一度被るとハマるのか、イケメン達は「俺も俺も」と自ら被り、どんどん酒の量もヒートアップして、そのうち「モノボケ」ならぬ「ヅラボケ」までもが始まった。

S美がアタフタしながら「宅八郎」をやり、何かを振り切ったB子がヅラを脇の下に持ってきて「黒木香でございまーす」と下ネタをぶち込むと、さっきまで怖さ全開だった男子メンバーたちも、ヅラを下半身に持っていく激し目の下ネタをやったり、ビールのジョッキにヅラを被せて人形のように髪を愛でるヤツもいた。

こんな感じで、私たちのテーブルではひっきりなしにヅラが宙を飛び交い、それぞれ競うようにボケも飛び交っていた。

って、どんな合コンだよwww

それにしても、さっきまで物凄く怖い雰囲気で背中のタトゥーをチラつかせていた男子が、私に向かってゲラゲラ笑い、

「俺、これまで何度も合コンしてきたけど、ヅラ被って来た女なんて初めて見た。なんだよヅラってwwwおい!ヅラ女!」

あまりにもヅラ女ヅラ女とうるかったから、私はこの後タトゥー男に飛び蹴りを決めたのだった。

って、ホントどんな合コンだよwww

終盤になり、それぞれの男子と女子が普通にまったりと和やかに会話をするようになり、私はようやくそこでホッとした気持ちになれた。すると隣のB子が、

「ちょっとアヤチ、久我くんのこと見てみなよ」

そこには、散々盛り上げるのに疲れ切った久我くんが、私のヅラを被りながら、酔いつぶれてビールを飲んでいる姿があった。

「ちょっと久我くん、ヅラ、ズレてるよ!」

私がツッコミを入れると、久我くんは無言でヅラを被りなおし、ビールを一口飲んで、そしてまた潰れた。

あ、またズレたwww

「久我くん、ヅラ、ズレてるよ!!!」




こうして、伝説のヅラ合コンは幕を閉じるのだった・・・


(*18歳での飲酒は固く禁止されています)


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