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オーダーメイド センパイとコウハイ

チロリンチロリン

ここは老舗のオーダーメイドスーツを取り扱う、テーラーニノミヤ

初めて来たけど、高級感というよりアットホームだけどなんだかオシャレでいい感じだわ。

店内にはセンスのいいハウスミュージックがささやくように流れている。

「ふーん」

私は小さく呟くと、成人式を控えた息子と一緒に店内に入り声をかけた。

「すみませ~ん」

店の奥からアラフィフくらいの感じのいい男性が出てきた。

「いらっしゃいませ」

「高島です。スーツ取りに来ました」

3か月前に82歳の父が、孫の成人式の為にオーダーメイドのスーツを作りにきたのだ。死ぬ前に孫のハレ姿をしっかりと目に焼き付けたいと思ってのことだろう(今日もすこぶる元気ですw)

「はい、お待ちしてました。試着していきますよね?少々お待ち下さい」

息子を待っている間、私は店内を見回していた。

アットホームで明るい店内、外国製の生地のいいにおい、そして小気味のいい音楽。
さすが老舗で一流のスーツを作るだけはある。

しばらくすると息子が試着室から出てきたが…私は息子の姿を見るや否や思わず悲鳴を上げた。

「ちょっと!パッツンパッツンじゃない!3か月の間に何食べてそんなに太ってんのよ!完全に村上、もう村上にしか見えない!」

絶叫する母親を尻目に無言の息子、そのふてぶてしい顔が、かつて矢野に「クソガキ」と言われた村上にそっくりだった。しかもふてぶてしい上にデブデブしいって何?なんなの?
そんな村上に向かってアラフィフのオーナーが、

「ちょっと太っちゃったかなー?ウエスト直しておきますので、1週間後にまた取りに来て下さいね」

オーナーが優しく微笑む。目尻のシワが人の良さを表しているみたいだった。

息子が着替えてる間に私はアラフィフオーナーに話しかける。

「すみません、お手数おかけします」

「いいですよ。成人式に間に合うようにしますね。」

「ありがとうございます…

ニノミヤセンパイ!」

「え?!」

「ニノミヤセンパイ、ですよね?」


アラフィフオーナーはビックリして私を見る。

「え?!え?!」

「実は私、5中出身なんですよ。センパイの一つ下です。センパイは私の事は知らないかもしれないけど、私はニノミヤセンパイの事を知ってるんですよ」

「え?!え?!」

アラフィフオーナーニノミヤは、私の予期せぬ言葉でしどろもどろの状態になっている。
ヨシヨシ、こういう反応が面白い。なんとも面白すぎる。センパイはきっと私の事が誰だと思うだろう。

「え?なんで知ってるんですか?え?自分中学の時サッカー部でしたけど、え?え?サッカー部、関係あります?」

おめーがサッカー部なんて知らねーよ

と言いたかったけどやめた。まだツッコミを入れるのは早すぎる。

それにしても、人がしどろもどろになっている状態というのは、なんとも面白すぎる。本当に面白すぎる。

「センパイは私のことは知らなくても、私はニノミヤセンパイの事はよく知っているんですよ。フフフ、フフフ」

「えっ?えっ?どういうこと?えっ?知ってるって?え?」

ニヤリ


チロリンチロリン

次の客が入ってきた。
ヨシヨシ、これで答えは後回しになった。
すぐに答えを出す訳にはいかない。ニノミヤセンパイには1週間、モヤモヤして貰わなければならないから、正解はスーツが出来てから出すことにしよう。そう私は決めた。

「じゃ、また1週間後に取りに来ますね」

「は、はい。ありがとうございます。お待ちしてます!」


そして私はデブな村上と一緒に、テーラーニノミヤを後にした。



続きはまた。ごめんあそばせ~♪



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