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秘密の戯言25

「夏の思い出。」

 こんばんは。最です。あやなちゃんです。いかがお過ごしでしょうか?

 8月31日。先日公開したこの記事をなんとなく読み直していた。大人になってもキラキラな夏の思い出なんてものはなくて、今でも目を瞑るとむわっとした稲の匂いとシャワシャワシャワシャワという蝉の鳴き声が五月蝿いほどに簡単に思い出される。

 祖父母宅は今でこそちょっと小綺麗になったけれど、当時はタイル張りの冷たい風呂場で手のひらサイズの蜘蛛がよく壁に張り付いていた。祖父が割った薪と木屑と地方新聞に箱マッチを使って火をつけて湯を沸かす。もちろんシャワーなんてない。お手洗いは外にあるボットン便所のみで夜になると裸電球に蛾が集って気持ち悪かった。蚊帳をつるした畳の部屋に祖父母とふとんを並べて眠る。電気ももちろん今みたいなスイッチ式なんかではなくて、輪っかの白熱灯に垂れ下がった長い紐を寝転がりながらカチカチと引っ張る。真っ暗だと怖いのでオレンジ色の僅かな光を残して寝転がるけれど、天井のシミが顔に見えて怖かった。所謂リビングなんてものもなくて、炊事場の床は石造りというか全面冷たいコンクリート。ここまで読んでもよくわからない都会っ子達には「やーい!お前んち、おっばけ屋敷ー!」を想像してもらいたい。家の作りや仏壇間の戦死した先祖の写真からは令和になってもどこか昭和の匂いを感じる。たまに学校からの宿題で戦争の話を聞いたりしたけど具体的なことは教えてもらえなかった。

 農家なのでほとんどが自給自足でだいたいの野菜は畑から取ってくる。ピーマン、茄子、スイカ、きゅうり、たまねぎ、とうもろこし。なんでもあった。春夏秋冬季節ごとに獲れる野菜は違ってくるが、米はもちろん年中祖父母産だった。子どもの私は眠たい目を擦ったり、見たいテレビ番組を我慢しながら毎晩のように車庫で出荷前のピーマンをひたすら磨いた。無農薬でも多少汚れはつくのでひとつひとつ丁寧に布で拭き取る。昼間のうちは汗を流しながら専用のハサミを使って「ぱちん、ぱちん」と野菜を収穫する。祖母がそれはそれはおいしく振る舞ってくれる。味噌も梅干しもおそうめんの出汁も全てが祖母の手作り。洗い物は孫達で分担する。

 祖父は毎日のように昼食後に四万十川へ連れていってくれた。母にスイミングスクールに通わせてもらっていたけれど、本当の泳ぎ方は四万十川に習った。日焼けによって黒々としたシミと皺だらけの手の甲はそれだけで祖父という貫禄を感じらざるを得ず、たくさん喧嘩もしたけれど父がいない私はよれよれの汗臭い白タンクトップに頼もしさを感じていた。

 前回の記事と同様に私はまだあの夏を恋しく思っている。後悔とかそんなんじゃなくて、とにかく「ああ、もう戻ってこないんだ。」と毎年のように思う。都会の蝉は田舎の蝉とはまた違う五月蝿さで嫌になる。夏の暑さを感じるたびに私は死ぬまであの夏の頃を思い出すのだろう。

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■あやなちゃん
最という名で活動中の音楽家。
10.19神戸市出身。現在は東京在住。
主にギターか鍵盤を用いての弾き語り。
最近DTMも始めました。(詳しいプロフィールはこちら
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