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そこに居る人たち①

「僕は毎日この本の1章ずつ読み進めているんだ。カプチーノを飲みながらね」

なんの予定もない休日。
アラームをかけずに起きて、軽く身支度を済ませたらお気に入りのコーヒー屋にいく。
多くはないコーヒーメニューの中から今日の気分を選ぶ。
今日はアメリカーノ。
少し長居したかったからだ。
アメリカーノはミルクを使ったビバレッジより味やテクスチャーが変化しづらいと思う。
長居する時はこれだ。

マルタに来てから楽しいことといえば、散歩とコーヒー屋探し。
何軒か美味しい店を見つけた。
一つに固執することはない、気分で選ぶ。
お気に入りの選択肢を持つことは楽しい。

座ってみたかった席がちょうど空く。
席についてアメリカーノを待っていると隣の椅子にひとり男性客が来て、軽く挨拶を交わした。

「僕は毎日この本の1章ずつ読み進めているんだ。カプチーノを飲みながらね」

彼はそう言うと、窓際に置かれている一冊の分厚い本を手に取った。
「それはどんな本なの?」
「んーまだわからないけど、多分ファンタジーだよ」
「ふーん、それがあなたのルーティーンなんだ」
「そうだよ、毎日1章ずつね。僕はそこに住んでて、ちょうど・・・さっき起きたんだ。それでここに来た。コーヒーを飲んで身体と頭を起こすためにね」
「それはいいね、あなたはどこ出身?」
「ゴゾ島だよ、マルタ島の上にあるもう一つの島、知ってる?」
「うん、知ってる。この前行ったよ、すごくいい場所だった」
「そうでしょう、この国は小さくて良い。それで君は・・んー韓国人?」
「私は日本人だよ、先月マルタに来たの、英語を学びにね。」
「それはいいね。学生だけ?それとも仕事をしながら?」
「学生だよ、仕事は・・出来たらしたいと思ってる」
「日本では何をしていたの?」
「実はずっとコーヒー屋で働いてたんだ」
「本当に?実は僕もバリスタなんだ、アルコールも扱うけどね。そこにあるワインバーで働いているんだよ。朝は7時30から店をあけてお客を迎えるんだ。空気もいいし、コーヒーも飲める」
「わかる、それはバリスタの醍醐味だよね(笑)」

数分前まで交わることを知らなかった他人同士が
たった数分で共通点を見つける。嬉しさに思わず握手を交わす。

コーヒー屋はこういった繋がりが生まれやすい。
アメリカーノが運ばれてきて、彼のカプチーノと乾杯をする。

たわいもない会話をする。
彼の一家はみんなバリスタらしい。
お姉さんはフィンランドで自分のカフェを持っているとか、
私はバケーションにフィンランドに行きたいと思っているとか。

私は自分の語力に自信がない。自信を持てと言われても、ないものはない。
でも、こういった状況下でのおしゃべりは意外と楽しくできる。
不思議だ。でももっと楽しく出来たらいいなといつも思う。

彼はカプチーノをおかわりしに行った。既に3杯目。

「毎日3杯飲むの?」
「いや、いつもは2杯だよ。でも今日は君とおしゃべりしたろう。コーヒーがもう無くなったからおかわりするんだ、本を読むためにね。」
そういえば、他のコーヒー屋で出会った人も3杯飲んでいた。

私はそこら辺にあった本を手に取り彼に訊ねる。
「これって私にとって易しい本だと思う?」
「見せてごらん、んーそうだね。これなら読めると思うよ」
「ありがとう、私も1章ずつ読んでみることにする」
「いいね、リーディングは英語習得にもってこいだよ。コーヒーを飲みながら勉強して、いい時間の過ごし方だろう」

お互い自分の本に視線を落とす。
1章は見開き6ページくらい。
南フランスを舞台にした小さな女の子の話らしい。
読みやすいかと思ったけれど知らない単語ばかりで全然わからない。
気づくと眉間に皺が寄る。皺を寄せても全然わからない。

それでもなんとか読み切る。
わからない単語をGoogle翻訳にかけたけれど、余計に意味がわからない。
毎日読み進めたらわかる時がくるのだろうか?
そんなことを思いながら本を閉じる。

「難しかった?」
「うん、全然わからなかった。」
「ははは、挑戦するのみ!さて僕は散歩にでも行こうかな。きっとまたこのカフェで会えるはずさ。またね!」
「うん、今日はありがとう、またね!」

アメリカーノは既に残りわずかになっていたけど、味に変化はあまりない。
それを飲み干して、普段は一杯で帰るところを2杯目のコーヒーを頼みにいった。

ポルトガル名物パステルデナタが食べられるお店 in Malta
色鉛筆やスケッチブックが置いてあってお客さんが自由に使う
男性客が座っていた席
レシピ本からハリポタまで。お客さんが持ち寄っている本な気がする

今日のコーヒー屋はCoffee Circus Portoというお店。
雰囲気抜群なコーヒーショップ。
Valletta、Sliemaでも見かけたことがあるけど、一番近いMsida店へ。
焙煎機も置いてあってここがロースターっぽい。
名前からしてベースはポルトガルにあるのかな?
インテリアは中古品や廃棄物を再利用、リデザインしているらしい。
豆はセブンビーンズロースターズ。詳しくはわからないけどマルタでスペシャリティコーヒーを扱っている店は多くない(私調べ)。
今度バリスタに聞いてみよう〜。




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