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短歌もらいましたⅢ✧♡

 穂村弘さんの「短歌ください」の三冊目。
 早速、いただきます。穂村さんのコメントは太字。私は細字で!

ゆうぐれのジャングルジムにぶらさがり猿へのターン始まっている

虫武一俊・男・29歳

 人類の進化が逆に進む感じがいい。ジャングルジムで野生が蘇ってきた。

神無月老人ホーム窓の中過半数が挙手をしており

そ花・女・27歳

 老後の事とか、我が母がホームに入るまでは考えたことが無かった。たぶん、ほとんどの50歳前の人が考えたことはないと思うが、自分が1人で生きるチカラが落ちた時に、どこかのホームに入るのであれば、その生活は、案外、絶望的なものだなと思った。誰もが年をとるのに、その最後の時が、一番快適なように考えて社会を準備している大人は誰もいないのかもしれないこと。なんだかそれに衝撃を受けた。
 かくいう私も、今そのために何の働きかけをしているわけでもなく、老後の、ちょっとそうした恐怖を感じる歌。

あなたのそのキュピンと光るつむじの中に吸い込まれそう雨上がったね

深田海子・女・24歳

 「キュピンと光る」がまた凄いですね。「キュピン」なんてちょっと思いつかない。細胞レベルで好きなのがわかります。

誰の味方でもない冬の満月のひとりひとりに等しい無慈悲

虫武一俊・男・29歳

 あ、猿へのターンと同じ人!
 冬の満月が、誰の味方でもなく、誰にも等しい無慈悲であることが、とても納得。そういう冷たい冬の月を見ている光景が目に浮かぶ。

大仏は俯きながら思案する(鶯餅か天麩羅蕎麦か)

九螺ささら・女・42歳

 不思議なほのぼの感の魅力。真面目な顔で、そんなこと考えていたんですね。「鶯餅」と「天麩羅蕎麦」の組み合わせが絶妙です。漢字ばかりのところもさすが「大仏」って感じ。

こえがわりって痛いですかと少年に訊かれて木々のさみどりを見る

虫武一俊・男・29歳

 おお?同じ人の歌を3首も選んでいる!私は彼の歌がスキなのか。
 過ぎてきた過去の少年である自分を思い出して、さみどりを見るしかない大人の男の姿が目に浮かぶ。

ハブられたイケてるやつがワンランク下の僕らと弁当食べる

うえたに・男

 身も蓋もないところがいい。「ハブられた」「イケてる」「ワンランク下」というベタな表現の連続が裏返しの詩的価値を生み出しています。この辺りが詩歌の不思議で面白いところですね。素敵っぽい言葉を使ったり、イメージの飛躍を生み出したりすることだけがいい歌への道ではないことがわかります。一首からは学校という閉鎖空間におけるカースト制度の残酷さが浮かび上がりました。

曖昧に知らないふりして笑っては少女としての仕事を果たす

上町葉日・女・19歳

 こちらは「少女としての仕事」の歌。ちゃんと遂行してもお金は貰えない。けれどもそれはやっぱり社会から要求される「少女」の「仕事」に違いない。批評的な視点の鋭さを感じます。

「そのコート素敵な闇の色ですね」君に心を持って行かれる

えむ・女・21歳

「不意打ちの言葉」という作者コメントがありました。気障だけど魅力ある言葉ですね。これが「空」でも「海」でも「草」でも、「心を持って行かれる」ことはなかったでしょう。

コンビニのおでん仕込まれ幾千の大根しみる列島の朝

西口ひろこ・女・45歳

 うちでも、大根の煮物食べたいとダンナにリクエストして煮物を作ってもらったこの初雪の降った日。コンビニでおでんを買った作者が俯瞰して世界を見たらそんな光景が見えたんでしょうね。列島全国で、大根が!

手を振って別れた人のつぶやきを盗み見るのがデートの続き

南口哲士・男・20歳

 現代だなと思った。めんどくさい時代だとも思います。なんか怖い!
会わない時間が2人の愛を育てたりしない時代。つねに四六時中、つながることが可能。まてよ、スマホの電源切ればいいだけか( ´艸`)!

コンビニのバックヤードでミサイルを補充しているような感覚

木下龍也・男・25歳

 戦争が日常茶飯事の国ではコンビニにマシンガンが売っているかもしれない。なんてamazarashiの歌詞にあるようなことを想像してしまいました。

この本を梱包したのは人の手と感じさせずに届くAmazon

じゅん・女・54歳

 amazonで何か買うと、送料がかかるのに、なぜ、同じ箱に詰めて届かないのか?とか、同じ本を2冊買うとかあり得ないだろ(←自分のミス)とか、昔は、これは何かの間違いではないかと人間に気付かれたことが、まったく気づかれず、ものが届くことがあります。機械って、頭悪いんだなと思う瞬間です。人間が判断していた良さを失って、どうでもよく膨大にモノが手に入るようになったんですね。

読みかたのわからぬ名前のバス停で死んだ犬など思い出してる

いとうひでのり・男・51歳

 意味がないようで意味がある。効率が重視される都会にいると押し潰されてしまうもやもやした生命力が蘇るようです。

鮭の死を米で包んでまたさらに海苔で包んだあれが食べたい

木下龍也・男・24歳

 お握りが鮭の死だとは思ってもみなかった。大好きなものが冷たい残酷なものに変わる瞬間。同じ作者の「動物は何も言わずに死んでいく人間だけがとてもうるさい」という短歌もスキだ。
 この人の歌もこれで3首、選んでいることになる。

 気が付かずに、同じ作者のものを選んでいる。

 気が付かずに、直感で、ピンポイントにその人の歌がスキなのだ。
 間違いなく選び取ってる。

 それが好きってことなのだ(⋈◍>◡<◍)。✧♡