わたしの身体はとてもお利口。
特に子宮に関しては絶大な信頼を置いている。脳みそよりもずっとずっとお利口なのが子宮。

わたしは、性にオープンなところがあり、勢いで一夜を過ごすことも多々あった。ラフプレーもあり、場合によっては何度か妊娠していてもおかしくはない。でも、そういうことは一度もなかった。

それでいて、今夜何か起きては困るというときには早めに生理が来た。今夜は遊んではなりませんという、身体のサインだと受け取って自重した夜がいくつもあった。

そして、とても生理周期が正確だった。もう何年もアプリの予測通りにいつもしっかり生理がやってくる。それが今回大幅に遅れた。その記録を残そうと思う。

あまり生々しいのもアレなので続きは物語としてお読みください

旅行とドン被り

”うわ、ばっちり被るな”
スケジュールを見ながら、カヤノは暗雲たる気持ちになった。
週末は仲良しメンバーでのグループ旅行が控えていた。気の置けない女4人の現地集合現地解散の気ままな旅だった。

行き先が九州ということもあり、温泉に入ることを楽しみにしていたので、生理と被ることは避けたかった。病院でピルをもらってずらすことも考えたが、自分の身体を信じて委ねることにした。あまり不自然なことをしたくないという気持ちも強かった。

実際二泊三日の旅行中、生理が来ることはなく、その気配だけを下腹部に感じながら、無事に温泉にも入って大満足で帰宅した。

”旅行からも帰ってきたし、もういつ来てもいいよ”
子宮に伝えながらも、再びスケジュールを確認すると翌日に健康診断が入っている。

”やばい、忘れてた”
検尿もあるので、生理がくると健康診断が受けられない。そればかりか、この健康診断自体も2ヶ月前に予約したものだったので、今回受けられないと年度内に受けられない可能性も出てくる。

身体が資本のフリーランス。出来れば今回は受けておきたい。生理の気配はあるものの、翌日もセーフ。無事に健康診断を受けられた。

”そんな先の予定までわかって、調整してくれる子宮ちゃん、なんて優秀なのかしら”

まだ、このときまでは呑気にそんなことを考えていた。
さらに数日が過ぎた。本来の生理開始予定日から一週間が過ぎていた。以前、生理の気配は下腹部にあるものの一向にやってこない。

ここで初めて、別の可能性を考え始めた。

”え？妊娠してる可能性もある？”

妊娠検査薬を握りしめて

5人。仮に妊娠していたとして、その相手候補は5人いた。
当然、真剣交際というわけでもない。だからこそ、互いに避妊に関しても徹底していた。しかし、それでも100%安全とは言い切れない。

カヤノは5人の男の顔を、順番に思い出しながらもし妊娠していた場合には同じ文面を一斉送信するんだろうなと淡々とやるべき作業のことを思った。

そして、結果がどうあれ妊娠の有無を調べるのが先決だと思った。早速帰り道にドラッグストアへ寄る。生理予定日から一週間後から検査薬で調べられると帰り道の電車の中で調べていた。まさに絶好のタイミングだった。

”妊娠検査薬は、尿の中に含まれるhCG（ヒト絨毛性性腺刺激ホルモン）の濃度で、妊娠しているかどうかを判定します。”
”陽性が出た場合99%の精度といえます”

調べるたびにグハグハくる文言が飛び込んできた。思えばこれば人生初の妊娠検査薬だった。念の為2本入りを購入した。

家に着くまでの間、もし妊娠していたらと思考が暴走し始めた。一人で育てられるだろうか、父親候補達はなんと言うだろうか、親は悲しむだろうな、今の年齢でもしかしたら最後の妊娠のチャンスになるかもしれない、まだ起きてもいない不安に押しつぶされそうになる。

この心のモヤモヤを聞いてくれる人がいれば、あのこだろうか、あの人もひとまずラインしたらしっかり話を聞いてくれそうだ。そうやって、心の避難場所も用意しておいた。ここで避難できる友達を思い浮かべられる自分が好きだなって思った。

それと最後に、大切な質問を自分にした。もしあらゆる常識とか制限とか取っ払って、何の不安も無いなかで妊娠したとしたら、わたしは果たして産みたいのか。この問いはなかなか鋭利ではあったものの、わたしの答えはイエスだった。

わたしは自分の身体、特に子宮に関して絶大な信頼を置いている。その身体が受胎を許したとすれば、それはもうGOサインだ。きっとそれは産み落とされるべき生命だ。そこまで答えが出て、家に着いた。

ドキドキしながら、トイレに入る。箱を開けて個包装のアルミの袋を慎重に破く。説明書を読みながら手順に沿って進める。表示窓にラインが2本出れば陽性、つまり妊娠。1本のラインなら陰性、つまり妊娠ではない。

果たして、結果は1本だった。
それを見て、やっぱりそうかと静かに納得した。

悲しいとか嬉しいとかよりも、ただただ納得だった。
忙しかった心は落ち着いて平常運行へ戻った。

翌日の満月に8日遅れで生理が来た。
それはカヤノにとって身体への信頼と覚悟を再確認する8日間だった。