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グラスゴー世界選手権観戦旅行記(2)ロンドン~グラスゴー滞在1日目

これは8月3日(木)から10日(木)までの7日間、グラスゴー世界選手権観戦にかこつけて小径車と一緒にイギリスを旅行した記録である。
いよいよ人生初のスコットランド。スコットランドといえばウィスキーとネッシーというプアーなイメージとともに、いざ上陸!


1. 8月3日(木):ロンドン

日本から14時間半のフライトを経て到着したイギリス・ヒースロー空港。入国し荷物受け取りレーンで自転車を待つも、全然流れてこない。よく考えたら箱も輪行袋も大きすぎてベルトコンベアに乗らなくね?と気づきスタッフさんに確認したところ、大型荷物は別の場所に置いてあると教えてもらった。

無事にブロンプトン(箱)と再会。箱はきれいなまま。丁重に扱ってもらったようです。

今日の宿はロンドン。地下鉄に乗って向かう。私のFolden Boxは底に付いている四輪でコロコロと軽快に転がっているが、イギータグチは輪行袋が重そうだ(イギリスでは駅や空港の通路でも自転車を押して移動できるので、自転車を袋から出して組み立てて押せばよかったのだが、この時は気付かず) 空港から一番遠くにあるエリザベスラインに辿り着いた時点でイギータグチはかなりお疲れの様子だった。
ちなみにホテル最寄り駅のウォーレン・ストリート駅はエレベーター(イギリスでは"lift"と呼ぶ)がなく、階段とエスカレーターを駆使して地上へ。重い箱を持ち上げてえっちらおっちらと階段を上っていると周りの人たちが手伝おうか?と声をかけてくれる。欧州の人々の見知らぬ人間へのこういう親切さは、ちょっと好きだ。

駅からすぐのホテルに到着するとイギータグチの元同僚にしてお友達、Kさんが待っていてくれた。穏やかな笑顔に癒される。そう、今夜はロンドン在住の凄腕ビジネスパーソンであるKさんとディナーをするお約束なのだ。セント・パンクラス駅まで歩いて移動し、4年前にご一緒したイギータグチお気に入りのトレインビューレストランへ入る。

ユーロスターの線路の真横にレストランがある。乗客と目が合うくらい近い。

あまり年の変わらないKさんの主体的かつ意欲的なキャリアの積み方に感銘を受けつつ、素敵な雰囲気と食事を堪能。いつかユーロスターに乗ってみたいなあと思いつつ、長旅の疲れのせいか瞼が重くなっていく。食事の後はホテルに戻って早々に就寝し、イギリス滞在1日目が終了した。

サーモンのタルタル。手前のカリカリパンにのせて食べると旨い。
アスパラガスのチーズリゾットはちょっと味が薄かった。疲れていたのだろうか?

2. 8月4日(金):ロンドン~グラスゴー

朝食は旅行の楽しみのひとつ。特にヨーロッパのホテルの朝食は最高だ。私は食いしん坊なので、旅行中は朝ごはんが楽しみで目が覚める。

フルーツ、パン、バターと淹れたてのコーヒーがあれば幸せ。
(と言いつつ肉と野菜のグリルも食べている)
選べる卵料理からオムレツをチョイス。卵3つ分はあるやろというボリュームで大満足。

今日はロンドン・ユーストン駅からアヴァンティ・ウェスト・コースト鉄道に乗ってグラスゴー・セントラル駅に向かう。約4時間半の電車の旅だ。鉄オタ鉄道愛好家イギータグチのリクエストもあり、飛行機はなくあえて電車をチョイスするのが我々流である。

さて、ヨーロッパの鉄道は日本のそれとは随分違う。なんと、直前まで発車プラットフォームがわからないのだ。かくして電光掲示板の前でプラットフォーム番号が表示されるまで待つこととなる。
ちなみに「15分前に発車プラットフォームが表示されます」となっているのに時間になっても表示されないとか、いきなり列車がキャンセルになったりとか、なかなかにスリリングである。今回の旅行を伝えたイギリス人の友人から「電車がストライキで止まらないことを祈っているよ!」とメッセージを受け取っていたこともあり、キャンセルだけは勘弁してくれよ~と念を送りながら電光掲示板を凝視し続ける。

乗客が全員電光掲示板の前に集合するのがヨーロッパ流。
なおイギータグチの輪行袋は重すぎるので、一時的にFolden Boxの上に載せて移動。

めでたく表示されたプラットフォームに移動し電車に乗り込むと、見事に満席。夏休みの帰省客が多いようだった。電車は北へ、やさしい緑色の丘を縫って走る。はちみつ色の石で作られた橋や小屋、ツアー・オブ・ブリテンで見たことがあるような景色が広がる。草を食む羊や牛がなんとも平和だ。

とにかく羊・羊・羊。牛もいるが、羊の圧倒的な数的有利である。

ヨーロッパの長距離列車には必ず売店車両があるので、食いしん坊は行かねばならない。並ぶサンドイッチや焼き菓子にテンションが上がるも、朝ごはんをたらふく食べたので軽めでいいかという気持ちになり、ポテトチップの小袋を購入。なお軽めとは重量のことであり、カロリーのことではない。

独特なパッケージのポテチ。
ザクザク食感と濃いめのフレーバーが美味しくて、旅行中4袋くらい食べてしまった。

事件はポテチを食べた後に向かったお手洗いで起こった。トイレは男女兼用、ドアはボタンを押して自動開閉するタイプで、外から使用中かどうか確認できるタイプだ。
使用中ランプが消えていることを確認して、開くボタンをポチッと押す。ドアがウィーンと音を立てて開く。すると、中からおっさんが現れた。

いや、使用中やないか。

慌てて閉まるボタンを連打する。連打してもドアの閉まるスピードが変わらないのが憎い。ドアが閉まった後に使用中ランプが灯る。最初から鍵をかけておいてくれよ!
しばらくしておっさんは気まずそうにトイレから出てきて、去って行った。はっきりさせておきたい。気まずいのは私の方である。

用を足したのち、トイレのドアの前で待っていた女性に「ドアの鍵をかけるのを忘れないように(Remember to lock the door.)」と伝えて席に戻る。こんなにツルッと英語の文章を口に出せたのは初めてかもしれない。実感がこもるとコミュニケーションにも力が宿るのだと実感した。

3. 8月4日(金):グラスゴー・サーキットに興奮、のち発奮

トイレ事件で上がった心拍数が落ち着く頃、電車はグラスゴー・セントラル駅に到着。いよいよ世界選手権開催の地に降り立つ。

ロードレースの全カテゴリで使われる周回コースはグラスゴー中心街を縫うように敷かれており、スコットランド最大のターミナル駅であるグラスゴー・セントラル駅前もコースになっていた。荘厳な建築を従えた道路には見覚えのある金属製の柵が並んでおり、地元ローディらしきサイクリストたちが軽快に走っている。ロードレースは翌日8月5日(土)からの開催で、今日は一般人もコースを走ることができるようだ。

駅を出たら1秒でコース!

長時間の電車旅の疲れはどこへやら。そう、ここは世界選手権の舞台なのだ。今までは見て、そして歩くだけだったコース。でも今回は自転車と一緒にやってきた。つまり世界一を決める誉れ高い道を、選手と同じように走ることができるのだ。心は躍り、胸が高鳴る。イギータグチも同じ気持ちのようだった。
「アヤさん、荷物を置いたら走りに行きましょう!」

まずはホテルにチェックイン。どうも世界選手権関係者っぽい人が多いな?と思ったら、なんとUCI関係者が滞在しているホテルであった。
エレベーターホールで早速アンドリュー・マクロッサン氏(数々の自転車レースでコメンテーターとして活躍する凄い人)らしき人に遭遇してビビる。

ホテル1階にはUCIウェルカムデスクが鎮座。
ちなみに滞在中稼働しているところを見ることはなかった。

数日間お世話になる部屋にバックパックを放り込んで、Folden Boxからブロンプトンを出して組み立てる。日本でパッキングした時のままの状態で、どこも壊れていない。ヘルメットを被り、イギータグチと再合流したら、いざ世界選手権コースへ突入だ。

ホテル前もコースになっていた。ちなみにいきなりちょっと登る。
男子エリートロードレースのコース。全カテゴリで使われるグラスゴー・サーキットは1周14.3km。
https://www.cyclingworldchamps.com/schedule/road-men-elite-road-race/

飛行機に乗る直前までプレビューを書いていたおかげで、グラスゴー・サーキットのコースは頭に入っている。
周回コースのスタート・フィニッシュはもう1つの鉄道駅クイーンズ・ストリート駅前のジョージ・スクエア。そこからグラスゴー・セントラル駅の前を通って西のケルヴィングローブ公園に向かう。公園をぐるりと回って再び市街中心部へ戻ると、今回のコースの最難関ポイントと名高い急坂モントローズ・ストリート(距離163m、平均勾配13.4%、最大勾配15.2%)が待っている。
実はグラスゴー・サーキットには平坦路がほとんどなく、短い起伏が連続で登場する。その中でもモントローズ・ストリートの登りはフィニッシュまで1.4kmと近いため、勝負所になると言われていた。果たして勾配10%超の坂をブロンプトンで登れるのだろうか…と不安になりつつ、世界選手権コースを走る興奮が勝ってペダルを踏む脚は軽い。

「うわー!今我々は世界選手権のコースを走ってるんですね!めちゃくちゃ嬉しい!楽しいです!」と鬼滅の刃よろしく説明調の言葉をイギータグチに投げかけながら、風を受けて走る。ロードバイクに比べれば速度は穏やかだが、ブロンプトンは登りでも軽快に進んでいく。なんて素晴らしい自転車なんだろう、この子と一緒なら世界選手権コースも恐るるに足らず…と思っていたら、唐突に目の前に激坂が登場した。

これは…もしや…

コース後半に現れるはずの急坂モントローズ・ストリートであった。柵に沿って進んでいたはずが、曲がる道を間違えてしまったようだ。どうしようどうしよう、心の準備が…とまごまごしているうちに、イギータグチは登坂を開始。そうだった、この人はクライマーだった。彼にとっては、激坂はご馳走なのだ。

泣く子も黙る急坂モントローズ・ストリート。
この写真では斜度が伝わらないのがもどかしい。

激坂が苦痛でしかない私も意を決してじりじりと登り始める。200mもない短い坂だが、スペック以上にきつく感じる。よじ登る、という言葉がぴったりの無様な走りを披露する私を尻目に、イギータグチは沿道を歩く人から歓声を浴びて余裕の登頂を完了していた。
おお神よ、どうして人には登れる人と登れない人がいるのですか。願わくば私もクライマーとしての人生を歩んでみたかった。もはや来世に期待するしかない…と諦めの境地に達する頃、ようやく頂上に到着した。

いやとんでもない坂だったわ…と切れた息を整えていると、頂上すぐの横道に明らかにベルギー応援団ぽいキャンピングカーが泊まっていた。大変いい感じだったので写真を撮らせてもらう。こういうガチ応援勢との触れ合いも現地観戦の楽しみのひとつだ。

男子エリートロードレースではレムコ・エヴェネプールかワウト・ファンアールトの勝利に期待と話してくれたおじさんが車の持ち主。
車の後ろに飾っているアルカンシェルはベッティーニのサイン入りだそうです。

ベルギー応援団に別れを告げ、モントローズ・ストリートを下る。あれ?モントローズ・ストリートって下らないはずではなかったか。そう、脇道に入った勢いで下ってしまったが、モントローズ・ストリートを登ってジョージ・スクエアに向かうのが正解ルートだ。

ガッデム!またこのク〇坂を登らないといけないんかい!

登りました(2回目)

1回目の登坂時にイギータグチをウェイウェイ盛り上げていた沿道のおじさんに「この坂はそんな小径車で登るもんじゃないぞ」と真顔で言われながら2回目の登坂をメイク。脚を付かなかったのは、せめてものプライドである。
今度はルートを間違えずにスタート・フィニッシュ地点のジョージ・スクエアへ。ゲートを見るとテンションが上がります。

スタート・フィニッシュゲートで記念撮影。

ここからはしばらく混雑する市街地中心部を走る。グラスゴー名物、カラーコーンを頭にのせたウェリントン侯爵騎馬像にご挨拶する。彼の後ろの現代美術館ではバンクシーの展覧会が開催されていた。

ウェリントン侯爵は1980年代からカラーコーンをかぶっているそう。

コースに沿って西へ進み、ケルヴィングローブ公園へ。博物館を中心に芝生や小道が整備された綺麗で広大な公園である。緑が多く、自然と呼吸が深くなる。コース上でどんぐりを運ぶ赤毛のリスに遭遇し、思わず笑みがこぼれた。

骨折した小指とともに記念撮影をするイギータグチ。
骨折している人とは思えない軽快な走りを見せていた。

公園をぐるりと回り再び市街地へ。公園の中の登りは距離は長いものの緩やかだか、街中で現れるのは短い急登ばかり。公園を抜けた直後の登りも凶悪だが、一番の難所はスコット・ストリートの登りだった。平均勾配は12.9%、最大勾配はなんと22.8%!紛うことなき壁である。

日曜の男子エリートロードレースでマチュー・ファンデルプールがアタックしたのがここ。
急すぎて登り切れず…

この後登場するのがもはやお馴染みのモントローズ・ストリートの登りである。ええ、登りましたよ(投げやり)確実に言えるのは、ブロンプトンで3回も登る坂ではないということだ。

行きつ戻りつ写真を撮ったりしつつ、たっぷり3時間かけてグラスゴー・サーキットを満喫。時計はもう21時を回っていた。日本よりも緯度が高くサマータイムを採用しているイギリスでは、22時頃まで外が明るいのだ。

遅くまで遊んだので、夕食は手軽にホテルの近くのフリットをテイクアウト。駅のスーパーで総菜やヨーグルトを買い込み、激坂で消費した(気がする)カロリーを取り戻す。明日8月5日(土)は自転車はお休みして、ジュニア男女ロードレースを観戦する予定だ。あの難しいサーキットを、選手たちは一体どう攻略するのだろうか。

揚げた芋があれば幸せな私たち。イギータグチはご機嫌なパッケージのビール(手前)も飲んでいた。

おまけ:次回観戦旅行に行く私に向けたメモ

  • ヒースロー空港からロンドン中心部への移動はピカデリーラインが便利
    約1時間かかるが、混雑していないので座れる上に乗り換えなしでキングスクロス駅(セント・パンクラス駅)まで行ける。更にキングスクロス駅は地上までエレベーターで移動できるので、荷物が多い場合は非常に便利。
    なお今回利用したキングスクロス駅、ロンドン・ユーストン駅、ウォーレン・ストリート駅間は平坦で、徒歩移動が可能。

次回予告

いよいよ開幕する世界選手権ロードレース。
2人が出会った意外な人物とは?
そしてイギータグチを震撼させたアヤのお買い物とは?
次回「爆買いは観戦の後で」、ご期待下さい!


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