顔のお値段2万円


朝、洗面台で顔を洗いながら、意外なことに少しだけ緊張している自分に気づく。まるで今の自分の顔にさよならするような、新しく生まれ変わるような。

大げさだなと思い、そしてふっと笑う。



これから行くのはただのシミとりレーザーなのに。



全身脱毛だって済んでいるし、数年前には左の頬にあった黒豆くらいのシミをとっている。今回も両の目の下のシミが以前より濃く目立つようになった気がして、ネットで検索したアンチエイジングクリニックにカウンセリング後、予約を入れたのだ。


すっぴんで朝早くの電車に揺られながら、出勤通学の人の群れにまぎれ思う。


私はいったいなにがしたいんだろう。


肌が少しマシになったところで見てほしい人なんていない。なにせ今はマスクで顔の半分は常に覆われている。土日診療を行っていないクリニックに合わせ、有給をとって今こうして向かっていることに果たして意味はあるのだろうか。
趣味の旅行にも行けない今、少しくらい贅沢してもいいよねと自分に言い聞かせ、電車のドアにもたれて軽く目を閉じた。

***


施術をしてくれた女性はとても気さくで、そしておしゃべりだった。

朝早かった分施術中はあわよくば寝られればいいなと思っていたが、よくありがちな「輪ゴムではじくような」痛みが断続的に顔に走り、そしてしゃべり続ける女性の会話の相手のため寝るどころではなかった。



顔全体にレーザーをあてて、2万円。


2万。


旅に出るには安い、だが顔にかけるにはおそらく高い金額。

これが安いのか高いのかはわからない。

ただ、鏡に写るレーザーによって赤く灼けた顔は、朝より強く誇らしげに見えた。

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