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『予想で泣かなくてもいいよ』パート6(戯曲)

○第三部 アルバイト

日曜日

明日から
新しい
バイトに
行く
らしい
から
がんばらない
ように
がんばろう

思う
がんばる

がんばり
すぎる

その
バイト

すぐに
やめて
しまう
癖が
前から
ずっと
あるから
絶対に
がんばらない

誓う
決めた
決めたから
適当に
やり過ごす

決めたから
なんだったら
仕事中も
なるべく
ぼんやり
していよう

心から
思う
思うから
思っているから
なんか
明日は
上司から
なんか
よくわからない
説明が
ある
らしい
から
なんか
面倒

思う
けど
なんか
適当に
なんか
聞き流して
なんか
場を
なんか
適当に
なんか
つないでいれば
なんか
適当に
やり過ごしていれば
なんか
とりあえず
お金が
貰えれば
とりあえず
良いかなあ
今日は
本当に
良いかなあ良いかなあ
まあいっか
なんか
心から
なんか
心の底から
なんか
適当に生きたい
適当に生きていきたい
のに
むずいなあ

これは
いつでも
思うから
なんか
そういえば
眠たいから
眠たくなってきたから
なんか
アラーム

設定すれば
僕は
それで
今日は
とりあえず
いいから
今日の
僕の
やるべき
仕事は
これで
とりあえず
終わったから
たぶん

いつのまにか
分類
された

思う
そういう人

そうじゃない人

それと
気づかない
うちに
そういう
人生を
生まれつき
与えられた
ことを
自覚
しないように
生かされている

なんか
ずっと
思う

思っている

思い続けている

適当に
生きるのは
生きちゃうのは
あなたたちのなかの
誰かのせい
全力で
他人に
責任転嫁を
して
生きていく
僕の
人生の
スタイル

肯定して
生きちゃうよ
適当に
生きちゃうよね
適当に
とりあえず
あなたたちのせい
ってことで
とりあえず
ひとつ
よろしく
生きたくない
適当に
生きたくないから
別に
生きたくないのに
こういう
人生を
特に
歩みたくもないのに
生きていたくないのは
あなたたちのせい
だから
僕は
特に
関係ないから
世界には
僕が
最低なのは
僕のせいじゃない

説明してほしい
世界側には
きっと
説明責任が
あるから
出勤

とりあえず
すれば
誰にも
文句は
とりあえずいわれない

いうことに
とりあえずなっているから
なっていることに
しておくから

月曜日




出世
しない




心から
思って
思ったけど


出さず



説明を
聞いて
苦笑
して
いた
なんかどこか
変な宙をみて
ぼんやりと
聞くともなく
何か
言葉を
聞いてみていた
何の
言葉も
耳に
入ってくることは
特に
ないまま
今日が
終わった

なんか
初対面の
先輩に
はじめて
会った
先輩に
思うのも
失礼だけど
なんか
この


なんで
この
ポジションに
いるのかなあ

ぼんやり

思う
的をえない
説明
ここまで
なにがあった
なにがあって
このひとが
このように
ここにいて
僕の
上の
立場だと
信じこんで
当たり前のように
話しているんだろうなあ
わからないなあ
僕も
別に
仕事
特に
出来ないけど
このひとも
なんか
仕事
特に
出来なさそうな感じ
醸し出してる
雰囲気

火曜日

まかないがうまい
それ以外に
特に
良いところの
なにもない
仕事

ぱっと
辞めて
ぼーっとして
やっと
みつけた
場所が
ここ
だった
けど
でも
別に
特に
新天地とかでは
なかった
運命とか
変わらなかった
なんか
違った

もうすでに
思う
思っているから
いつ辞めようか

もうすでに
考え始めている
仕事に責任感とか
感じたこと
一度もないし
どうせ
ここがどうなっても
別に
どうでもいいし飛ぶか
近いうちに
とてもいいタイミングで飛ぶか
ピクニックに行きたい日とかに
適当に
とりあえず
飛ぶか

水曜日

つーか
このひと
この職場に
いらなくね
つーか
雇ったひと
だれ
出てこいよ
つーか
ここ
悪い場所
なんじゃね
だれ
ここを
このように
したひと
出てこいよ

誰が
無能な
僕を
雇って
ここに
立たせているの

誰か
理由を
大きな
声で
聞かせて
頼むから
二度と
忘れない
声で
叫んで
聞かせて
聞かせてくれ
聞かせてくれよ
僕が
この世界に
いらないと
能力が
とても
低いと
その
理由を
鼓膜が
やぶれるほどの
つんざくような
声で
叫んでくれたら
いま
すぐに
いますぐに
この場を去るから
首にしてくれ
首にしてくれ
首にしてくれ
僕のせいじゃない
とても良い感じの
罪悪感を覚えない理由で

木曜日

えっ
露骨な不倫じゃーん
めちゃくちゃがっつり
SEXしとるやんけ
課長
正気か

思って
動揺して
写真と動画をちょっと撮って
匿名のアカウントで
TikTokに投稿してから
トイレのドアを閉めて
一目散に逃げた
えっどういう体位
めちゃくちゃわかりやすい
凄い不倫
不倫っていうか
堂々としすぎてて
なんていうか
逆に
不倫じゃない
何か
えっ
普通こんな
オシャレなところでやる?
オシャレなトイレだから逆に?
どうしても的な?
えっ
ラブホ行けばいいのに
えっ
職場のトイレじゃなくて
ラブホ行けばいいのに
えっ
ハラスメント規定違反っていうか
えっ
ラブホ行けばいいのに
なんか
ハラスメントではもはや逆にないっていうか
えっ
ラブホ行けばいいのに
もう
なんか
そういうことですら
なくない
なくなくない
なくなくなくない
えっ
ラブホ行けばいいのに

思って
えっ
仕事
やめなくちゃ
いけないじゃん
うぜー
えっ
ラブホ行けばいいのに
仕事
探さなくちゃ
いけないじゃん
うわー
黙ってるのも無理
生理的に無理
こんなの言うしかない
来れるわけない
こんな職場
絶対に無理
えっ
ラブホ行けばいいのに
アンジャッシュの懐かしのアレとか
脳内再生しつつ
週刊文春の記事を
久しぶりにパッとみしつつ
さっき目撃したことを
ペラペラペラペラ言う
先輩が慌てて
確認しに行く

また新しいバイト探すのかあ
たるいなあ
まあでも別にいっか
どんなバイト先にも
い続けたいと
思ったことないし
愛着を
抱いたことなんて特にないし

ぼんやりしながら
TikTokをながめる

金曜日


別に
どうせ
いなくなる
職場だから
なにを
しても
いいよね

悟って
出勤する時間を
ぶっちぎって
18時に
起きて
朝ごはんを
食べて
幸せを
感じて
好きな
音楽を
聴いて
もう一度
眠る
すぐに
目覚めませんように
次に起きた
日が
どうか
今日ではなく
明日でありますように
みんな働いている
金曜日
ではなく
みんな休んでいる
土曜日
でありますように
そう
願って
天井を
みつめて
眠る
眠れなくても
眠る
布団を抱いて
眠るふりをする
どうしても眠れないから
朝まで
時間が
経つのを
ただ待つ
いちばん好きなバンドのいちばん好きな歌を聴いて
なんとか平静を保つ
いちばん好きなバンドのいちばん好きなメンバーがこないだ自殺しちゃったから
解散しちゃったから
いちばん好きなバンドのいちばん好きな歌は
もう二度と
僕の中で
更新されないまま
人生を終えることになる
ちょっとだけ
泣きそうになりながら
物凄く
泣きそうになりながら
思わず
涙が
止まらなくなりながら
布団を抱きしめて
いちばん好きな歌を
壁が薄いアパートだから
隣に住んでいる人の
迷惑にならない程度の
小声で歌いながら
ただ朝が来るのを
ぼんやりと待っていた

(赤い公園「絶対零度」を小声で歌い始める)

♬絶対零度の未来に永久保証は無いのさ
♬くたばった甲斐があればいいから

土曜日

つーかこの世界に
心から
仕事したい奴なんて
どれだけいるわけ
手ぇあげてみろよ
仕事したいですって
満面の笑みで
手ぇあげてみろって
今だって
別に
ここに
立ちたくなんてないんだよ
なんかやれっていうから
じゃないと死ぬから
仕方なく
ここに
立ってるだけなんだよ

仕事が人間を壊してるんだ
粉々に壊して
だんだんと
ここに
立てなくさせてしまうんだ

車に
轢かれたいな

最近
思う
突然
歩道に
突っ込んできた
車に
何の罪もなく
巻き込まれて
轢かれて
死にたい
複数の
可哀想な
被害者の
ひとりで
ありたい

心から願う
働きたくないよ
働くよりは
車に
無慈悲に
轢かれたほうが
ぜんぜん
マシ
僕は
みたことがあるんだ
道の
真ん中で
頭が
ぱっかり
割れている人のことを
スイカわりのように
ぱっかり

大学生のときに
音楽を
聴いていて
イヤホンが
耳に
すっぽり
入っていたから
警官の
案内を
聞き逃していたから
変なところに
入ったから
警官に
制止されて
慌てて
イヤホンを
外したら
目に入った
交通事故現場
目の前の
ぱっかり
頭の
割れた
死体の
性別は
死んでるし
知らんけど
ぱっと見の
印象で
とりあえず
彼と
呼んでみるけど
彼は
彼の頭は
彼の頭からは
なにか
あまりにも
みたくないものが
ぺろりん

出ていて
出てしまっていて
それを
間近で
みたときから
ずっと
僕は
憧れている
彼に
憧れているんだ
今でも
ずっと
彼になりたくて
だから
僕を
轢いてくれ
今すぐに
車で
使えない奴だと
判断して
車を
高速の車を
僕のからだに
突っ込んで
僕のあたまを
スイカ割りのように
ぱっかり
綺麗に
割ってほしい
それを
僕は
寿命と
呼ぶことにするから
僕に
責任が
全く
発生しないように
僕の
命を
誰かが
奪ってほしい
頼むから
早く
僕を
死に
追いやってほしい
僕は

棒で
すぐに
割れる
スイカの
ような
脆いものだと
とても耐えられない
激しい痛みで
気づかせてほしい

想像してみてほしい
僕の
あたまが
スイカわりのように
ぱっかり
割れて
倒れている
その姿を
その美しい姿を
その素晴らしい姿を

そういう姿を
想像してくれる人さえ
人生で一度も
みつけられていないから

こういう感じなんだよな
わかってる
わかってるよ
わかってるから
頼むから
黙ってて

明日から
別の仕事を
必死に
探さなきゃ
生きていけないから
生きていけなくなるから
どうせ
どこに行っても
嫌な
職場なのにな
目の前の未来を
予想するだけで
嫌な気持ちになって
泣きたくなる
いや
そうじゃない
未来を
死ぬ前の未来を
未来で起こる
すべてを
あらゆることを
具体的に
予想するだけで
いつでも
その場に
倒れそうになってしまうほど
何もかも
嫌なだけ

ちょっと
泣いてしまう
ちょっと
泣いてしまった
ちょっと
涙が
止まらなくなってしまった
その場に
倒れて
もう
二度と
起き上がれなくなってしまった
だから
もう
想像することは
やめよう
どうせ
なにもないから

僕は
過去と
未来に
思いを
一切
馳せずに
目の前の
快楽だけを
求めて
これからは
生きていくことにするから

それか
死ぬから

(了)

○参考文献

太宰治『二十世紀旗手』(新潮文庫、2003年)
中村大地『二十一世紀旗手』(2015年)
中島みゆき『中島みゆき全歌集 1987-2003』(朝日文庫、2015年)
スピノザ(吉田量彦・訳)『神学・政治論(上)』 (光文社古典新訳文庫、2014年)

basso『クマとインテリ』(茜新社、2005年)
『web opera』vol.3(茜新社、2018年)

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