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ヨーロッパ芸術祭めぐりの旅でのあれこれ 2017

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アート&カルチャー系のライターがゆく、ヨーロッパ芸術祭めぐり。 2017年は芸術祭のミレニアムイヤー! アテネ&カッセルの2会場で開催中のドクメンタ、ミュンスター彫刻プロジェク… もっと読む
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#アート

アート界のオリンピック。ヴェネツィア・ビエンナーレとアートのディズニーランド化現象

前日に早めに休んだので、機嫌よく起きてヴェネツィア・ビエンナーレの会場に向かった。 ヴェネツィア・ビエンナーレとは、2年に1度行われる「アート界のオリンピック」と呼ばれる大型国際展で、国ごとに展示が行われる。日本の場合、毎回まずキュレーターを選出して、そのキュレーターが作家を選出する形で展覧会を組み立てるのが通例だ。ヴェネツィア・ビエンナーレに選出されるのは非常に名誉なことなのだ。 10時過ぎには会場について、マップと48時間チケットを手に入れた。 メイン会場は2箇所。

ベルリンはいま、ジェントリフィケーションの終わりの季節を迎えている

ついつい夜中まで話し込んでしまうので、起床時間が遅くなる。昼ごろまでマキと彼女のパートナーのトーマスとキッチンでおしゃべりして過ごした。多くの人がもっと豊かにアートを鑑賞できるようになるために、ポップで楽しい消費的なカルチャーではないアートの本質に触れられるようになるために、何が必要かといったら、もっとダイレクトなコミニケーションやアンダーグラウンドのカルチャーシーンを豊かにしていくことだと、トーマスはいう。彼もアーティストなので、視点が面白い。日本で感じる現代アート周辺の課

民族や国家を超越する対話のはじまりに、アートは存在している

またも快晴だ。 長逗留しているゲストハウスで同室のアジア人の男の子たちと、毎朝晩に顔を合わせるので、なんとなく親近感が出てきた。韓国のアート学生の男の子に、どうやって欧州のアート情報を得るのか尋ねてみたら、「皆きっとSNSでつながっている友人や知人から情報を得ているんだと思う」と教えてくれ、なるほどなぁとひとりごちた。 前日までにほとんどのドクメンタ会場をまわってしまったので、市街地からは少し距離のあるWilhelmshoeheでの映像展示を観に出かけることにした。トラム

漂流する現代アートは先端を極めるべきか、裾野を広げるべきか

朝目が覚めたら、快晴の青空が目に入ってきた。早めに休んだので、身体が軽い。洗濯物を済ませて、朝の支度で大渋滞のホステルのバスルームでなんとか身支度を整えると、ドクメンタ カッセルで4つあるメイン会場のうち、まだ訪れられていなかったノイエ・ガレリーに向かった。 入り口ではパフォーマーが迎えてくれる。 彼女が紹介しているのは、黒色の石鹸。ノイエ・ノイエ・ガレリーでも展示されていたものだ。石鹸作りをアテネの企業や市民と協力しながら行ったこと、単に製品を製造するのではなく、世代を

アートの傍では、どんな意見でも許容されることが前提だ

旅に出てから毎朝、前日の経験を咀嚼するためにひとつ記事を書くことを日課にしているが、今朝はふたつめの記事も書くことにした。それだけ、5年に一度開催されるごとに世界からアートファンを集めるカッセルでのドクメンタが刺激的なのだ。書くことで咀嚼して、経験を意識に定着させておきたい。 午後はFRIEDERICIAMという、伝統的にドクメンタの会場として使用されている美術館に向かった。ここは、アテネのドクメンタでメイン会場になっていたGreece's National Museum

アテネとミュンスターで突きつけられたのは、世界情勢や世界のアート情報が圧倒的に不足している日本と、からっぽな自分。

5年に一度、世界から人を集める国際大規模展覧会ドクメンタを開催しているカッセルまでは、ミュンスターから鉄道で3時間弱だ。昼過ぎにカッセルに到着すると、駅前にドクメンタの展示らしきものがあり、駅にもドクメンタ14の開催を示す大きなポスターがあった。マップを手に移動するドクメンタ詣での人も多く見かける。 アテネでのドクメンタ、ミュンスターでの彫刻プロジェクトと、国際大規模展をめぐってきたが、カッセルが最も展覧会に街が活気付いている。しかし、アテネやミュンスターと比べると、街がな

その時、その場所で観るから面白い。だからアートをめがけて旅をするんだ

3日目のミュンスターの朝も、晴れた。慣れない自転車で身体はへたばり気味だが、前日と変わらぬ勢いでワクワクと作品探訪に向かった。なにせ、ミュンスター彫刻プロジェクトは、10年に1度しか開催されない展覧会なのだ。次にこの街に来るのは、きっと10年後だろう。 各展示場所へは、この日も自転車移動だ。ミュンスターは人口の倍の自転車保有率だそうで、自転車用道路も整備されていて走りやすい。が、みな猛スピードで飛ばしているので、交通ルールを守らないとちょっと(かなり)危ない。「逆走しないの

夏の軽井沢のようなミュンスターで、アートをめぐる。そして、芸術は芸術を目的にして何がいけないんだと自問した

ドイツ北西部ミュンスターの夜は静かだ。朝は鳥のさえずりで目を覚ました。よく晴れている。日課にしているnoteの記事を書いてしまった後、朝食を食べていそいそと出発した。朝からワクワクが止まらない。アートに出会いたいという思いが、こんなにも自分を駆り立てていることに、我ながらちょっと戸惑う。何がそうさせるのだろうか。 10年に一度開催されている彫刻プロジェクトの、今回の参加アーティストは34組。複数の作品を展示しているアーティストもいる。加えて、公式マップ上にはパブリックコレク

ふりやまぬ雨の中、世界で一番住みやすい街、ミュンスターに到着

ケルン大聖堂に別れを告げて、やってきたのはドイツ北西部にあるミュンスター。ここでは1977年から、10年に1度、ミュンスター彫刻プロジェクトという野外彫刻展が開催されている。彫刻家のヘンリー・ムーアが芸術と公共のあり方に問いを立てたことで始まったプロジェクトは、今年、2017年で5度目の開催となる。 ケルンで降っていた雨も、鉄道に乗ってミュンスターに移動する間に晴れ間が見えるのではと期待していた。 ところが、さらにどしゃぶりの雨。ミュンスター中央駅のすぐ目の前に設置されて

ケルン大聖堂の横、ルートヴィヒ美術館で浴びるように近現代の至宝を鑑賞する

旅に出てから、毎日、朝の出発前の時間にnoteを更新している。今朝のケルンは大ぶりの雨。アテネの乾燥した暑さに熱中症気味になった身体に、雨音が優しく響く。 昨夜はミュンスター彫刻プロジェクトをめがけてミュンスターに行く前に、フランクフルトからミュンスターまで鉄道で向かう中間地点に位置するケルンで一泊した。駅近くのホステルは清潔で雰囲気も明るく、安い。旅をしやすい時代になったなぁと、つくづく思う。 ケルンについて、荷物をほどき一呼吸おいてから、ケルン大聖堂に出かけた。 ゴ

おおらかで品のいいデザインは、個性ある人や都市をありのまま受け入れる器になる

ドクメンタ14 アテネの会場をめぐりながら、もっと個々の作品と対話をして、それぞれの抱え持つコンセプトを味わえたらとは思うのだけれど、なんだかどこかに「グループ展だから」と諦めてしまう自分がいる。個展ならそのアーティストの問題意識や社会に投げかける眼差し、それをどう昇華させようとしているのか、プロセスも含めて、作品コンセプトがよく見える。しかし、グループ展では、基本的には1作家1作品なのだし、1作品だけを見たのではわからないことの方が多すぎると思ってしまうからだ。 そんな自

小さな肯定感で社会のひずみを乗り越えていく強さは、むくむくのファーの中にだって存在する

生きぬく力と、アートを生み出す根元的な力は同じ。私にとってのアートは、魂の光から生まれ出たものだ。そういう意味では、人間皆がアーティストだと言えるし、アーティストだからといって、ドクメンタのような国際展に選ばれるような作品を作れるとは限らない。要はつくっている本人が、作品をどう研ぎ澄ますのかが問題なのだ。そして、今回のドクメンタ14のディレクター、アダム・シムジックは、どんな風に研ぎ澄まされた作品を選んでいるのだろうか。 「47会場のうち、パフォーマンスのみの会場も多いから

アテネの街に溢れるパッションと、ドクメンタがみせる現代アート

やっぱりアテネの人たちは3人に1人の割合で、ノーヘルでバイクに乗っている。現代アートの国際展 ドクメンタのメイン会場のひとつベネキ美術館(Benaki Museum)に向かい歩いていると、大型バイクを乗りこなす、格好のいい男たちとすれ違う。ギリシャは自由と責任の国。自分も男だったら、ノーヘルでバイクに乗りたい。 アテネに到着してから、初めて向かうドクメンタの会場がベネキ美術館なのだが、THISEIOというメトロの駅から歩けると思ったら、実はかなりの距離があった。適当に方角を

ギリシャの空気を吸い込む ドクメンタは本当に開催中?

アテネに到着。予約していたゲストハウスが、「到着時間を事前に知らせて」とか「別の場所で鍵を受け取って」とか、うるさく連絡してきていたのを、横目でスルーしていたせいで、入り口で少々待ちぼうけしてしまった。海外旅行あるあるなので、気にしない。 飛行機から眺めるギリシャの海はエメラルドグリーンで、空は水色、陽の光は底抜けに明るく、照らされている全てのものがほんのりと白く発光しているようだ。人々は人懐っこく優しく、彫りが深くて美しい人が多い。日本人どころかアジア人を見かけない。