手のひらに乗せて転がす

またタバコを吸い始めてしまった。

ずっと…
と言ってもこの1年くらいだけれど
禁煙できていたのにな。
そもそも禁煙したいと思っているのかさえ
あやしい雰囲気になってきたな、これは。

タバコにまつわる想い出は
色々たくさんありすぎて
どこから手をつけていいのか
わからないくらいあるけれど
どれも今となっては
まあぼんやりしたものになった。

あのタバコの煙の匂いがすると
ぐーんと引き戻される。
ぼんやりした想い出の中に。

だからやめとけばいいのに
こうして定期的にタバコに手が伸びる。

本当は思い出したいのか。

いや、きっと違う。
もうぼんやりとしか
輪郭が残っていない記憶をたどっても
そんなにいい思いもしないだろうに
毎回ぼんやり思い出しちゃうから厄介だ。

不思議とそんなに居心地悪い気はしない。
今となっては、というのが前提だけれども。

きっとわたしにはもう必要ないって思ったから
ぼんやり輪郭だけ残してあとは消しちゃったんだ。
思い出してもロクなことないよっていうことなんだろう。
自己防衛反応なのかな。

いい想い出だったなら
きっちり思い出せるはずなんだ。
その時の感触や色や音や気持ちも全部。
全部はっきり覚えているはずだ。

いつだって思い出して
幸せな気分になれるような記憶って
多少のデフォルメはされていても
リアルなものでしょう。
一言一句覚えているものでしょう。

でもわたしだって
それなりに人生を生きているわけで
そんな素敵な想い出ばかり手元に残す
というわけにもいかないんだということは
よくよく承知している。

どうしたってぼんやりした記憶が
蓄積されていくことは避けられないものだ。

それに加えて
嫌な想い出や悲しい苦しい想い出の呪縛も
なかなかに強烈だと思う。
そういうのをどんどん自主的に
ぼんやりさせていきたいものだ。
気が滅入るから。

それでもできるだけ
綺麗な素敵な想い出だけ集めて
手のひらに乗せてコロコロ転がしながら
のんびり眺めて暮らしていたいなあって
そう思うことは自然なことなんだろうな。

それだけで生きていけると思える時もあるだろうから。

過去なんてもう要らないって
ぽいっと全て放り投げて
はい、リセット!としたい
気分になる時もあるけれど
結局今のわたしの心を支えているのも
そうやって手のひらに乗せたいような
過去の幸せな想い出たちだ。

そろそろ手のひらに
乗り切らない感じになってきて
人生の重みを感じる年齢になってきたな。

なんだかんだ言っても
それはそれでそこそこ幸せなことだ。

ぼんやりこんなことを考えていると
えらい年を取ったような気分になって
またタバコに手が伸びてしまった。

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