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闇を存分に味わって「ザ・メニュー」映画感想文

誰も逃げられない孤島のレストランで
恐怖のディナータイムが始まる…

映画館で予告編を見てから、公開日を楽しみに待っていた「ザ・メニュー」。

最近では、すっかり売れっ子女優になったアニャ・テイラー=ジョイが、狂気のカリスマシェフに立ち向かう極上スリラー。多重人格者に誘拐されて勇敢に立ち向かっていた女子高生が、立派な女性になっていて時の流れを感じます…(M・ナイト・シャマラン監督「スプリット(2016)」)。

本作は、現実と幻想の中間地点にあるような不条理ストーリー。見ている最中よりも、見終わって時間が経つほどに不穏な世界観がじわじわ心を浸食してくる。

孤島の高級レストラン、鼻持ちならない金持ちの客、部下たちを従えカルト集団の教祖のようなオーラを放つカリスマシェフ。予告編では、ゲストたちが夜の森を逃げ惑う緊迫シーンが流されていたけど、正直、新聞で見つけた紹介文を読んですら「具体的に、どんな話なのか」は見えてこない。

見終わってなるほど、「これだ」と筋を説明するのがなかなか難しい。ストーリー自体は「天才シェフが用意した恐怖のメニューを、客たちが強制体験する」というシンプルなものであるはずなのに、どちらかといえばずっと淡々としていて、派手さはない。

狂気の天才シェフというから、ハンニバル・レクター的な人物を予想していたが、はずれた。けれど、期待を裏切られた感じもない。SNSで見かけた「上品なミッドサマー」という感想ツイートが言い得て妙だ。けれど、根本的な部分がちがう。

あえて言うなら、シャーリー・ジャクスンや恩田陸のような、不穏な短編作品を1本の映画にしたみたい。もしくは、悲しみを秘めた人たちを描いたカポーティの短編作品集「ここから世界がはじまる」に入ってそうな感じもある。

考えるのではなく、ただそこにある闇を味わい尽くすための物語。「面白かったー!」と興奮しながら映画館を後にする作品ではなくても、心にこびりついて、不意に思い出してしまう作品だ。


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