見出し画像

がん患者への経済的支援

5月に入り、大型連休。福祉系事業所だと連休をとることは厳しいかったので、これほど5月に連休が取れたのは就職してから初。心身ともにリフレッシュ。海に行きたくなり、子どもを連れて島でのんびり。

さて、がんを患うクライエントに関わる機会はこれまでもあったのだが、経済面の支援を検討したことはそれほどなかった。後見人に就任している方の親族からの話を受けて、少し調べてみた。なお、概要は以下に記すが、実際のケースとは一部変えている。

ケース概要
 48歳 男性  一般企業に勤務中  標準報酬月額26万円程度 単身世帯
 アパート住まい。肝臓がんで化学療法

医療費の負担軽減 


 がん治療は、先進医療でなくとも医療費がかかる。外来での抗がん剤治療だけでなく、入院加療も必要な場合ももちろんある。まず最初に思い浮かぶのは公的な医療保険の高額療養費である。
 被用者保険(協会けんぽ)の場合、自己負担限度額の区分は標準報酬月額によって分かれており、区分アからオまである。標準報酬月額26万円の場合は、区分エとなり、自己負担限度額は57,600円。限度額までの支払いだとしても、月の生活はなかなか厳しくないだろうか。ましてや入院となれば、他に食費等もかかる。食事療養費があってもタダにはならない。住民税を課税されている場合は1食460円。

障害厚生年金を受け取れるか


 医療費の負担限度額があるとはいえ、生活は安定しないと思われる。となれば、別の手がないか。障害年金の取得についてはどうだろうか。

 がんの罹患者は、障害年金の取得自体は不可能ではない。もちろん、保険料の納付要件は満たしていないといけない。公的年金加入期間の3分の2以上の期間について保険料が納付または免除されていること、または初診日のある月の前々月までの直近の1年間に保険料の未納がないこと。これらの要件はAさんはクリアしている。
 がんの場合、診断書は「血液、造血器、その他の障がい用」の診断書(様式120号の7)というものを用いる。この診断書の12という項目、「一般状態区分」が重要と言われている。この区分は以下の通り。

一般状態区分表

上記の表から、下の表の障がい程度を認定することになるがあくまでも目安。


実際の認定は、具体的な日常生活状況を踏まえて、総合的に認定されるため、診断書の他の部分ももちろん大切。医師には自覚症状を伝えたりと、日常生活についてまとめたメモを渡すなどした方が良いだろう。
さて、Aさんの話に戻ると、上記表ではイ程度だろう。ちょっと困難かもしれないが、3級はあり得るかもしれない。3級だと報酬比例部分の年金となり、最低保証額は年額58万6300円。月額に直すと、48,858円。医療費の足しにはなる。

身体障害者手帳はどうか


 方法の一つとしてはあり得る。等級表の肝臓機能障害の欄を見ると、現時点で4級程度かと思われる。ただ、手帳が取得できたとしても受けることができる経済面の恩恵は限られている。電車もバスも使わないし、非課税ではないため、NHKの受信料免除にもならない。所得税、住民税の控除は受けれるが、4級と仮定すると、自動車税の免除にはなりそうにない。

その他の支援策はないのか


 生活福祉資金貸付制度はどうか。生活福祉資金のうち、「福祉費」というものに、「負傷または疾病の療養に必要な経費及びその療養期間中の生計を維持するために必要な経費」とある。貸付限度額は580万円。償還期間は20年。連帯保証人があれば無利子で借りれる。実施主体は都道府県社会福祉協議会であり、窓口は市町村社協。

 しかし、実際に借りたというケースを知らない・・。それほど申請がなされず、審査も厳しいとの噂。社協職員に聞いても、やはりそうらしい。

まとめ


 結局、Aさんのように仕事をしながらがん治療をしているケースには、やや経済的支援が不足しているように思う。年金にしても、重度になれば(縁起でもないが)1級や2級の道はあるが、誰が申請するのか。そして申請から認められるまで数ヶ月。がんの進行いかんによっては、間に合わない可能性もある。
 国ががん支援に力を入れていることは知っている。子宮頸がんワクチンやがん支診療連携拠点病院の整備、相談支援センターの設置などもある。肝臓がんの場合は、肝炎検査の推進も検討中だとか。しかし、治療のほどはまだ話題に上がるような画期的治療方法はなく、Aさんのような治療過程での経済的支援は全く力を入れられていないのではないだろうか。金持ちは先進医療も受けれるだろうが、一般的庶民の命を守る政治を行なってほしいと心底思った。 
 『ならば、民間保険に入っていれば良かったのでは?』と言われる方もあろう。それも経済的に余裕がないと保険料出費は痛い。そもそも、民間保険ががん支援の経済面支援を一手に担うべきなのか。一生のうちにがんにかかる確率は男性は65.5パーセントなのだ。国民病に近い状況にも関わらず、治療の可否、罹患した後の生活を個人の判断・責任のみに委ねるべきなのか。この国は今一歩、がん罹患者の治療、生活全般の支援を考えるべきだ。

 

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?