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蒲焼きの冠者

鰻の蒲焼き、久しく食べていない。
もはや絶滅危惧種になるかもしれない鰻、値段も張る。かといって割安な中国産は食べたくない。もう少し手軽な蒲焼きが作れないかと試行錯誤しながら、蒲冠者と呼ばれた人物を妄想した記録。


材料

木綿豆腐  半丁
卵     1個
米粉    豆腐の半量
黒摺り胡麻 たっぷり
焼き海苔  全形1枚
醤油    大匙3
味醂    大匙1
山椒    お好みで

源義朝には8もしくは9人の男子。三男が頼朝。八男とも九男とも言われるのが義経。その間、六男が範頼。遠江国蒲の御厨(静岡県浜松)という所で生まれ育ったことから、蒲冠者と呼ばれる。
久安六年(1150)に生誕。母親は池田宿の遊女と言われています。頼朝より3歳下。義経よりも9歳上。
平治の乱で父、義朝が敗死した後、藤原範季に養育され、その一字を頂き、範頼と名乗る。


豆腐を崩してキッチンペーパーに挟んで重しをして水切り。

以仁王の令旨を受けて諸国の源氏が平家打倒に立ち上がりましたが、いつの段階で頼朝の陣営に加わったのかはよくわかりません。
義経が天才的な軍略で、いわばスタンドプレー的な活躍を見せたのに対して、蒲冠者範頼はどちらかというと地味。しかし頼朝の命令を忠実に実行するということから、より信頼されていたように見えます。
率いる軍勢も多く、大手を堂々と行く範頼に対して、義経は少人数での奇襲を得意として独断専行、搦手を行く。木曽義仲追討、平家との戦いの司令官として、この兄弟はそれぞれの役割を果たしていく。


豆腐、米粉、卵、醤油大匙1,黒摺り胡麻を混ぜ合わせる。

源義経が華々しい活躍を見せた屋島の戦いや壇ノ浦の戦い。それが可能だったのは、実は範頼が先行して九州に上陸して平家の拠点を奪っていたから。
スターが活躍する裏方?
兄弟の活躍で、父の仇であった平家滅亡。その後の処理を範頼は任される。壇之浦で海に沈んだ三種の神器の捜索がもっとも大事な任務。
それだけ信頼されていたと言える。


八等分にして、油を引いたフライパンで焼いていく。

狡兎死して、走狗煮らる。というのは漢帝国建国の将軍、韓信が遺した言葉ですが、義経は正にその運命を辿る。天才的な軍略の才は平家という敵がいる間は重宝されていたが、用済みとなると殺された。
それを間近で見ていた範頼、義経を他山の石として、決して出過ぎたことはせず、頼朝の代官として忠実一途。
というのが大方の見方ですが、本当にそうだろうか?と疑問が浮かんだ所から妄想が始まる。
対平家の戦での危ない局面は義経に任せて、範頼自身は大将軍として大手を行き、功績は頂く。
義経が追い込まれていくのを何の弁護もせず、見殺し。というよりもその独断専行ぶり等をあれこれと兄、頼朝に吹き込んでいたのではないか?自分の最大のライバルになりそうな義経を葬るのが目的?
最終的には源氏の血を引く自分が武家社会の頂点に立つ。それまでは野望は決して気付かれないように、深く静かに事態を進める。

焼けたら引っ繰り返し、八等分に切った焼き海苔をそれぞれ乗せていく。

範頼について奇妙なことが発覚する端緒となったのが、曽我兄弟の仇討事件。↓

富士の裾野で起こった騒動の直後、範頼は鎌倉にいる北条政子に
「自分がいるから、後の心配は要りません」という旨の報告。
これは源氏の血を引く者として、範頼が健在なので、頼朝や跡継ぎの頼家が亡くなっても鎌倉幕府は安泰と言っている?
猜疑心が強い頼朝が範頼は野心を抱いていると邪推したと、一般的に解釈されることが多いのですが、もしかしたら邪推ではなく、本当にそうだったかもしれない。頼朝はそれまで巧みに隠していた範頼の牙を見抜いた?


両面焼いたら、残りの醤油と味醂を投入して煮絡めていく。

範頼は疑われていることを知り、二心がない旨の起請文を提出。
それには「源範頼」と書名。源を名乗るのは僭越なりと頼朝の更なる怒りを買ったと言われます。
起請文とは神に誓うという主旨の文書。姓を書くのは普通にも思うのですが?
現代では姓と苗字は同じものと思われていますが、厳密には違います。
姓とは源平藤橘等の、天皇から賜った氏族の名であり、苗字というのは住んでいる地名とか官職から取った呼び名。
わかりやすい例だと木曾義仲の木曽は彼が住んでいた地名であり、正式な姓は源。源義仲が正式な姓名ということになります。
範頼は武蔵国の吉見に所領を持ち、吉見御所と呼ばれていたので、頼朝の基準からすれば、吉見範頼とでも書けばよかったのか?

蒲焼きの冠者

主原料は豆腐なので低カロリーで高タンパク。摺り胡麻たっぷりでセサミンとかゴマグリナンといった胡麻の抗酸化成分もたっぷり。醤油と味醂を煮詰めたタレ、簡単な物ですが、家庭料理は簡単手軽で十分だと思います。
甘味も砂糖など使わずとも味醂で用足りる。
山椒もこの味によく合う。
皮に見立てた海苔は噛み切れないけれど、それも一息に食べればよし。
日本人のみが海苔や昆布という海藻類を消化して栄養を吸収出来ると聞きます。日本人でよかった。

範頼の家人、当麻太郎が頼朝の館の床下に潜んでいたのが見つかり、捕まるという事件が発生。
起請文を提出しても反応がないので、様子を探るために潜んでいたと弁明。怪しい。
本当は富士の裾野で頼朝と嫡男の頼家を騒ぎに乗じて殺すつもりだったが果たせなかったので、暗殺のために潜ませた?
こうしたことが重なり、ついに範頼は伊豆へ追放。殺されたと言われます。
修善寺にある源範頼の墓、立派な五輪塔だったのを見た覚えがあります。
一般的には地味だが堅実な仕事をしたのに、疑われて悲劇的最後を遂げたと思われている源範頼。もしかしたら裏の顔があったのではないかと妄想しながら、蒲焼きの冠者をご馳走様でした。

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