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ほうれん隠元禅師

インゲンマメとは隠元が日本に持って来た物ということは知っていても、その隠元については殆ど知られていないように思います。
というか、最近ではインゲン豆の由来自体も知られていないし、興味も持たれていないかなあ。
江戸時代初期に中国からやって来た隠元禅師を妄想しながら隠元豆を料理した記録。


材料

隠元豆   1パック(10本位入っていたか?)
ほうれん草 1杷
卵     2個
ツナ缶   1個
片栗粉   小匙1
醤油    小匙1
水     小匙1
有塩バター 10グラム
胡麻油   適量

日本で禅というと臨済宗と曹洞宗。しかしもう一つあります。それが隠元が日本に伝えた黄檗宗。日本の黄檗宗は立宗が江戸時代初期ということで比較的新しい宗派。当初は曹洞正宗と言っていたとか。
当時の中国は明朝が滅びつつあり、新たに満州族の国、清が建国されていった頃。
明の暦では万歴二十年、日本では文禄元年、西暦では1592年に中国は福建省に誕生した林曽炳が後の隠元隆琦。


適当な長さに切ったほうれん草を茹でる。

それなりに裕福な家だったらしいのですが、6歳の頃に父親が失踪。以後、父を探すものの手掛かりは得られず。10歳又は16歳の頃に仏教に惹かれるようになったが、出家は母に止められていました。
20歳の頃、妻帯を勧められるものの、
「父の行方がわからない内は結婚など出来ない」として父親を捜す旅に。
一年程、彼方此方を探し回ったものの、結局は見つからず。
帰郷後、母が亡くなった後に黄檗山萬福寺にて出家。


卵、片栗粉、水、醤油を混ぜ合わせる。

35歳で印可を受ける。つまりは一人前と認められたということ。非常に真面目で厳格な人だったようです。
僧侶は喫煙を戒律で禁じられていましたが、こっそり楽しむ者もいました。喫煙者は意識していないかもしれませんが、煙草の臭いは非喫煙者には非常に鼻につく。
隠元が本堂に入った時、その臭い。
修行僧達を集めて説教。
「煙草の煙を吸って吐く様子は炎に包まれた鬼神のようだ。どうしたことか、この神聖な道場にそんな草が生えているようだが、これでは五戒どころか六戒を説かねばならない」


へたを取り、筋を取った隠元豆をバターで炒める。

同じ頃の日本では江戸幕府が成立。所謂、鎖国が開始。ただ鎖国というよりは制限外交と呼ぶべきで、まったく外国人の出入りが禁じられていた訳ではなく、オランダや中国とは貿易、朝鮮からは通信使という使節が将軍の代替わり毎に来日。
外国人が居留していた長崎では、中国人のための寺院。唐人寺と呼ばれていました。そうした寺の一つ、崇福寺の住持に空席。同じく唐人寺である興福寺の住持が隠元に来日を依頼。因みに、この興福寺は奈良にある阿修羅像で有名なお寺とは関係ありません。単に同じ名前。紛らわしいですけど。


調味料を混ぜた卵を炒める。1/3熟位で取り出す。

隠元は弟子を派遣したのですが、船が座礁して死亡。隠元自身の来日要請は四度に及び、ついに腰を上げる。
承応三年(1654)に長崎へ。この時、船を用立てたのは鄭成功。近松門左衛門の戯曲「国姓爺合戦」の主人公のモデルで、台湾に渡り、明朝復活のために清に対抗していた人物。この後、台湾が清に占領されたことから、台湾は中国の一部という論理の根拠になってきます。現代の歴史と繋がってきますね。


茹でたほうれん草とツナを胡麻油で炒める。

翌年に崇福寺に入る。
当初、隠元の日本滞在は三年の予定。しかし、多くの人々が引き留め、更に四代将軍、徳川家綱にも会見。京都の宇治に土地を賜り、其処に寺院を建立。
黄檗山萬福寺と命名。この名前、先程も出て来ました。
隠元が出家した寺と同名。
更なる長期滞在どころか日本に骨を埋める決意をしたという瞬間だったのかもしれません。


隠元豆と卵を戻し入れて更に炒める。

萬福寺の住職にあること三年で引退。
後水尾天皇や皇族、大名なども帰依した隠元に、紫衣を授けられるように弟子達が運動したことがありました。
紫衣というのは高位の僧侶のみが着用を許される衣装。
日本に中国式の禅を伝えてくれた功績に対する感謝という意味があったのかもしれませんが、これを知った隠元は断固として拒否、運動を止めさせました。世俗的な権威に繋がりかねない行為と感じたのでしょう。名誉とか権威に拘らない性格を示しています。


水分が飛んで来たら、ほぼ完成。

隠元が日本にもたらしたのは黄檗宗という教えだけではなく、この料理に使っている隠元豆、西瓜、蓮根、孟宗竹、更には明朝体。それに煎茶道。
普通の家庭で飲まれているお茶は殆どが煎茶ですが、その飲み方を持ってきたのが隠元。(厳密に言うと違いはあるようですが、ほぼ同じ扱いになっています)
精進料理の一つである普茶料理。
また木魚の原型となった魚板。


ほうれん隠元禅師

隠元豆だけではメインになりにくいということでほうれん草とのコラボ。
ツナと卵という二つの動物性食材の組み合わせ。
バターと胡麻油と、油脂も動物性と植物性の組み合わせ。
胡麻油の風味が卵に絡み、それが更に幅広なほうれん草にも絡む。
有塩バターが沁み込んだ隠元豆が歯応えも風味もよい。無塩バターを使う場合はお好みで塩を足して下さい。
ほうれん草の柔らかさ、隠元豆のしっかり感と二種の食感が楽しめる。
タンパク質、鉄分、ビタミンと各種栄養も文句なし。

この料理は動物性素材を使っているので、精進料理ではありませんが、いつか普茶料理という物を食べてみたいと思っていますが、なかなか果たせない。

隠元が黄檗宗という新たな宗派を起こしたことから、日本に既存の臨済宗や曹洞宗の戒律復興運動にも貢献。
隠元が来日、日本に骨を埋める決心をしたのは、父親を見つけるという望みを叶えられなかったから、自分は人の望みを叶えるようにしようと思ったのではないだろうかと妄想しながら、ほうれん隠元禅師をご馳走様でした。

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