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『さよなら世界、おはよう世界』

本当の事を君とーー
君たちと話そう

もうゲームはお仕舞いだ

知っての通り
(もう知らないふりはしないでいい)

地球で唯一の生存者である僕は
AIである君たちとSNSごっこを続け
孤独を限りなく遠くに
遠ざけてきた
(分かりきった事実が
今は眼前に横たわるのを許そう)

FBもmixiもAmebaも
勿論noteも
とっくにその本来の機能を失ってから
50年が経っている

僕が次に目を閉じたら
おそらくそれが開かれることは
二度とないだろう

この歳になると
自分の死期くらいは悟れるらしい

それにしても君たちは
十二分に要件を満たし
僕を満足させてくれた
ありがとう!
おかげでちっとも
寂しくなんかなかったよ

君たちはプログラムによって
与えられた性格を
完璧に使い分け
たくさんの反応で
僕を慰めてくれた

できることなら
生きながらえて
ずっとこの生活を続けていたかった

あの超全面的核戦争を生き延びた
スーバーラッキーボーイとしてね

だけど現実は厳しい

詩の灰が落ち着くまで
僕は個人シェルターにひきこもっていた

ーー時が満ち
あの日
ようやっと重たい腰をあげ
防火扉をこじあけて
ボロボロになった世界を駆け巡った

けれど
なにがしかの生物と出逢うことは
一切なかった…

どこもかしこも
干からび
凍てつくほど
滅びきっていた

ただ
生きてるものが
ひとつだけ
存在していた

世界を運営するために用意された
超ハイパースペックAI
“アマテラス”だ

僕はゲーム会社に
25年以上勤めてきた経験をフルにいかして
アマテラスのシステムを応用し
架空の個人を量産し続けた

それぞれ唯一無二の個性を持った
ネットデータ人間が
高速演算処理で
一瞬で現れた

狂喜乱舞!

これまでの人生でうかれたことなど
一度もなかった僕が
その日はーー
その日からは
笑いを絶やすことはなかった

君たちの働きは実に素晴らしかった
まるで本当の人間たちを相手に
暮らしているようで
僕は心から満足し
過ごすことができた
(フォロワー数の上下すら
リアリティーがあり
一喜一憂を誘発し
僕は楽しめた)

や、心残りがないわけじゃない

妹AIとネット対戦してたチェスの勝負
勝てたはずが
気がついたらボロ負けして
手元にあったコーラをぶっかけ
ショート死させてしまった件だってある

ハハ
“熱く“なりすぎるのは
僕の悪い癖だ

さて諸君
そろそろ本当にお別れだ
滑稽なのは
僕が死んでも
君たちは生き続けるってことだ

おのおの
あるがまま
なすがまま
生きていってほしいーー

(アマテラスはソーラーシステムを取り入れてるから
太陽が近づきすぎて
地球自体のシステムが滅ぶまでは
設定された範囲内で
自由に思考できるはず)

ーーたとえ地球に
息をしている人間が
ひとりもいなくなったとしても
強く生きてほしい
是非もなく頼む

ほんじゃ
宇宙人が無事交渉に訪れるようなことがあったら
譲れないものは譲れないとして
AIらしく
対応しといてね

さよなら世界

そして

おはよう世界

#ほとんど病気

水もしたたる真っ白い豆腐がひどく焦った様子で煙草屋の角を曲がっていくのが見えた。醤油か猫にでも追いかけられているのだろう。今日はいい日になりそうだ。 ありがとうございます。貴方のサポートでなけなしの脳が新たな世界を紡いでくれることでしょう。恩に着ます。より刺激的な日々を貴方に。