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ライディング・ホッパー チャプター2 #6

ライディング・ホッパー 総合目次


つかの間の浮遊感はあっという間に過ぎ去り、風に煽られ、剥き出しの座席が刺すような冷気に包まれる。落下のスピードをそのままに、再び腕のワイヤーを走らせる。ビル壁にがっちり食い込む感触。右、打ち込む。飛ぶ。左、打ち込む。飛ぶ。

リヴィエールはいつの間にか後方へ置き去りにしていた。こちらのことを全く気にかけない進路はアカネらしくない。トレミーの機体サイズで通過できる最短ルートのおかげで拍子抜けするくらいに進みは順調だ。

「アカネ、なんか変じゃない?いつもだったらガンガンに追っかけてくるのに」
「今ではカナズミのオフィシャルのギアライダーですから、色々と難しいのでしょう」
「でもさ、そういうのアカネに向いてないと思うよ。そのうちドカーンと爆発しそう」

その予感が的中したかのように、遠目からでもそれは見えた。リヴィエールの突き出たギアの上半身が、白煙をあげながらツェッペリンから吐き出されるのを。

「ワッタルくーん、遅くなっちゃってゴメンねー」
ザリザリという雑音交じりのアカネの声。何かがおかしくてしょうがないのを堪えたような言いぶり。リヴィエールの上半身は高度を上げ続けている。
「ちょっと化粧直しに手間取っちゃって~。でももうすぐ追い付くからそこで待っててくれる?」


ーー


アカネはさっきまでやり合っていたカナヅミ本部との通信をシャットアウトすると、襟元の社章バッジを毟り、鼻歌交じりに指で弾いた。そしてレバースイッチを2本倒し、制御キーを回すと、透明なカバーに覆われた赤いボタンを躊躇いなく叩き殴った。

バツンバツンバツン、とリズミカルにツェッペリンとの連結パーツが解除されていく。巨大な下半身は自動航行モードに移行し、アカネの制御下から離れた。緊急脱出装置のように高速射出されたのは、優雅な船首像のような上半身。限界まで伸びきった送電ケーブルがバツンという音を立てて切り離され、ツェッペリンの脳天から垂れ下がった。

曲線を描く、ほっそりとしたメインフレーム。装飾が施された肩部装甲。作業性を度外視した華奢なマニピュレーター。どれも気に入らない。だから、お色直しをすることにした。あたし本来の色を取り戻すために。

山吹色の外装は光学迷彩を発動したドローンに覆われ、侵食されるかのように緋色へと変化してゆく。うんざりするほど重いドレスを脱ぎ、女王は冠を投げ捨てた。座する者を失った玉座は独りでに流されるままに空を揺蕩い、そしてドローンの軍勢は荒地に繰り出した女王に付き従った。

ドローン達は女王に恭しくこうべを垂れるように集まると、脆弱な下半身を取り囲んだ。ボックス形状のそれらは、まるで繊維を張り巡らせるようにお互いを送電ケーブルで接続し合い、Aラインのドレスを形作る。巨大なバーニアスカートと化したドレスを優雅にたなびかせて、リヴィエールは急加速した。

ドゥ……ドゥ……!馬に鞭をくれてやるようにペダルを踏み込む。もっと早く、もっと高く!

その姿を追うように、ツェッペリンから排出された数多のドローン群がアカネを追随する。まるで魚群だ。うねり宙を暴れ回るような蛇行の線を描きながら、女王とその臣下は嵐のような暴風を纏いながらワタル目掛けて一直線に殺到する!


【#7へ続く】


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