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ライディング・ホッパー チャプター2 #7

ライディング・ホッパー 総合目次


モニタを確認する。リヴィエールは一直線に"ここ"を目指して一直線に突き進んでくる。距離が離れているにもかかわらず、肉食獣に目をつけられたかのような緊張感が全身を満たした。

「かなりの速さです。リヴィエールの飛行ルート上に乱気流が発生しています」
「ルート変更!もっと低空でこいつがギリギリ通り抜けられる道を検索して!」

ライディングギアレースでは相手の機体を直接攻撃することは固く禁じられている。だが、不幸なクラッシュ事故は少なからず存在する。例えば進行ルートがかち合い、両者譲らず接触しお互いに大破するとか。

あの状態のリヴィエールとトレミーでは明らかに機体質量が異なる。今のワタルはさながら荒波に攫われる寸前の小舟だ。もしもあの紅い旋風に巻き込まれたら無事では済まない。あの巨体が入り込めない狭い空間か、地上すれすれの道を……!

グライダーを切り離す。もう風に乗って飛ぶことはできない。トレミーはダイビングの姿勢で地表めがけて急降下、高層ビル群がそびえ立つ都心部へ入り込む。リヴィエールの大きさであれば密集して立ち並ぶ高層建築の間は潜れないだろう。そう思った。先行してきたドローンが数台、ワタルの隣を通り過ぎていった。

「ワタル、もっと高度を下げて!」
「のあっ!?」

バランスを崩しあわや地面に墜落する直前に、アンカーは辛うじて壁面に突き刺さった。一拍置いて、頭上に大量のドローンが大挙して押し寄せた。リヴィエールの”ドレス”から零れた群体が、女王を護衛するように周囲を飛び交っているのだ。混じりけのない赤色がゴーグル越しの視界を染めた。

「すごいや、まるで濁流みたい」
「もはや人工的な津波の様相です」
「一か八か乗ってみるしかないね、こんなビックウェーブ!」

ワタルの顔はらんらんと輝いている。問題のぶち当たっても決してめげずに、原因究明、現状把握、対策立案、そして実行に移す行動力と精神力は非凡だ。それ故に自身の身を軽んじたり、容易に他者を巻き込んだりもする。その様をずっと昔からトレミーは見てきた。そして彼の行動原理はただ一つ。「ワタルに献身せよ」と。己の使命に従い、AIは主人に返答する。

「では、私は波を目で捉えます。ワタルは舵取りを」


【#8へ続く】


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