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本屋大賞2024

ノミネート作すべて、無事読破📚
今年はひとりで、ジュッと短期戦でした。
それもまた良きかな。読んだ順。

『リカバリー・カバヒコ』青山美智子

唯一ノミネート発表前に図書館で見つけ、1時間半で読んだ。昨年度ノミネート作『月の立つ林で』と同じ構えをもっていた。『赤と青のエスキース』『お探し物は図書室まで』もそう、もう型が決まっている。短編で、それぞれが繋がっている。誰にでもわかる。ほろほろする。それが悪い、ということがない。安心するし他の作品にも手が伸びやすい。そして今作。不安は想像力だ。カバヒコの頭を触りたいよ。

『放課後ミステリクラブ 1金魚の泳ぐプール事件』知念実希人

子どもの頃、のぞむ全員に、こんな部室があったらいい。美鈴さんの宙返りはちょっと面白だった。児童書特有のやりとりの痛さ、気恥ずかしさは必要? 子ども向けかどうかは関係なくミステリにどこまで深い納得を求めていいのだったっけ。「お医者さんをしながら」なの。恐れ入る。

『黄色い家』川上未映子

終盤になるにつれ重たくなってゆく。納得のいく歯車のくるい方をしているわけではない。この重みをもって、作者が喩えたものを、読み手もまた能力に応じてほどきながら、気づける範囲のものに喩えて読む。同じと違うを探す。捉えは自分の置かれた状況によって変質してゆく。お金について自分の考えをまとめてから、改めて感想文を書いてみたい。情景描写と、言うなれば過程の気持ちに名前をつけてくれるところと、ギリギリアウトな極端のひらがな遣いにばななイズムを感じている。黄色だしね。

『レーエンデ国物語』多崎礼

ひとまず日本の王道ファンタジーシリーズものになりえると言っていいのではなかろうか。単発は『新世界より』。処女懐胎はそれこそファンタジーすぎて胡散臭いけれど。そしてその子どもはわりと投げっぱなし? キャラクター全員が立っている。プリムラがいい(『福田村事件』を思い出した)。変に台詞がほぼくすぐったくないところもいい。唇味わいたがっているところだけギリギリアウト。こちょばしいです。全員のおわりまで語ることで一人のおわりの哀しさがぼんやりとする。私はそれでいい。

『成瀬は天下を取りにいく』宮島未奈

各所で評判高かった一冊。ひょっとして今よりひとつ分、全員が本を好きになるんじゃない?! というパワーと勢いがある。間口が皆にとっても大きくひらかれている。こぼれる笑みの途中で暑さに耐えきれず唸りながらもばばっと読み切った自分が誇らしい。『レッツゴーミシガン』が好きすぎる。苗字呼び捨てで、けれども確実にフルネームを覚えている元坊主頭の、そして親にもRPGの村人口調の彼女のことを、誰にでも似ている私たちは早めに好きだと認めるだろう。成瀬は遠くても、きっと私も緊張することに慣れることはできる。

『存在のすべてを』塩田武士

産むと育てるはつながらないってここ最近ずっと考えていた。麻生幾『極秘捜査』(最近読んだ)よろしく社会派ノンフィクションタッチの誘拐事件捜査ファイルかと思って読み進めると、立場がかわって視点がかわってまるまる納得した。フィクションであっても誤解されている状況が苦手な私に対して十分な説得力をもっていた。写実って何のことにでも言えるのだと思う。大きな喩えだ。フェイクとその他大勢の名前がやや入り組んでいて野本(父)の行方を掴み損ねてしまった。モデルがいたんだ。

『水車小屋のネネ』津村記久子

自然は自然。確かに新聞で連載されるような運び方だった。地域の人々の親切具合もネネの一生かと思いきやおわりが示されなかったところも自然。母とその婚約者のところだけエンタメ。あとはネネのかわいさか。律の眼差しに若干の示唆が含まれていた。時代が反映され気味。

『君が手にするはずだった黄金について』小川哲

昨年度ノミネート作『君のクイズ』同様、簡潔さ(+納得!)が売りと思っている。故にか記憶の残りにくさはある。とにかく軽やかなのだ。タイトルと装丁が好み。塾行くような小学生にはいって渡してあげたい。

『星を編む』凪良ゆう

つまんない大衆としての私の、理解の器を広げてくれる。物語、という距離がないとまだ難しいラインではある。現代はそのまま島の人々だと思うし。エピソード0は余程のことがない限り冷めがちな自分にとっては、昨年度ノミネート作『汝、星のごとく』から一年後の、少し忘れた頃に読むので良かったかもしれない。

『スピノザの診察室』夏川草介

コトー先生を思い起こしたりなんかして読んだ。たとえ静かにしていても透けて見えちゃう才覚って熱くて敵わない。医療分野をエンタメとして読んでいくことはこの先だんだんとできなくなっていくかもしれない。そう考えることも苦しい。でも大丈夫だった。大丈夫だった。

いいなぁ順
1 『成瀬は天下を取りにいく』
2 『存在のすべてを』
3 『黄色い家』
4 『リカバリー・カバヒコ』
5 『レーエンデ国物語』
6 『スピノザの診察室』
7 『水車小屋のネネ』
8 『星を編む』
9 『君が手にするはずだった黄金について』
10『放課後ミステリクラブ 1金魚の泳ぐプール事件』

‘親’と‘時代’を取り扱ったものが何と多いことか。純粋な好きのみならず、勝手に書店員さんの気持ちになって読まれたいという余念がないでもない。ジュッと読んだ計2週間のあいだ、今回は誰とも分かち合うことがなかったけれど、そして読み始めるまでにぐずぐずと時間がかかったけれど、不思議と昨年度よりも早く読み終えてしまった。大抵は乗りものの中で、時に人混みのあいだに座って、頁を駆け抜けていった私は読み手として誠実だっただろうか。これからどうしても忙しなくなる息継ぎに反して、届いた文芸誌をまったりと読む日常に戻ります。
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