つぎのすけ・ザ・ガットリング
その昔。
江戸時代の終わりごろ。
今の新潟県の長岡市に、河合継之助(かわい・つぎのすけ)というちょっと変わった名前の人がいた。つぎのすけ。なんだか、すわりの悪い名前だ。
当時の長岡藩の家老という、まあ長岡国(藩)の首相みたいな重役を担った。
明治維新が始まったとき、この河合継之助という人は新政府と戦争をして長岡を火の海にしてしまった。だから今でも長岡ではこの人を嫌う人がいるという。
ところでこの人が変わっていたのは名前だけじゃなかった。子供のころ家の庭で、おもむろに鶏をぶった切って神様にささげて「おれはこの長岡国をひきいる人物になる」、などという芝居がかった見得を切ってたらしい。ルフィが「おれは海賊王になる!」って言っても漫画だからいいけど、この人はリアルでマジにそれをやった。じぶんちの庭血だらけにして。
このとき継之助十四歳。
江戸時代の中二病だ。まさに歳が中二でもあり。
でさらに、これをやらかしたあとのヤング継之助くんは、周囲の空気を読むこともせず、情熱のおもむくままに俺様ワールドをつくっていく。親も先生も友達も奥さんもみんな馬鹿にして足蹴にしたりして自分のやりたいようにかましまくる。そのうち会社に就職(長岡藩ね)するが偉いさんをことごとく馬鹿扱いして2ヵ月でクビ。そのあとはプーをしながら全国をぶらぶらして好き勝手に暮らす。中二のまま大人になっちゃった。社会不適合者。もう後は引きこもりになるかパチプロになるしかないでしょう。
と こ ろ が。
江戸時代の恐ろしいところはここからなんです。これだけやらかしまくった継之助君なのに親父が隠居するとそのあとをついで長岡藩に再就職する。 ふっかーつ。
あれ?
なにそれ。そんなのありなの?
ありなんです。それが江戸時代。それが幕末。
そのあとも殿様の親せきを罵倒したりしてまたもやクビになるのだが、なにせ殿様だから、こういうキ××イみたいなやつをいままで見たことなかったんでしょう。(も、もしかしたらちょっとすごいのかも)と思っちゃった。維新で世の中がざわざわしだしたら、「継之助、ちょっとお前いろいろ仕切ってみろ」って言っちゃったんです。継之助君は14歳の時からその気満々だったわけですから(よしきた。オレの時代きたわ。)と社長をバックに大社内改革をやります。アホの上司はぶった切る、無駄はかたっぱしから切り捨てる、そいつを全部武器に突っ込む。世の中準戦時状態ですから、Everything for the war. 殿様が大事にしていた伝来の家宝まで売り払ってハマの不良外国人からイケてる武器を仕入れます。殿様が「え、ちょ、それも売っちゃうの?いやいやいやほんと無理それは先祖代々の一番大事なやつ…」って涙目で言っても(ほんとに言った)知ったこっちゃない。そういう子なんですこの子は。
で、その中でも当時世界最新鋭の「ガットリング・ガン」っていうのが継之助君の大のお気に入りになった。
ガットリング、って強そう。
つぎのすけのガットリング。
日本には当時三台しか入っていなくてそのうちの一台を継之助が買ったわけです。これはハンドルをぐるぐる回すと滝のように銃弾が飛び出て敵を撃ちまくるっていう、でっかい機関銃です。まだ先込め銃という火縄銃に毛の生えたようなものを使っている藩がたくさんあった時代に機関銃です。もうガンバスター手に入れたようなものです。(わかんないか。ごめん。)
ちなみにこのガットリング・ガン、映画『るろうに剣心』のクライマックスで悪役の香川照之が主人公の佐藤健めがけて撃ちまくってます。もちろん佐藤健は佐藤健なだけに滝のように降り注ぐ銃弾を全部よけます。たけるくんに当たる弾なんてこの世にはないんですよ。
まそれはさておき河合継之助の生涯を描いた名著「峠」(司馬遼太郎著)にもこれが出てきますが、継之助はこのガットリング・ガンをこよなく愛し、こいつを使うために戦争始めたんじゃないかと言ってもいいくらいな入れ込みようだったそうです。
そりゃそうだ。
中二病といえば武器。傷んだ少年のガラスの魂はウェポンが大好きなんだから。
…中二病の首相を持った国の民は気をつけないといけない、というつまらん暗喩めいた落ちになりそうなので、今日はここまでにします。まだ文章修行が足りてません。ごめんなさい。
ー長岡市 河合継之助記念館にて