爆発侍 尾之壱・爆発刀 四五

 二天流において構えとは、平常時非常時に関わらず、「何時如何なる局面においても」敵に応じる身構え、心構えを言う。

 敵を斬る為に「その時最も良い位置」に剣を置く事こそが、二天流の「構え」であった。

 一見、だらりと両手を下ろし、ただ立っているだけに見える宮部のこの姿も、二天流においては立派な構えなのである。

 右手に小刀、左手に大刀という変形二刀流は二天流で言う所の「逆二刀」であるが、その所作に関しては、今のところ右門の知る二天流の基本に忠実にあるように見える。

どうやら宮部の剣術は「我流」を名乗ってはいても、基本の所作は二天流のそれに準じているようだ、と右門は見当を付けた。

 次の瞬間、その右門の見当はあっさりと却下される。

 宮部の腰がすっと下ろされると、左肩が大きく後ろに引かれる。

 そのまま、右手に構えた小刀を前に、右門に対してほぼ右半身のみを晒す形になった。

 小刀の切っ先は右門の鳩尾に向けられ、左手の大刀は宮部の身体に隠れ、完全に見えなくなった。

 なるほど、どうやら全く違う。

 右門の頭から、想定していた二天流の所作がきれいさっぱり消え去った。下手な二天流の知識が宮部との戦いにかえって徒になるかも知れないと、本能が告げたからである。

 右半身に構える事によって、宮部の身体の急所が全て隠れ、此方が攻める事の出来る面積も半分に減った。

 この体勢でどのような初太刀が来るものか、それを受けるか、それともこちらから打って出るか。右門の一瞬の迷いが手にした木剣に現れ、ほんの僅かだが切っ先が下がる。

 その瞬間、宮部が動いた。

 更に上体を屈め、右足を踏み出すと、右手の小刀が凄まじい勢いで突っ込んでくる。

 右門はそれに合わせて後ろに退がる。

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