爆発侍 尾之壱・爆発刀 四九

だが、右門の意を読めずざわつく観衆の中で只一人、堤節治だけが、満面の笑みを浮かべ、右門を見やった。

「右門め。く、あれを出す踏ん切りをつけたか」

「先生……あれを出す、とは?」

 堤のつぶやきが耳に入ったのか、傍らにいた慈外流の門人が小声で問う。

 堤は右門から目を離す事無く、笑顔のままそれに答えた。

「良いか、これより後は瞬きすら惜しめ。お前はこれから、慈外流の真髄の一つを見る事になるぞ」
 
 
 切っ先が下ろされたその構えを前に、宮部は僅かに眼を細める。

 この試合の最中、右門が下段に構えを取るのはこれが初めてである。

 詰まるところ――

「攻めを諦めたか、龍堂右門」

 そう口にしたものの、宮部は右門を迎撃する意思を少しも緩める事をしなかった。

 何故ならば、右門の眼の光が、その全身から放たれる気迫が、防御を意としたそれとは全く真逆のものだったからである。

 そもそも攻めを諦めた男が、鬨を上げるなど有り得ぬ。

 龍堂右門は、なにかを企んでいる。

 剣客としての経験、そして怪妖としての本能が、同時に警鐘を鳴らした。

 どのようなものかは解らぬが、目の前の剣客のあの構えから、なにかが繰り出される事は間違いない。

 面白い。

 知らぬ技ならば、是非とも見てみたい。

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