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【漢法いろは塾】1月15日(第三・日曜日)の定例会に参加してきました #7

こんにちは。東です。

奇数月の第三日曜日に開催の漢法いろは塾。1月15日(日)の今年最初の定例会に参加してきました。

▼いろは塾は私の所属学会です。


年内一発目は、私が担当

待ちに待った「張従正(ちょうじゅうせい)」の深掘り回。

私は気が早く二月前の講義に合わせて資料を準備してしまいました(笑)

▼その様子はこちらから

張従正の学術思想臨床録を紐解き、師・「伊藤瑞凰(いとうずいおう)」先生臨床理解を深めていく。

張従正は、東洋医学の治療原則に基づいた基本に忠実な治療家で、「汗吐下三法(かんとげのさんぽう)」を駆使してあらゆる病気を治そうとする思想の持ち主です。

東洋医学の専門用語になりますが、邪気を払うための方針(袪邪)・方法「瀉法(しゃほう)」といいますが、張従正は瀉法の名手でした。

(治療に対する思想・人格的にも少し攻めすぎたことがあったようで、太医院(いわゆる宮廷に招かれたその時代の最高峰の医師)に任命されるも、院の内外から誹謗されるという、なかなか癖のある方だったようです笑)

(ただ、医者の一家だったようで、十代の頃には医師の父から医術を学んだり、劉従益(りゅうじゅんえき)という博学で金王朝の官僚を務めていた方の元に遊学されたりと、学術ともに英才教育を受けていたそうです)


汗吐下の三法

まず「汗法(かんほう)」です。

運動や辛温な食べ物でカラダを温めたり、燻蒸(むしあげる)や鍼灸・焼鍼(熱した鍼)などで汗をかかせることで、体表面・皮膚面に留まる風寒の邪(要は冷え)を払う方法です。

次に「吐法(とほう)」です。

咽喉を刺激することで、胃の中の余分な水分を嘔吐させることが吐法の最たるものですが、張従正は吐法の範疇を広げました(★ここ、とても重要)

例えば、涙を出させることで眼の充血をとったり、唾液を出させることで脳の緊張を緩めたりして、顔面部に水分を持ち上げることで顔面部の炎症や脳神経・自律神経の緊張を緩める方法です。

最後に「下法(げほう)」です。

食べすぎ飲みすぎで腸内に溜まった宿便を出したり、生理の際にきれいに出きらなかった瘀血の排泄を促したりして、腹中で気血水の循環をさまたげている病理産物を排出する方法です。


盛り上がりポイントは「吐法」

今回の講義で一番の盛り上がりを見せたのは「吐法」でしたね。

盛り上がった理由は、聴講されている方がいろは塾の方々だったからですね。

皆、伊藤瑞凰先生の治療を受けたり、弟子として学んだり、講義を受けてこられた経歴があり、伊藤瑞凰先生の気風を知っているからです。

そのくらい、張従正の臨床録と伊藤先生の臨床像に共通点があったという事なんですね。

この「吐法」は非常に難しい術式で、張従正はこのような一文を残しています。

「必ず標本の区別をわきまえ、
医者と患者が信頼し合い
基本理念を理解し、妄言に惑わされず、
疾病がどの経絡・臓腑・気血にあり、
どのような邪気でどのような疾病であるかを明らかにしたうえで、
嘔吐させるべきである」

引用:黄煌,柴﨑瑛子『中医伝統流派の系譜』

「後世の君子たちがこの道をすたれさせないように
願ってやまない」

引用:黄煌,柴﨑瑛子『中医伝統流派の系譜』

「医者と患者が信頼し合い」という一文は、吐法だけではなく、全ての治療に通ずることで、張従正は真の臨床家であったことをうかがい知ることができるかと思います。

(私が研究した櫻英『医学綱目』という書籍がありますが、櫻英自身が記した序文でも、東洋医学的な病態把握と正確な治療を理解しないために、いわゆる「医原病(いげんびょう)」が起きていたことを嘆く様子が描かれています)

(何をするにもまず「正確に把握すること」が重要です。そうでないと間違えます)


東の「吐法」の考察

さて、今回の講義では東の考察までたどり着けなかったのですが、ちょっとだけ先出しです。

「吐法」は、東洋医学の基本的な治療原則の一つです。

非常にクラシカルな治療方法ですが、なかなか採用されてこなかった背景には、治療の内容にアグレッシブさがあり、技術的・患者との信頼関係など、越えなければならない要因が多かったのだろうと想像されます。

(実際に、伊藤先生の臨床を見ていても、効果があるとわかっていても、現場で採用されない場合も「良く」あります)

ただ、この非常にクラシカルな治療方法について、現代医学的に分析してみると、ちょっとおもしろい視点を得られると考えます。

結論から申せば。

大脳や小脳と脊髄をつなぐ中継点に位置している延髄えんずい、medulla oblongata)という脳幹の一部に対するアプローチの一つなんだろうと考えています。

(ここは臨床的にとても重要)

張従正は吐法は、咽喉を刺激することで、胃の中の余分な水分を嘔吐させることだけを吐法といったのではなく、鼻や眼に漢方薬・鍼灸などを施すことによって、涙を出させたり、唾液を出させたりして、顔面部の炎症や脳神経・自律神経の緊張を緩める方法を吐法と位置付けています。

これら嘔吐・催涙・唾液の反応を起こさせる信号は、ことごとく延髄を起点にしています。

【延髄とは】

延髄(えんずい、medulla oblongata)とは、脳幹の一部である。大脳や小脳と脊髄をつなぐ中継点に位置している。

延髄には、呼吸中枢循環器中枢など生命維持に重要な中枢神経が存在している。

具体的には、呼吸、☆嘔吐、嚥下、消化、心拍数の調節などが挙げられる。

このため、延髄を損傷すると、四肢麻痺や呼吸不全などが起こり、生命を維持することが困難になる。

引用:看護roo! 看護師の用語辞典│延髄

【その他の延髄の機能】

上でご紹介したもの以外にも、延髄にはさまざまな機能があります。

血管の収縮や拡張の調節☆唾液や涙の分泌咳をすることにも延髄が関係しているのです。

… 中略 …

生命活動維持に不可欠な機能があることだけでなく、延髄は大脳など他の脳とも関係しながら働いている。

引用:生命維持の要!「延髄」って何?どんな機能がある?現役講師がわかりやすく解説します

私はね、驚きなんですね。

古代中国で、延髄の現代医学の生理機能を知ってか知らずか、、

咽喉や鼻や眼や刺激することで、延髄を介して生体反応を惹起し、「胃中の余分な水分の排出・涎を出す・涙を出す」ことで、
正常な生理機能となる。

現代医学の生理機能を知る由もない12世紀にに、このような治療方法で効果を上げている。

東洋医学の歴史・古典を学ぶたびに、驚きと感動。そして、古典を学ぶ臨床的意義を感じます。

伊藤瑞凰先生は、延髄(脳)のちょうせいとして、鍉鍼(ていしん)を用いた「鼻の鍼」でアプローチされております。

一齊堂でも行う「鼻の鍼」
花粉症・副鼻腔炎などの鼻腔症状や
眼のトラブル・癲癇など脳神経症状に用いる

師匠は「脳の誤作動を治すんだよ」とおっしゃられていました。

今回の講義の中で、鼻うがいとコロナ後遺症の一つである「ブレインフォグ」との関連も話題に上がり、「鼻の鍼」でブレインフォグに効果があるのでは、いや、きっとあるだろうとの、非常に良い談義になりました。

「吐法」の範疇を広げた張従正。

さらにそれを九鍼を用いて臨床応用し、現代へ蘇らせた伊藤瑞凰先生には、頭が上がりません。

(非常に難易度の高い治療ですし、必ずこれを正確に的確にできる先生から直接学ぶなり、確実に身に付けてから行なわないと危険です)

(勝手に想像してやってみたり、安易にマネしないようにして下さい)


アクセス

▼会場


次回

2023年3月19日(日)
13:30-17:00

次回もおもしろくなること間違いなし。

ご興味ある方はこちらからご連絡下さいませ。

▼問い合わせ

では、今日はこの辺で。


今日の一枚


気血水の停滞と
気滞・水毒・瘀血の形成の
イメージ図
作 東

自分が何にアプローチしようとしているのか理解するために、イメージにすることを意識しています。

東洋医学を深くてわかりやすく伝える。

サイエンス・ポピュラーの精神を忘れずに。


今回も読んで頂きありがとうございます。ISSEIDO noteでは、東洋医学に関わる「一齊堂の活動」や「研修の記録」を書いています。どんな人と会い、どんな体験をし、そこで何を感じたかを共有しています。臨床・教育・研究・開発・開拓をするなかで感じた発見など、個人的な話もあります。

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