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【旅エッセイ1】真冬の北海道

 夏の北海道では、素晴らしい景色が見られる。快適な気候と雄大な大地の緑が、都会にいては味わえない感動を教えてくれる。

 でも私は、もしも北海道を観光するなら冬、それも雪に閉ざされる真冬をお勧めしたい。

 真冬の北海道には、夏に負けない魅力がある。

 ひとつは雪の美しさ。
 東京で降る雪はすぐに溶けて泥にまみれるけれど、北海道は雪が溶けない。てのひらに落ちる雪は結晶のような形を保ったまま、大地を真っ白に覆いつくす。

 冬の空気は冷たく澄んでいるから、晴れた日は真っ青な空がどこまでも広がって見える。

 海の輝きも忘れられない。オホーツク海は南国の海とは違う、太陽の光を吸い込むような重たく深い青色をしている。水平線の彼方からは流氷が押し寄せて、海の上に氷の大地ができている。

 凍った湖の上を走る鹿の群れ。
 葉の代わりに雪を茂らせる木々。
 積もる雪に足跡を残すキタキツネ。
 夕陽は空を真っ赤に染めて、日が沈めば星が空に輝く。
 北海道のどこに滞在しても、自然はその美しい姿を見せてくれた。

 もちろん真冬の北海道は、美しいばかりではない。
 身体を突き刺すような冷気と、雪に覆われた真っ白い世界。氷点下の気温は、吐息すら凍りつかせる。試される大地と呼ばれるだけあって、その環境は過酷だ。

 道路は雪と氷で滑り、強烈な風は粉雪を舞い上げて地吹雪をおこす。吹雪の中では何も見えなくなり、自分がどこに立っているのかさえわからない。

 それでも私は真冬の北海道が好きだ。

 極寒の大地では、人の命なんて吹けば飛ぶように消えていく。だから先人たちは山を崩し、森を開き、過酷な自然の中に人間の生きられる場所をつくった。


 おかげで、私たちは今日を生きていける。

 過酷な自然の厳しさは、生きていくことの厳しさとありがたさを思い出させてくれた。

 写真は、私のお気に入りの摩周湖。

 真冬の大地を切り拓いた先人たちのおかげで、私は晴れ渡る空の下で、摩周湖を眺めることができる。


また新しい山に登ります。