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なんでこんなにドラァグレースを愛してるんだろう

『ル・ポールのドラァグレース』のファンになってから二年近くが経つ。きっかけはVouge Japanのこの動画だった。

この華やかなファッション!メイク!!めちゃくちゃステキだと思った。このときは姉さん的貫禄を醸し出しているシャンジェラ(前列左から二番目、濃い青のドレス)と、ブルべ冬なピンクを着ていて表情が可愛いベンデラクレーム(後列左から二番目、黒髪)が気になった。

初めて観たのはシーズン8だった。当時Netflixで配信されているシーズンの中では最新のものだったのかな。ドラァグの専門用語(?)は何一つ知らなかったし、番組の楽しみ方、一番の見どころであるリップシンクの良し悪しも分からなかったけれどとにかく観た。面白かった。

今では色んなシーズンを観てたくさんの推しクイーンがいる。元気のないときに観たくなる、パワーをもらえる名シーンがたくさんある。この人がいる世界なら希望を持てるな、とかこの人のようになりたい、と心の支えにしているくらい好きなクイーンがいる。

なぜこんなに好きなのか、こんなにもパワーを貰えるのか考えてみると、クイーンたちの人生の多様さがあると思う。年齢も21~50代と幅広い。番組の中ではクイーンたちがトラウマや悲しい出来事について話すシーンが多くある。
ゲイだから、ドラァグクイーンだから、他の人と違うから、というだけの理由で受けた様々な暴力。家族の問題、宗教上の問題。大切な人を失った経験や心身の病、依存症、服役経験がある人もいる。

番組側がそういった話を引き出そうとしている所もあるので、無理にオープンにしなくてもいいよ…と思うときもあるのだが、クイーン自身の物語がある時点でパフォーマンスとピタッと結びついて、奇跡のような心震わせる瞬間が生まれるときがある。まさに、弱さは強さ。傷のない人なんていない。どれだけ傷ついても、落ちぶれても、努力して才能を磨き再び輝くことが出来る。逆境を乗り越えてきた物語、そして自分自身を表現することがどれだけ多くの人を勇気づけるかよく分かる。

ここで改めて番組について紹介する。『ル・ポールのドラァグレース』はドラァグクイーンのコンテスト番組だ。
演技・ダンス・ミュージカル・ラップ・衣装作り・CM制作など様々な課題があり、審査員によって審査される。美しさだけでなく、パフォーマー/次世代のドラァグアイコンとしてすべてをそつなくこなすことが求められる。番組内ではよく評価基準に「C:カリスマ性 U:ユニークネス(個性)N:ナーブ(度胸)T:タレント(才能)を発揮して」と言われる。(cuntが何を意味するかは各自調べて)毎回一人ずつ脱落していき、最後に選ばれた一人が優勝。”America's next drag suparstar"の称号と100万ドルの賞金、メイク用品の提供など様々な商品が与えられる。

番組の見どころの一つは毎回の脱落者を決めるリップシンクだ。リップシンクとは音楽に合わせて口パクをするパフォーマンスのことで、ドラァグクイーンがクラブでやる十八番の演目らしい。日本ではるな愛さんや渡辺直美さんがやっているのと同じものだ。
脱落候補二人がリップシンクで対戦し、評価の悪かった方が脱落となる。番組内では”Ripsync for your life"「命をかけたリップシンク」と呼ばれ、脱落するまいとするクイーンたちのその名の通り魂のこもったパフォーマンスが見られる。
コメディに徹して笑わせる人もいるし、ダンスやアクロバット(”デスドロップ”やスプリットなどの必殺技がある)を披露する人もいる。衣装やウィッグの早替えなどのサプライズもある。とにかく審査員や観客を惹きつけることが重要だ。笑えたり、泣けたり、驚いたり。何度でも見たくなるお気に入りのパフォーマンスがいくつもある。

その他の見どころは毎回のランウェイでの個性的なファッション・メイクだ。ドレスをほぼ手作りしている人もいれば、プロのデザイナーに頼んで作る人もいる。シーズンを追うごとに衣装の高級化がすごい。(それにはファンの中で賛否あるのだが…)
またリアリティ番組ならではの人間関係を楽しむ人もいるだろう。友情だったりケンカだったり。
最初はあまりパッとしなかったクイーンがめきめき吸収して洗練されていくこともあるし、地元のクラブでは有名なクイーンが力を発揮できずに終わることもある。逆に普段は変わり者・はみ出し者扱いされているクイーンが高評価を得たりする。ドラァグレースはまさに人生ドラマだ。

さあここからは私の大好きなクイーンの話をしたい。

ボブ・ザ・ドラァグクイーン(シーズン8)

実はボブを好きになったのは最近だ。以前別のnoteにも書いたのだが、spillin' the teaという動画で「ドラァグファンダム内のレイシズム、文化の盗用vs.尊重」について議論する彼女を観てからだ。シーズン8は私が初めて観たRPDRだがその当時はキム・チーとチチ推しだった。シーズン中のボブは確かにずば抜けて面白かったし、ずば抜けて頭の回転が速かった。コンテストにおいて強すぎたし、強気な発言も多くてふてぶてしい印象だった。私にとって応援したくなる要素はないかな…という感じだった。

spillin' the teaで初めて彼女のアクティビストとしての顔を知り、イメージがガラッと変わった。レイシズムなどのシリアスなテーマを笑いも交えながら流暢に語る姿を見て完全にファンになってしまった。本当に賢い人だ。そして発言に人を納得させるだけの力のある人だ。最近もBLMについて、大統領選挙について、ドラァグレースS12の出演者の起こした不祥事について、ドラァグレースのツアー会社とのトラブル・体制の問題について、リーダーシップを取り積極的に発信している。

彼女のドラァグドーターに当たるミズ・クラッカー(S10)とのエピソード*¹も好きだ。ボブはドラァグを始めたばかりのクラッカーにドラァグ姿で街に出ることを勧めたとのだという。「ドラァグ姿で街に出ても‘誰も私のことなんて気にしてない’と思うか、‘私は街を歩くドラァグクイーン’と思うだけ。それでも、私たちの姿を街で目にするだけで救われる人がいるから」と。
また同性婚が合法化される前、毎週仲間たちと一緒にタイムズスクエアでドラァグ姿でデモをしていたのだそうだ。本当に迷いがない、カッコいい人だ。

今では彼女とドラァグシスターのモネ・エクスチェンジ(S10)のポッドキャストSibling Riverlyを毎週聴いている(これで私の英語力は飛躍的にアップした)し、YoutubeもSNSも随時追っている。HBOのリアリティショーWE'RE HEREも途中までだが(ごめん)観た。今私が一番好きな人かもしれない。

ボブの胸に入っているタトゥーがいつも気になっていたのだが、
”I get up out of bed, I put on my clothes, 'cause I've got bills to pay"
「私が毎朝ベッドから起き上がり服を着るのは、払わなきゃいけない請求書があるから」と入っているらしい。アレサ・フランクリンのA Deeper Loveの歌詞だ。実にボブらしい。

サーシャ・ベロア(シーズン9)

紹介しておいてなんだが、ここまで読んでドラァグレースを観る気が少しでも湧いたならば、この人とS9については絶対にググらないで!!!何も知らずに最後まで観て!!!
この人といえば!なアイコニックなパフォーマンスがあるからだ。それはドラァグレース史に残るまさにepic momentだったし、もの凄いサプライズだった。彼女のこれまでの歴史・思いがあの瞬間にすべて繋がり、爆発した。何度観ても泣いてしまう。

サーシャは物静かなクイーンだ。ドラァグクイーンと聞いて思い浮かべる、元気いっぱいの騒がしいイメージとは全く違う。彼女は落ち着いた低い声でゆっくり話す。写真だと強い表情をしていることが多いので怖そうだが、全くそんなことはない。色んなタイプのクイーンが存在するのが分かるのも、ドラァグレースの良いところだ。コンテスト番組だから前へ前へかき分けて行って目立たないといけないのだが、サーシャはそういったタイプではない。

しかし彼女はステージで人が変わる。自信に満ち溢れ、内なる闘志が溢れ出す。魂の凄みみたいなものを感じさせる。表情が魅力的でいつも惹きつけられるしカリスマ性がある。E1のレディー・ガガがテーマのランウェイなんて象徴的だ。


そしてハイファッションなクイーンでもある。いつぞやは審査員の批評で「これはドラァグじゃなくてファッションショーだ」とまで言われていた。実はそれはポジティブな意味での意味の批評ではなかったのだが。しかしそれほどランウェイの衣装は完成されていて、ユニークで、いつ見ても惚れ惚れする。

サーシャの特徴と言ったらbald queenであることだろう。ウィッグを被らないスキンヘッドのスタイルだ。これにはしっかりとした理由がある。彼女の亡くなったお母さんを象徴しているのだという。お母さんはガンの治療で髪が抜けてしまったことを悲しんでいたのだそうだ。サーシャがスキンヘッドでドラァグをするのは、髪がなくとも美しいというメッセージを伝えるためなのだ。
お母さんは生前彼女のドラァグの仕事のことを知りたがっていたけれど、彼女は話すことが出来なかったそうだ。それを後悔している、と番組内で話していた。

サーシャもアクティビストの一面がある。番組のホストであるル・ポールがトランスジェンダーのクイーンについて差別的な発言をした際、はっきりNOと意思表示をしている。

私のドラァグはトランス女性、トランス男性、ジェンダー・ノンコンフォーミング(従来のジェンダー規範に当てはまらない人々を広く指す言葉)の人々の中で生まれました。好き嫌いに関わらず、それが本当のドラァグの世界というものです。私はそんなドラァグ界が素晴らしいと思うし、そういったドラァグ界のことを伝え、地位を向上させるために、私は一生闘うつもりです。

番組内での最後のコメントも良かった。
”Let's change shit up. Let's get inspired by all this beauty, and change the motherfucking world!"
「クソみたいな社会に変化を。みんなの美の力を持って…世界を変えよう!」彼女が出演したS9はトランプが大統領になった年に撮影された。本当にクソみたいな社会だけど、彼女がいると思えば少しはマシだ。彼女と一緒なら変えられる気がする。

S9のシスター、シェイ・クーレーとの友情も良い。(重ね重ね言うが未見の人はシェイについても調べないで……!)ペパーミントとも組んでよく仕事をしている。BLMについて発信したり、最近はクリエイター向けのビジネス講座も開いていた。
長年のパートナーの方も素敵だ。サーシャのショーのプロデューサーで私生活でもビジネスでもパートナーだ。飼っている犬のインスタグラムも面白い。犬にドラァグさせてる。

この記事を書きながら知ったのだが、彼女は去年Staph Infection(日本語だとブドウ球菌感染症かな…すみません定かでない)という感染症にかかり手術を受けたのだそうだ。一時は座ることも出来ず、歩くだけで精一杯の状態だったという。手術であまりに多くのお尻や脚の肉を切除したため、縫うことが出来なかったのだそうだ。術後一か月自宅静養をした。この記事*²では公表するまでの彼女の葛藤、ドラァグ界ではよくある感染症だというが他のクイーンへの注意喚起がされている。ツアーをやりながら病気と戦っていたとは。大変な経験をされたんだなと思う。ぜひ健康に気を付けてこれからも活動していってほしい。

彼女のOne drag queen show : Smoke & Mirrorsをボブが絶賛していた。ネットでも彼女のショーは絶対に観に行くべき!という声をよく目にする。いつか絶対生で見たいクイーンの一人だ。

ベンデラクレーム(シーズン6、オールスター3)

(デラのインスタはやっぱコメディチックな表情の写真が多い……)

初めて観たドラァグクイーンの動画で気になって、そのままファンになった。
デラの一番好きなところはその繊細さ、優しさだ。シーズン中彼女は自身のうつ病をカミングアウトした。もうその時点で私はシンパシーを感じてしまった。彼女はいわゆるドラァグペルソナがあるタイプだ。つまり本来の自分自身ベンと、ベンデラクレームとは別人だ。キャラクター設定がある。ベンデラクレームのことをベンは「末期の躁うつ病患者と思ってくれれば良い」と説明する。デラはすごく明るくてキャピキャピした子だ。目玉をひん剥いて早口で話す。ベンは明るいデラというキャラクターを作り、それになりきることでうつを乗り越えようとしたのだという。

なんというか彼女とは似た精神を持った仲間だなという気がすごくしてしまう。似た悩みを抱えて似た道を通ってきたのだな、と。番組やSNSでの彼女しか知らないが、彼女の考え方や感じ方がすごく好きだ。

彼女の真骨頂はオールスター3だ。途中までしか観ていないのだが(ごめん)ベンデラ無双状態だ。コメディもミュージカルも何でも来い。リップシンクで辛口の審査員ミシェルを大爆笑させる。衣装も毎回最高で勝ちまくる。
オールスター3のルールは脱落者を決めるのはル・ポールではなく、その週のチャレンジの優勝者が決める(つまり出演者が自分の仲間を脱落させる)という酷なものだったが、そのルールに対して彼女が取った行動も本当に彼女らしくて大好きだ。

彼女のスタイルはクラシカルでキャンピーな感じだ。パーソナルカラーブルべ冬に従ってか黒髪のウィッグに青みピンクの衣装が多い。

彼女のインスタグラムで好きな投稿を紹介する。

Don’t get tripped up in all the V-day hype about how everyone in the world has one special human and when they see them everything will click and make sense and life will be joyful and effortless. Being in relationships is hard and being alone is hard. I’m really happy that @gus_lanza Is a really cool guy who’s willing to do the work. Celebrate the people who love you and make sure one of them is yourself.
バレンタインデーの「すべての人が運命の人を持っていて、その人に出会ったら人生は喜びにあふれ、全部がぴったりと上手く行く」みたいな誇大広告にだまされないで。誰かと付き合うのは大変、一人でいるのも大変。私はその大変さもいとわない、クールな彼と居られて幸せです。あなたを愛してくれる人たちを祝おう。そして何より自分がそのうちのひとりになろう。
When I was young I felt so weird and alone. I couldn’t help being different, and I was reminded of it constantly. I was deeply depressed and thought everyone looked down on me. It wasn’t until many years later that I found out the people I thought hated me actually looked at me as strong and brave. Unafraid to be exactly who I was despite being told I shouldn’t be. Sometimes I do a thing where I talk to my childhood self. I tell him how, someday, the very things that make him feel weak will make him feel strong. The things that he was judged for will earn him love and respect. Take some time to love and nurture the child you once were. It helps.
幼い頃自分を変だと思っていたし孤独を感じてた。みんなと違うことに耐えられなくて、いつもそれを気にしてた。すごく落ち込んで、みんなが私を見下してると思ってた。何年も経ってから、自分のことを嫌ってると思ってた人たちが実は私を強くて勇敢だと思っていたのだと気づいた。周りからはするなと言われるけれど、自分らしくいることを恐れないで。
ときどき子どもの頃の自分自身に話しかける。彼に”いつの日か自分の弱点だと思っていたことが、実は自分の強みなんだと感じられる日が来る”と伝える。周りに批判されてきた自分の特性が、愛と尊敬をもたらしてくれるようになるんだよ、と。ぜひ子どもの自分を育み愛する時間を作ってみて。効果あるから。

デラの夫さんはトランス男性の方だ。すごく素敵な人でこの二人の写真やエピソードを見るといつも幸せな気持ちになる。

最後に

今書いた三人は本当に最愛の人たちなのでつい長くなってしまった。『ル・ポールのドラァグレース』は12シーズン+オールスター5シーズンがある。私のおすすめの見方は、過去の優勝者のネタバレを気にしないのであれば、まず最新のS12から観ることだ。(Netflixで視聴可能)みんなもうレースを知り尽くして準備万端で来ているので、完成度がすごい。今までで一番ハイレベルな戦いだと思った。
その後S10、9、6、5辺りの人気シーズンを観て推しを探していくのがおすすめだ。その人が何を観たいかによって観るべきシーズンが変わるのでぜひ気軽にご相談を。喜んで語ります。

誰が優勝者かは正直私にとって大きな問題ではない。戦いの過程や、豪華なファッション、人間的にも素晴らしいクイーンたちに出会えることがこの番組の一番の楽しみだからだ。みんなにもパワーを与えてくれるような素晴らしい推しクイーンとの出会いがありますように!

*¹:

*²:

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