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人の感情に興味がないガルパンおじさんのお見合いの話


7月某日


琵琶湖の見えるホテルのラウンジでお見合い。


前日まで豪雨だったのが、当日はぴーかんに晴れた。

名古屋を出発してしばらくすると、新幹線の窓から川が見える。増水して、いつもよりだいぶ近い水面、茶色く濁った水の勢いがまだすごくてゾッとした。

今日お見合いに挑む私の会員さんは、30代前半の男性のUさん。純度100%ガルパンおじさんだ。集合時間の30分前にきっかり、今日だけはびしっと体にフィットしたスーツで登場した。細身だからスーツがよく決まる。普段、ペンライトとタオル振り回す姿から想像できない。

しばし大洗の話を聞かされながら、女性を待つ。

15分ほど待った後、お相手と合流した。ちょっと動きがコミカルな可愛らしいお嬢さん。
体の上下の動きが、芸人ばりに大きくて笑ってしまった。なんだろう、上品な所作とやらを微塵も意識してなくて、なんだか可愛い。関西のノリなのだろうか。動きもだけど顔も愛らしくてプレイリードックみたいだなと思った。

ふたりをカフェへ送り出す。

さて、見晴らしの良い湖岸カフェを探す旅にでも出るか、とあたりを少し歩くも、びっくりするほど周りに何もない。カフェどころか、定食屋さんも、コメダもない。うげー、なんだここ。コメダは早く作ったほうがいいと思う。

仕方がなくホテルの中のカフェで、高すぎるカフェオレとパスタを注文し、お値段の割にレトルトのような味のウニパスタを無表情で食す。

★★★

お見合いが終わって二人が出てきた。

「お疲れ様ー。」

お嬢さんをお見送りし、天気が良いのでUさんと二人で湖岸の歩道を散歩することに。日傘を忘れてしまい、シミが増えるなぁと思いつつ、さんさんと降り注ぐ紫外線を浴びる。

水面をのぞき込むと、豪雨の後なのに意外と湖の水は透き通っていた。

なんでも大雨の後、川は濁るが、湖の場合は、水が増水し透明度は上がるそうだ。Uさんは、教養について聞けばなんでも答えが返ってくる。すごい。ガルパンウィキおじさんだ。1聞いたら10くらいの情報量で返してきてくれる。山とか川とか一緒に行くと楽しいだろうな、と思った(登山できないけど)。

意外と漂流ごみが多いなぁ、言うと、
「琵琶湖の水は一番北の川から流れ出て南下していくんです。なので北側が一番きれいで、そこのビーチだけ遊泳許可されています。南にいくにつれて水質は落ちるんですよ。」と教えてくれた。涼しくなったら今度はビーチにも行ってみよう。

Uさんは、ペットボトルに湖の水をくみ、水質調査のために持ち帰った(水質調査が趣味らしい)

あれは積乱雲なのかと尋ねると、

「いえ、あれは積雲といって積乱雲の赤ちゃんです。」

そっか。あかちゃんか。へぇ。


★★★


お見合い後反省会(という名のおやつタイム)のため、駅前の茶房に入った。靴を脱ぐタイプのカフェで、ヒールの圧迫から足裏が解放されほわわーとなる。素足極楽。

ほうじ茶と、冷やしぜんざいを食しながら、真面目に反省会。ひんやりうまい。

私はずっと、Uさんのお見合いがうまくいかない原因を考えあぐねていた。

彼自身もお見合い4連敗中で、若干精神的にまいっていた。だから今回はちょっとおやつタイムに誘ってみたのだ。

私は、Uさんのお見合い相手の気持ちになるために、向かい合い席で世間話を小一時間してみて、自分の心の中にどんな感情が生まれるのか実験してみることにした。

まずUさんの良いところを考える。

背が高い。オタクなのに姿勢が良い。スーツ似合う。髪型をちゃんと工夫している。挨拶の印象がさわやか。声がはきはきしている。丁寧な口調。綺麗な日本語。年収もいい。仕事に誇りを持って楽しんでいる。いろんなところに旅行(という名の聖地巡礼)行っていて美味しいものを沢山知っている。

まとめるみると、なんかすごく好青年だ。

でも、1時間話して思った。一緒に暮らしたくない。

なんだかもやもや気持ち悪いのだ、胸がつかえるような。一緒に湖畔を歩いたときは楽しかったけど、カフェなどで視覚情報を取り上げられて、丸腰で面と向かうと、楽しくない。あと、しばしば窓の外に目線を外している自分に気づいた。

なんだかUさんは下心あり気な男なのだ。姑息なこと考えていそうというか、嫌らしいというか。なんか私ひどいこと言っているけど、本当にそう感じた。

なぜだろうと考えたら、理由は2つあった。


Uさんは率直にきついことを相手に言ってしまう。余計な一言をどうしても言ってしまうのだ。

この前京都でUさんのお見合いがあったとき、こんなことがあった。
私は京都の会員の女の子から、千寿せんべいのほうじ茶味がおすすめと聞いていたので、自分のお土産のついでにUさんの分も買って渡した。そしたら

「これ岐阜でも売ってるんですよ。あっちでは、やまなみせんべいっ言うんですけど。製造元が同じで名前だけ変えてるっていう。あでも、ありがとうございます」

「あ、そうなんだー。」

地元でも買えるもの渡しちゃってごめんね、と得意げにうんちくを披露してドヤ気分な彼に何て言っていいのか分からなかった。そんなこと言うなら返せや。

声のニュアンスから、彼は悪気があって言ったのではないことは分かった。率直ばかなのだ。黙って食っときゃいいのだお菓子ぐらい。

過去の元カノとのケンカ理由も聞いたが、見事に全てUさんの失言によるものだった。

口調は物腰柔らで丁寧。話し言葉も綺麗。会話も積極的に展開しようとしている。なのに、つい不穏な空気にしてしまう一言をくらわしてしまう。

半端なく損している。


2つ目は、人の話に興味がなさすぎだった。

この夏の旅行の話を振られたので、部屋が水漏れで階下まで漏水したので損害賠償のせいで、夏のチェコ旅行がパァですわ、と言ったら

「えー!それはつらいなぁ!つらい!」

で会話は終了した。

Uさんは、私が一つのエピソードを話した後、感嘆詞や共感でいったんは反応してくれるのだが、そこから突っ込んでくれることがない。

漏水事件のエピソードは、ここ最近の私の渾身の悲しみネタなのだが、なにも突っ込まれなかった。どこから?設備劣化は?どれくらいの時間?保険は?とか、いろいろある。

その話で私が一番掘り下げて見つけてほしかったのは、チェコ旅行が中止になった無念と、水栓の緩みを確認しなかったという途方もない後悔の感情だ。

Uさん自身は、自分の話のターンになるとすごく饒舌に話せる。記憶力が良いのか、つまることなく昔の話もすらすら話せる。すごく楽しそうに。

パターン化した相槌とか、ポーズだけの共感や感嘆も、Uさんはできていた。
でもすごく伝わってきたのだ、私に興味がないってことが。途中から、自分の話をするのが申し訳ないと思ってしまうくらいだった。


この現象がいつもお見合いで起きているのだと確信した。

お見合い相手の女性は、途中から自分の話ができなくなっていったんだ。

Uさんにそれをそのまま伝えてみた。

「確かに、その人周辺のことにしか興味がなかったかも。その人の職種とか趣味とか学歴とか容姿とか。あーこの人僕に興味ないなーといつも思ってたけど、興味がなかったのは自分だったんだなと。」

他人のことに興味があることがすべて◎かと言われればそうでもない話だと思う。ありすぎても、うっとおしくて疲れちゃう人もいるし。
感情に興味ないっていう人なんて沢山いるし、それができないUさんが、ダメというわけではないんだけど、直すために訓練したほうがいいな、と思った。

Uさん自身も、見知らぬ人と世間話をするとすっごく消耗してダメージが大きいのだそうだ。たぶん、窓の外に視線が移ってしまう退屈そうな女性を見て、うわやばい、絶対つまらないって思われてるって焦るからだろう。Uさんも苦しんでいた。

他人の気持ちに配慮のない一言と他人への興味のなさ、この2つのネガティブ要素と、笑顔と丁寧さの間のギャップが詐欺師に対する怖さいうか、下心ありげとして表れていた。

まずは自覚して、そうならないように会話を繰り返していくしかない。だってUさんも誰かと深くつながりたいと思っているんだもの。

Uさんの場合、原因が分かったらだいぶ楽になるだろう。

7月の終わりに次のUさんのお見合いがある。また反省会おやつタイムに誘おうと思う。


おわり


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