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【感想】映画『波紋』

『波紋』という映画を見た。
とても、感慨深い作品であり、日常がある日を境目に少しずつ崩れていく物語で、須藤依子という一人の女性の視点から家族の姿を淡々と描いており、緑命会と呼ばれる新興宗教を信仰し、心の拠り所を模索しながら、祈りと勉強に時間を割くことが彼女の生きがいでもある。
ある日、突然、夫が彼女の前から失踪して、十年振りに帰ってくることから、彼女の日常、心は次第に崩れていく。
その間に、彼女は義父の介護に従事したりと仕事と両立しながらも懸命に頑張り、不安感や疲労感を押し殺していたのにも関わらず、夫の修は、がんになったから治療費を出してほしいと懇願する。
息子の拓哉に出来た障害のある恋人とのやり取りやスーパーで働く仕事場に現れるクレーマの客に怒鳴られたりと、そうしたストレスを抱えて溜め込みながらも彼女の精神は少しずつ狂い始めるところが物語の肝であると感じられました。
だが、彼女にとっての心の救いとなるものは、新興宗教であり、宗教は沸々と沸き上がる負の感情を抑制する働きがあるが、宗教は自らの精神を別のところへと逃がす為の逃げ道としての効用があるが、本作で描かれる夫が失踪する前と失踪後のリビングの棚の変化に注目してもらえると一目瞭然であり、棚には夫が好んでいた小説やエッセイなどが並んでいたが、失踪後には緑命会で扱われる水の入った瓶と救いを求める為の心理学や宗教関連の本などが並べられているところから依子の心の変化が大きく変わってしまったことが窺えます。
何故、人は宗教にハマってしまうのかということが、依子の人生観を見つめると考えさせられるものがありました。
普通に生きている人であっても、自分にとってのこれだけは触れられて欲しくないところは必ずあり、心のトリガーが外れてしまうと、自分が自分でいられなくなり、客観的に見れば狂い出してしまう恐れがあるものだと感じました。
ネタバレになってしまわないように、物語を触れると終盤で依子はフラメンコを突然踊り出すシーンがありますが、その場面は特に印象的であり、物語の鍵を握るところでもあると思いました。
タイトルの波紋という言葉は、依子から見た世界を通して、夫、息子の恋人、クレーマ客など、いくつもの波紋が広がっていき、依子の今生きる世界から、聞き覚えのない声を誘発させて惑わせる。
そうしたことを積み重ねることで、人は平静を保てなくなり、普通は狂気へと変貌してしまいます。
『波紋』という映画は見る人によっては、喜劇的であり、ブラックユーモアも含むものがあり、多角的に読める面白い作品でありました。
物語の演出は、とてもこだわりがあることが見受けられ、見る人全てを魅了するものがあると感じられました。
本作は、新興宗教や震災、障害者差別など、あらゆるテーマを内包しており物語で描かれる、枯山水、砂紋などは重要な演出題材であり『波紋』は依子だけの問題ではなく、現代社会の闇を描いた縮図でもあると考えさせられるものがありました。

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