遠くへ行くことについて

マンションに住む弟夫婦宅に遊びに行った。

次男はまだ一歳半。歩きたい盛りで、言葉はまだ出ないがとにかく歩く。もうすぐ三歳の長男の真似がしたくて仕方がない。字も読めないのに本を開き、ゲームをやっていれば割って入ってさいころを投げ、お兄ちゃんのおもちゃを引っ張り出す。それに飽きたらと手近にある興味を引かれたものをしげしげと眺め、掴み、母親に見せたりする。

それにも飽きたらひとりで遠征を始める。誰もいない部屋によちよちと歩いていき、一人で何かを見つめている。タンスを開けようとしてみたり、落ちていた何かを拾ったり、洗濯物に突っ伏したり。そして突然、「あ!ママがいない!」という感じで急いでリビングに戻り、家事をしている母親の脚に顔を埋めてしっかりとしがみつく。しばらくしたら安心したのか、また一人でよちよちとどこかへ行く。誰もいないところで何かを調べては「は!ママ!」という感じでパタパタと戻ってきてはぎゅう。これを何度も繰り返す。

そうして彼はだんだんと、ママから離れる距離を伸ばしていくのだろう。家の中で少しずつ、ひとりで長い時間を過ごすことができるようになり、幼稚園で友達と遊べるようになり、自転車でどこかに行けるようになり、電車に乗って学校に通ったりするようになのだろう。自分にとって安心な場所を確認しながら、少しずつ少しずつ、彼は勇気を膨らませ、一人で遠くに行けるようになる。

安心してどこへでもお行きなさい。命がある限り、母はいつも君を両腕で抱きとめるだろう。母がいなくなっても、かつての愛の記憶がどこまでも君を奮い立たせるだろう。もしそれでも辛い時は、私がいつでも、何度でも励ましてあげるよ。


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