【井戸尻考古館】高原の縄文王国収穫祭2023と物々交換レポ
はじめに
富士見町の井戸尻史跡公園では井戸尻考古館が中心となり行われる秋の恒例イベントとして「高原の縄文王国収穫祭」があります。本年は10月21日(土)に行われました。
感染症対策により2020年は無観客による祭式のみの開催、2021年は地域住民による収穫体験と祭式のみの開催として続けられてきました。昨年はこれまでと同規模の開催内容となり本年は2回目を迎えました。
高原の縄文王国収穫祭
この収穫祭の始まりは、2002年(平成14年)であると聞いています。この年に藤内遺跡の出土品が重要文化財指定されました。考古館で記念展「甦る高原の縄文王国」(2002.7.20~11.24)が開催され、講演会やイベントが多数行われました。そうしたイベントのひとつとして収穫祭が始まりました。「高原の縄文王国」という言葉もここに端を発するものです。
ちなみに講演会の内容は、井戸尻考古館編『甦る高原の縄文王国-井戸尻文化の世界性』言叢社2004として書籍化されています。
また、収穫祭で踊られる「くく舞」や「神話再現」などは初年の様子は確認できておりませんが、早いうちから祭りの根幹部分として行われていたようです。
昨年の様子はこちらをご覧ください。
チラシの裏面にもありますが、富士見町商工会による縄文ハロウィンも同日の開催となっており、この日は富士見町を挙げて縄文の日となります。
また、井戸尻考古館と歴史民俗資料館は入館無料となるため、見学者が絶えません。
会場の入り口に案内ボードがあり、案内図などがあります。ハスの葉から入れたハス茶のセルフサービスもあります。
また、近くにはおなじみの土偶始祖女神像と半人半蛙文有孔鍔付土器の顔出しパネルもあります。半人半蛙文有孔鍔付土器は相当体が柔らかくないと顔が出ません。
物々交換イベント
物々交換は、昨年から始められたイベントです。思い出、エピソードも交換しましょうというのが井戸尻的です。
貨幣価値によらないモノと人の交流として、昨年の様子が雑誌「AERA」に紹介されています。
収穫祭と別のチラシもあって力が入っています。
考古館が運営にあたっていますがお手伝いスタッフが増員されています。
この物々交換は、収穫物やその地域の特産など、人に分けてあげたいものや、おみやげなどを持っていきます。肉、魚といった生の食べものや自家製ケーキはだめです。あとフリマに出すような古着とかおもちゃもダメです。遺跡で拾った土器片とかもダメです。判断が難しいかもしれませんが、もしスタッフが見てダメな場合でも小袋の古代米をプレゼントされるそうです。
持ってきたら受け付けで専用のタグに、来た場所や持ってきたものの説明を書いてスタッフに渡します。代わりに好きなものをもらって帰ります。もらわずに置いて帰るだけでもOKです。
「館長の逸品」を紹介します。K館長は今年も石器を出品しています。堀りこて2点です。使う前に水に浸して紐を締めるようにと親切に書いてあります。
石器を持って、撮影のリクエストに応えてくれる館長です。
こちらも逸品?でしょうか。新人学芸員ことH氏が内緒で育てたハロウィンカボチャです。でもこの大きさを希望者はどうやって持って帰ればよいのでしょうか。
自家製の土器や土偶など縄文系やアート系作品が並ぶテーブルがあります。
流木アートとか水彩画は考古館の庭で絵を描いていた男性がいましたが当日の朝描いたものとのこと。手前は石にアクリル絵の具で着色したペーパーウエイトです。画像にはありませんが、3Dプリンタでスキャンして型取りして作った土器というのがありました。長野県内の自治体の学芸員さんの作だそうです。
テントの中のテーブルは縄文系の小物や作品系、一部収穫係のようです。
看板の前は収穫物が並ぶようです。この時はまだ少な目でした。
「編集長の逸品」を紹介します。こちらは縄文ZINEのM編集長が来訪されて出品されたものです。縄文ZINE Booksより『土から土器ができるまで』と、登呂遺跡のプラモデルです。城のプラモデルなら分かりますが、遺跡にもプラモデルがあるとはなんと驚きです。こちらもすぐに争奪戦となりました。
最後は筆者の戦利品です。筆者は4点もらってきました。なにを出品したかは内緒ですが、紅蓮・織りの会が作った手作りトートバックに原村産オリジナル土偶に古代米、雑穀を手に入れました。
会式セレモニー
前後しましたが、収穫祭の様子をこの後は紹介します。
午前10時、ステージで会式のセレモニーが始まります。昨年に続き赤い貫頭衣に身を包んだ女性司会が進行いたします。登壇者もスタッフもみな貫頭衣を着ることがならわしになっています。また、来場者についても貸し出し用の貫頭衣を着て祭りを楽しむことができます。
収穫の祭式
続いて、祭式になります。ステージの前には井戸尻で育て収穫した雑穀類が披露されています。
ステージ中央には祭殿である穂倉があります。ここに収穫された穀物を奉納します。穂倉は祭りに合わせて毎年新しくこしらえます。
収穫の祭式は考古館の職員が中心となります。「いにしえのことー」と低めのボイスで第一声は昨年のH前館長に変わってK館長です。日本神話における五穀がもたらされるオオゲツヒメ(うけもちの神)の神話が語られます。
土笛や打楽器などの演奏に合わせて仮面をつけた縄文人Sの登場です。手にした箕には収穫した穀物が入っています。
手を仰ぎ3本指の形をとり3回祈ります。3本指は土器図像の蛙文の指の形です。
穂倉に初穂を奉納します。近くには酒造器とされている漆塗りの半人半蛙文有孔鍔付土器があります。お酒も奉納して祭式は終わります。
雅楽演奏
収穫の祭式のあとは、昨年に続き下諏訪長持保存会雅楽部の皆さんによる演奏です。
おなじみ越天楽など3曲を演奏を聞かせてくださいました。縄文の里に響く大陸の渡来の調べです。
女性楽士だけ巫女のような姿と思っていました。すると3曲目では舞を披露してくれました。
貫抜工法で太鼓演奏
会場の奥、大賀ハスの池の近くに、弥生時代の高床式建築を思わせるような木造建築物があります。木と木を組み合わせて、木の楔で固定する「貫」という工法で作った実寸大でモデルだそうで、本年8月頃設置されました。この貫工法の建築物の上で富士見太鼓保存会による和太鼓の演奏がありました。
ワークショップ・お店
物々交換以外にもお店の出展がいろいろあります。
かつてのように豚汁や鹿肉といった飲食物の提供はありませんが、農産物の直売などはこれまでどおりです。以下、ブースの紹介です。
貫頭衣の貸し出し
会場の入り口の近くのテントには貫頭衣の貸し出しがあります。
出店スタッフたちが着ている貫頭衣をお客さんも着て祭りを楽しめるのです。こども用もあります。SNS用に着て撮影するだけでもよいと思います。
富士見町商工会
貫頭衣の貸し出しの隣は、富士見町商工会です。町の特産品であるルバーブのジュースなどの販売とハロウィンカボチャをくり貫いてランタンが作れます。
富士見町観光協会
富士見町観光協会ではルバーブを使った製品など富士見町の特産品の販売をしています。
また、ムサイさんラベルのお酒があります。ムサイさんとは商工会あたりにタイムスリップしてやってくる縄文人とのこと。縄文ハロウィンのキャラクターはイラスト化されたムサイさんです。
地元野菜などの販売
売り切れ御免の新鮮な野菜の販売です。祭りが終わる前に無くなって片づけていました。
つくえラボ
つくえラボは、初出店のグループです。富士見町の机区で元気で過ごせる地域をつくりたいと居場所づくりや農業や里山暮らし体験に取り組む合同会社です。こちらではお米のほか肥料などを販売しています。
富士見高校
富士見高校のみなさんです。ピンク色したあの鹿のようなキャラくーた「ルパンビー」(特産ルバーブと富士見に生息する鹿と養蜂部の蜂を合わせたキャラ)とともにやってまいりました。
富士見高校のテントでは野菜の販売ですが、食用のほおづきというのが珍しかったです。試食用をいただきました。あんずのような柑橘のような味でした。
みとし会たまり場作りの会
恒例の裂き織り作品の展示と販売です。
ほのおの会
ほのおの会は、富士見町で活動する土器作りサークルです。見事な土器を毎回見せてくれます。販売もあります。
紅蓮・織りの会
紅蓮・織りの会は、春と夏の縄文体験のときに機織り体験で教えて下さる機織りグループです。
筆者の物々交換の戦利品のひとつであるトートバックはこちらの会の方から品だったようです。
町議会
町議会のみなさんはアクセリ作りのブースの担当です。
議員さんたちが木の実のアクセサリー作りを指導していました。ここで作ったアクセサリーを貸し出し用の貫頭衣に合わせるとますます縄文人っぽくなります。
アトリエデフ
アトリエデフも初出店のグループ、木を活かした建築会社のようです。こちらでは竹製品や端材を使った木工品などを扱っていました。前述のつくえらぼとの共同企画が長野日報にも掲載されているようです。
土器作りの会
煙が上がる一画があります。土器作りの会による土器の野焼きです。さすが井戸尻、土器サークルが複数あります。ほのおの会に対して、こちらは、実際に出土した土器をほぼ忠実に作るという作風に違いがあります。
野焼きの始めでしょうか火の回りに土器を並べているところです。
あとでもう一度訪ずれたときは、すでに焼けて完成した土器の目止めをしていました。
井戸尻いきもの田んぼの会
こちらは井戸尻いきもの田んぼの会による縄文野点とあります。ドクダミやイタドリなど野草を縄文土器で煮出してお茶を振る舞うそうです。
井戸尻応援団
井戸尻応援団のみなさんのテントでは、春の縄文体験でもおなじみだった本物の土器の破片を使って土器の拓本作りをやっています。また、応援団の活動の様子が写真で壁一面に貼ってあります。
貫構法研究会
先ほどの蓮池横の「貫」工法の建築を紹介するグループです。貫工法の展示解説をするほか、木の枝をノコギリで切ってオリジナルのコースターが作れます。こちらも初出店です。
ほかに石器を使った雑穀の収穫体験というのがありましたが、筆者は見に行けませんでした。
神話再現
午後のステージの初めは神話再現です。収穫の祭式でもあった五穀をもたらす神話と壊される土偶との関わりが再現されます。
日本神話における穀物の神であるオオゲツヒメは鼻、口、尻などから食材を取り出し、空腹のスサノオをもてなします。そんな汚いものでもてなされていたのかと怒るスサノオにより切り殺されたオオゲツヒメは頭から蚕、目から稲、耳から粟、鼻から小豆、陰部から麦、尻から大豆を生みだしたといいます。
縄文人が現れ穂倉より土偶を手に取ると点に大きく掲げます。そして、一気に土偶の首をもぎ取ります。
さらに、ばらばらに壊すと石の鍬でそこかしこに埋めるのです。そのあと穀物が現れ、縄文人は穂倉に納めるていきました。
こうした神の死体から穀物が生まれたというのは世界各地に見られる食物起源神話(ハイヌウェレ神話)のひとつとされます。
土偶の多くがバラバラに割れて別々の場所から発見されますが、井戸尻考古館ではスサノオにより切り殺されたオオゲツヒメの姿に比類させて解き明かそうとしています。
くく舞
神話再現が終わるとすぐにくく舞になります。「くく」とはまたの名を「ぐく」と言いカエルのことです。土器の文様や土偶の姿、形などから縄文時代の舞を想像した考古館独自の舞です。一般の飛び入り参加大歓迎です。センターは代々考古館長が務めます。
両脇に月と太陽を抱えてゆっくりと立ち上がます。藤内遺跡の神像筒形土器の姿です。
この指3本のポーズこそカエル。土器図像の半人半蛙文です。このほかにも土偶の形や土器の文様に関連するポーズが随所に入っています。
富士見高校の妖精(ゆるキャラ)ルパンビーも踊っていました。このルパンビーはいい子なんです。いつでも呼んで手を振ると必ず返してくれます。
ジミフーコイダ
祭りの最後を飾るのは謎の縄文太鼓集団ジミフーコイダ(富士見太鼓保存会)のみなさんです。謎の集団といいながらすっかり定番化してきたと思っていると、今年は参加型になっているとの場内アナウンスです。
何がどう参加型なのでしようか。これまた謎めいた親分(?)を子どもたちなどが囲んでみんなで踊るのですが、これまでと異なりステージ下の客席前に鎮座しています。
親分は腹がへっていて「飯がほしいぞ」などと言っています。すると周りは「ヨイヤラヤッサー」と合いの手を入れて踊り回ります。その間ずっと太鼓が鳴り響きます。
参加型はこれからです。見ている周囲も振り付けを真似して踊ります。それだけではありません。いつの間にか踊っていた聴衆も踊りの輪に引き入れられています。館長、学芸員、ルパンビー、出典スタッフ、お客さんも、みんなみんな踊りの輪です。
閉祭のあいさつ
踊り疲れたあと、閉祭のあいさつが実行委員長からあり午後3時で収穫祭は終了となりました。標高が高く山に囲まれているせいか途端冷えてきます。井戸尻遺跡はこれから徐々に冬に向かいます。
おわりに
今年も収穫祭の井戸尻遺跡で1日過ごすことができました。
これまでと同規模の開催に戻り2回目の高原の縄文王国収穫祭でしたが、地元の住民や観光客で賑わい、人出は増えていたように感じられました。
物々交換も好調で、筆者もおみやげを手に入れることができました。
縄文ハロウィンが同日に開催されており、そちらとは相乗効果か客の食い合いか効果の程は分かりませんが、秋の一日富士見町が縄文の日として活気づいていました。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?