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三つのトラブルで感じた全盲であること 

立て続けに「全盲であること」を実感させられた出来事があった。先日、職場から家に帰るまでの1時間ほどの間に、三つも重なった。
一つ目は職場を出て、駅まで歩いていたときのこと。人通りも少なく、慣れていることもありそれなりのスピードで点字ブロックの上を歩いていた。ガン、と左足に衝撃があり、点字ブロックに乗りかかるようにして止まっていた自転車に足を強打した。痛かったものの、よくあることなのでそのまま駅に向かった。
二つ目はなかなかない衝撃的な出来事だった。乗り換えのために使っている駅は、5路線が乗り入れしている。通勤時間帯で人通りも多いことから、見える人からしたら止まるんじゃないかと思うぐらいのスピードでゆっくりゆっくり歩いていた。行きかう人を引っかけないように、白杖を斜めに構えて慎重に進んでいった。突然鼻にものすごい衝撃。目から火が出るかと思うほどの痛みに涙が出た。ぶつかった。人だな。相手も視覚障害者?数秒の間にこの三つが頭に浮かんだ。

「ごめんね!」

泣きながら顔を抑える私に声をかけてきたのは、声から判断すると60代ぐらいの女性だった。

「ごめんねぇ。痛かった?下向いて考え事してたから」

小さい子供をなだめるような口調に不愉快な気持ちになった。痛すぎてうまく思考力が働かなかった。止まるんじゃないかと思うほどのスピードで歩いていた私が、これだけの衝撃を受けるということは相手は下を向いて考え事をしながら全力疾走していたのだろうか。軽くぶつかることはしょっちゅうあっても、今回はおもいっきり顔を殴られたほどの痛みだった。

「ごめんね。スマホなんか見てないわよ」

そう吐き捨てるように言って女性は立ち去り、私は痛みで泣きながら乗り換え先の改札へと向かった。少し冷静になってくると、正面衝突するはずがないなと思い始めた。まずは白杖が相手の足に当たり、そこで

「すみません」

となるはずだ。どうして正面衝突したのか、相手の視界に私が全く入っていなかったのだろう。実際にスマホを見ていたかどうか、私には確認することができないのも悲しいことだ。30分ほど電車に乗っている間も鼻の痛みは治まるどころかひどくなっていった。
三つ目の出来事は、自宅の最寄り駅に到着し、バスに乗ろうとしていたときに起きた。バスが止まっている音がしたので、これに乗りたいなと思い、最後尾らしきところに並んだはずだった。急いでいたこともあり、前の人に腕が当たってしまった。

「すみません」

と言うのと同時に、肘でかなりの強さで払いのけられた。その瞬間、強いマイナスの感情が伝わってきた。

「触るな!」

言葉にしなくても払いのけるような腕の動きが物語っていた。私に対して嫌な気持ちを持った人なんだとわかった。

「当たらないでもらえます?そんで、順番抜かしてるよ」

とげとげしいきつい口調でその人は言った。私も当たりたくて当たったわけではない。さっきぶつかった顔の痛みもあり、何も言えずに

「すみません」

と言うのが精一杯だった。すると、近くにいた男性が声をかけてくれた。

「バス乗りますか?よかったら僕に捕まってください」

一連のやり取りを聞いてくれていたのか、労わってくれるような優しい口調にほっとした。肩を持たせてもらえたおかげで、前に並んでいる人にぶつかることなくバスに乗ることができた。
なんとか家に帰りつき、三つも重なった悪いことを夫と娘に話した。鼻は娘に見てもらったところ、赤くなっていた。バス停の男性のことは夫が

「そういうことあるよね。あきらかにこちらに対して悪意を感じることがある」

と言っていた。駅で激突したのもそうとう痛くてつらかったのだが、それ以上にバス停での出来事がショックだった。少しぶつかっただけで、こちらはすぐに謝っているにも関わらずあんなにも人から悪意をむき出しにされたのは久しぶりだった。少し時間が経つと、仕事で関わっているたくさんの「白杖を持ち始めたばかりの人たち」のことを思った。見えなくなって、見えにくくなっていろんな葛藤がありながらも、外に出るために持った白杖。神経を使いながら、周囲の音や白杖から伝わる情報をキャッチして歩いているときに、こんな思いをしたらと悲しくなった。こういうことが続くと、30年ほど白杖を持っている私も外に出るのが怖くなりそうだった。それでも、これまでたくさんの人に助けてもらったことを思い出した。翌日の通勤では、助けてくれる人の声に気持ちを向けてみようと意識して歩いた。信号を待っている私に

「青ですよ」

と声をかけてくれた男性。青になったことがわかるだけで、歩き始めるのが楽になった。
職場の最寄り駅に着いたところで

「一緒に改札まで行きましょうか」

と声をかけてくれた女性。

「ありがとうございます。慣れてる場所なので大丈夫です」
「お気を付けて」

やり取りをした声は優しかった。

心無い言葉や思いもよらないことが続くと、周囲に対してマイナスな気持ちを持ってしまうこともある。でも、声をかけてくれる人、見守りの目を向けてくれている人がいるということ、ちゃんと覚えておきたい。

「優しい人はたくさんいるよ」

白杖を持ち始めたばかりの人たちにも伝えたい。


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