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小さな工夫が大きな一歩に

視覚障害について講演や研修の依頼を受けるようになり、9年が過ぎた。企業や学校、自治体と様々なところからお声がけいただくようになった。今年1月には読売テレビからご依頼をいただいた。全社員向けに、視覚障害について知ってもらうためのコンテンツの撮影をした。大阪の読売テレビに行き、林マオアナウンサーと対談させていただいたことは貴重な経験になった。
そんな中、2019年からコンスタントにご依頼いただいているのが、プリンスホテル系列の方々が受講するハートフルアドバイザー研修の講師だ。この研修では、高齢者や様々な障害を持った人の接客方法を二日間で学ぶ。私は視覚障害の担当講師の一人として、当事者の立場でお話しさせてもらっている。先日もこの研修の講師として呼んでいただいた。多くの人を前に視覚障害の当事者として話す場合、私の意見や経験が「視覚障害者全体の物」にとらえられやすい。あくまでも私個人の話であり、視覚障害者全体のいけんではないとお伝えしていても、当事者が語ることでの説得力や重みを感じている。私の意見が「全体の意見」にならないよう、言葉を選びながら視覚障害者と言っても様々な立場の人がいることを話している。全く見えない人より、視力を使って生活している「ロービジョン」の人が多いこと。生まれつき見えない人より、人生の途中で見えにくく・見えなくなる人が多いこと。「全盲」といっても、見えなくなった時期に寄って感覚は違うこと。見え方もこれまでの生活スタイルも様々だ。いつも必ずお話ししていることがある。研修の中で基本的な手引きの仕方や誘導の仕方はお伝えするのだが、どんなサポートが必要かは本人に聞いてほしいということだ。視覚障害者であっても、見え方も経験も様々であることから、求めているサポートもそれぞれだと思う。「目が見えないお客様」ではなく「一人のお客様」として接してほしいと伝えている。みなさん真剣に話を聞いてくださっている様子が伝わってきた。研修の中ではホテルでの接客で、よかったことや困った具体的なエピソードをいくつもお伝えした。こんな質問が出た。

「視覚障害のお客様のために、ホテル側で何か工夫できることはありませんか?」

というものだ。ちょっとした工夫があれば、見えない・見えにくい人たちが助かることはないかと考えた。例えば、シャンプーとコンディショナー。
家にあるものは、触って分かるようにシャンプーのボトルにはギザギザが付いているものが多い。でも、ホテルで使うものは大きさが同じで、ギザギザがないものが多い。そこで、シャンプーに触って分かるように輪ゴムを巻いてもらったり、テープを貼ってもらうことで、十分工夫になるとお伝えした。

「なるほど。そうですよね。触ってわかる工夫になりますね」

と答えてくださった。こんな小さなことが工夫になるんだと思っていただけたなら嬉しい。その後、iPhoneのアプリのことを話した。
アプリのOCR機能を使えば、スマホをかざした部分に書かれている文字を読み上げられる。実際私は一人で宿泊したとき、これでシャンプーとコンディショナーを見分けることができた。もしアプリでうまく読み取れなかったら、ビデオ通話で娘か妹に見てもらおうと思っていた。でも、スマホを使えない視覚障害者はたくさんいる。ちょっとした工夫があれば、見えなくても安心して宿泊ができる。

「こうやって工夫すればいいかも」

と思ってくれる人が一人でも増えれば、もっともっと生きやすい社会になる。これまでのことや子育ての話をするときは、私の経験をお話ししている。でも、研修の場ではいろんな方向から「視覚障害」について伝えなければいけない。個人の講演でも、企業向けの研修でも、最後に伝えていることはいつも同じだ。目の前にいる人を見てほしい。

「どうせこうでしょ」

と決めつけるのではなくて、対話をしてもらいたい。そのためには私たちも

「こういうサポートをしてほしい」
「これはできるので大丈夫です」

を相手に伝えられることが必要だと思う。対話して歩み寄ることで、きっと心地いい関係が築けるはずだと信じて、これからも話していきたい。

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