馬場高志

読んだ本や勉強したことについて書きたいと思います。興味がある分野は、脳科学、進化論、物…

馬場高志

読んだ本や勉強したことについて書きたいと思います。興味がある分野は、脳科学、進化論、物理学など、最近は哲学も。

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分離した脳の理解を通して見る世界:The Matter with Things(読書メモ)

(この記事の英訳が著者のウェブサイトに掲載されました。尚、このウェブサイトにはマギルクリストのトークのビデオなど豊富に収録されています)   人の記憶はあいまいで、しばしば後から話を作り上げる。人は不合理なバイアスに支配されており騙されやい。脳科学や行動経済学の本を読むのが好きで、こうした脳についてのいろいろ知識を仕入れてきたが、それで何が本当かを見分ける力がついたり、より良い人生を送るための指針が得られたりしたかというと、残念ながら、そのような手応えはなかった。 Iai

    • 「単なる物理」から複雑なマインドへ: 生物学者マイケル・レビンの理論 

      複雑な生物システムは階層的な構造を持っている。分子は大きなスケールを持つネットワークに組織化し、それが細胞に組織化され、細胞が集まって体組織になり、それが器官、そして最終的には生物個体を形成し、更に大きなスケールで社会や生態系に組織化される。生物学者のマイケル・レビンによれば、この階層性は、単に構造的なものではない。各階層にはその階層において対応すべき問題を抱えた主体(エージェント)が存在し、「一定の目標に異なった方法で到達する能力」というウィリアム・ジェームズの定義による意

      • 知性の起源:マイケル・レビンの生物学からの視点

        米国の生物学者マイケル・レビン教授の発生生物学(*)研究と知性に関する理論を紹介したい。以下はレビン教授が一般聴衆向けに行った講演やインタビューの動画/ポッドキャストの内容を中心に私なりの理解でまとめたものである(参考にした動画・ポッドキャスト、論文のリンクは文末)。        *受精卵から成熟した個体になるまでの個体発生を研究する分野 レビンは、生物が脳だけでなく、細胞・組織・器官のレベルでも様々な問題解決の能力を持つことを示す驚くべき研究成果を次々と発表している。

        • 生物はモノではなくプロセスである「Everything Flows」(読書メモ)

          「Everything Flows -Towards a Processual Philosophy of Biology(すべては流転する -プロセス的な生物学の哲学をめざして)」という本を紹介したい。この本は、生物の世界は、ふつう考えられているように物質的な粒子やモノで出来ているのではなく、プロセスで成り立っているという哲学テーゼを探求した18本の論文を収録している。以下では、この本の編者であるジョン・デュプレ(John Dupré)とダニエル・ニコルソン(Daniel

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        分離した脳の理解を通して見る世界:The Matter with Things(読書メモ)

        • 「単なる物理」から複雑なマインドへ: 生物学者マイケル・レビンの理論 

        • 知性の起源:マイケル・レビンの生物学からの視点

        • 生物はモノではなくプロセスである「Everything Flows」(読書メモ)

          世界は時間でてきている 平井靖史著(読書メモ)

          目の前のリンゴの赤い感じや空を飛ぶ鳥の動きを、私たちは自分の体験から、確かな現実だと信じている。ところが、脳科学で主流の表象主義という考え方によれば、私たちが外界のものを見聞きするときに直接アクセスしているのは、物自体ではなく、全て脳の中に生じる表象である。夢や幻覚を見たりする時のように外界に対象が実在しない時でも、私たちは表象を持つことができるので、最終的には、知覚は幻覚と根本的に変わらないものとして「主観のうちに囲いこまれてしまう」(p.196)ことになる。 ベルクソ

          世界は時間でてきている 平井靖史著(読書メモ)

          論理パラドックス(3)全体と部分

          イアン・マギルクリストの論理パラドックスに関する論考をもう一つだけ紹介したい。マギルクリストの主張は、人間の脳の左半球と右半球が世界を2つの異なった方法で見ており、論理パラドックスの多くはこの異なる世界観の対立から生じているということであった。 右半球の見る世界は、ユニークで、常に変化して流れ、相互に結びつき、ゲシュタルト心理学でいうゲシュタルト (全体性を持ったまとまりのある形態) の世界であるのに対して、左半球にとっての世界は、一般的で、数量化でき、部分によって説明で

          論理パラドックス(3)全体と部分

          論理パラドックス(2)自己言及

          前回(https://note.com/baba_blog/n/n22c1e46096d8)に続いて、イアン・マギルクリストの、論理パラドックスに関する論考を紹介する。マギルクリストの主張は、人間の脳の左半球と右半球が世界を2つの異なった方法で見ており、論理パラドックスの多くはこの異なる世界観の対立から生じているということであった(左右の半球の性向の違いについてはhttps://note.com/baba_blog/n/nc1e8e01e7857参照)。 多くのパラドック

          論理パラドックス(2)自己言及

          論理パラドックス(1)無限と有限

          前回記事(https://note.com/baba_blog/n/nc1e8e01e7857)でIain McGilchrist (イアン・マギルクリスト) の「The Matter with Things(モノの問題)」という本を紹介した。その中心的な主張は、人間の脳の左半球と右半球が、世界を2つの大きく異なった方法で見ているということであった。 パラドックスには二種類ある。一つは、一見対立するように見える真実が実際に同時に成り立つ場合で、こうしたパラドックスは現実の深

          論理パラドックス(1)無限と有限