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your song
ああ、そうか。 きっとあれは君の声だったんだ。 どっからやってきた君の声なのだろう。 あの山の向こうか、木々の隙間か、滴る雨の中か、吹き抜ける風の中か、形変えゆく雲の隙間か、流れる時の間か。 その声は、音楽だった。 意味も価値もない、ただ、君が奏でた音楽だった。 僕はそれを聞いた。 耳で聞いた。 目で聞いた。 口で聞いた。 この鼓動がその証だ。 この鼓動は、踊っていた。 君の声に合わせて、踊っていた。 揺れた。 揺れてしまった。 揺らされてしまった。 流れる君の音楽は、僕をじっとさせることなんて出来なかった。 僕のこの止まらぬ鼓動は、歌に溶けていった。 掴めないあの川の水のように、静かに溶けていった。 僕は、思い出した。 懐かしい記憶を思い出した。 記憶といっても、何も映像はない。 あるのは、この体に残る温度だけ。 この体温が、懐かしさを回顧している。 繰り返す日々の中で君は何を願っているのだろう。 その流れる音楽は、誰に向けられたものなのだろう。 誰も踊ってくれなかったとしても、君は歌うのだろうか。 そんな愚問を並べたとしても、君はきっと、何も言わずに、そっと微笑むのだろう。 ただ、巡り巡る生命を想って君は歌い、僕は、踊る。 そこに意味などない。 価値などない。 ただ、あるだけなのだ。 ただ、そこにあるだけなのだ。 だから、増えず無くなりもしない。 何も悲しむことはない。 全部、そこにあるのだから。 その瞳から流れる涙は何で出来ているのだろう。 それは誰かが抱いた寂しさか、あの子の笑い声か、難しく考えすぎたあの問いか、どっかで忘れてきた記憶か、見たこともない世界に馳せた切なる願いか、懐かしきあの日々か。 その流れた涙はどこへゆくのだろう。 そこはかとない記憶に舞い戻るのだろうか。 この駄文に乗ってどこか遠いところへ行くのだろうか。 いつだって、帰ってくる。 帰る場所は、ここしかないのだから。 静かな朝焼け。 絶え間ない呼吸。 消えゆく鼓動。 繋がれる命。 終わりと始まり。 空と群青。 光差す丘。 吹き抜ける風。 降りしきる雨。 照らす太陽。 水面に浮かぶ花々。 揺れる色彩。 赤。 青。 黄色。 僕は、踊る。 鳴り止むことのない、その美しき音楽に合わせて、僕は、踊る。 そこに意味などない。 価値などない。 ただ、美しい旋律がそこにあって、共鳴する何かがそこにあって、呼応し合うだけなのだ。 ただ、それだけのことなのだ。 ああ、そうか。 きっとあれは君の声だったんだ。 どっからやってきた君の声なのだろう。 あの山の向こうか、木々の隙間か、静かな海の中か、滴る雨の中か、吹き荒ぶ風の中か、形変えゆく雲の隙間か、流れる時の間か。 君は一体誰なのだろう。 【曲】 曲名:Collapse dance アーティスト:soundorbis (フリーBGMサイト「DOVA-SYNDROME」より)