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リバプールの財務諸表を読んでサッカークラブビジネスの理解を深める


サッカー観戦が好きで、よくプレミアリーグやラリーガの試合を見たりしています。そうした海外サッカーのニュースとかを見ていると、移籍金XX円~とか、バルセロナの財政難が~とかの記事を見かけることがあります。

なんとなくわかったつもりでも、その情報がビジネスにどのように結びついているのか?が良くわからなかったので、実際にサッカークラブの財務諸表を読み解いて、解像度を上げたいなと思ったので一番大好きなリバプールの財務諸表を直で読み込んで解像度を上げる取り組みをしました。

検証していきたいポイント

気になる点は以下
①サッカークラブの財務諸表はどうなっている?
②サッカークラブはどのようにして資金のやりくりをしているのか?
③移籍金って、結局どういうことなの?

①~③の順番で答えを出していきます。
尚、データソースはリバプールが2022年5月、公式に公開しているIR資料を参考にしました。興味がある方は是非見てみてください

①サッカークラブの財務諸表はどうなっている?

The Liverpool Football Club and Athletic Grounds Limited. “Annual report and consolidated financial statements”,   https://backend.liverpoolfc.com/sites/default/files/2023-03/Liverpool%20Football%20Club%20Annual%20Report%20and%20Consolidated%20Financial%20Statements.pdf

まずはPLはこんな感じ。大体2022年度の粗利(Turnover)は6億ポンドくらいで、おおよそ1,100億円くらいですね!
営業利益(Operating Profit)は20億円くらいで、営業利益率1%程度と、意外と収益性が高くないですね。(コンビニ業とかタクシー業くらいの利益率。食品製造業が5%弱、ホテル業は10%弱)
また、販売費(Cost fo sales)は130億円くらいで、一般管理費(Administrative expenses)は1,040億円くらいです。
また、Profit on disposal of players registrationsはいわゆる選手の移籍に伴う利益で、これだけで40億円くらい稼いでいます。これなかったら赤字ですねw

The Liverpool Football Club and Athletic Grounds Limited. “Annual report and consolidated financial statements”,   https://backend.liverpoolfc.com/sites/default/files/2023-03/Liverpool%20Football%20Club%20Annual%20Report%20and%20Consolidated%20Financial%20Statements.pdf

固定資産(fixed assets)は1,000億の無形・有形はおおよそ同額、流動資産(current assets)は320億円くらいでした。総資産回転率は0.9くらいで、ホテル業くらいの水準です。

会計基準を確認したら、移籍で獲得した選手は無形資産として計上されるみたいです。試しに今年移籍してきた選手の移籍金額を調べたら、今年分でおおよそ合計が合った(ちょっと少ないですが、去年以前に獲得した選手分で一致してそう)ので、無形固定資産はほぼほぼ彼ら移籍で獲得した選手たちの市場価格になりそうです。(移籍金を無形資産として計上し、最大5年間で減価償却するルールになっています。)

また、注意点ですが、無形固定資産で計上されている金額はあくまで会計基準に則って取得価格を基準に計上されており、クラブ所属選手全体の市場価格を表しているわけではありません。(会計ってややこしい~)
例えば、下部組織から育成で仕上げてきたTAAさんとかはめちゃくちゃ市場価値が上がっていますが、彼は6歳の時にユースチームに所属しているので、実質移籍金はほぼ0円(つまり会計上はほぼ0円)として計上されています。
ちなみに減価償却費は管理費に分類されるので、あのえげつない管理費はおそらく減価償却費・選手やコーチ・監督の給料が原因ですね。

伝統ある名門クラブということもあり、結構財政状況は重めな印象でした。

上記のPLとBSを読み込んだうえで、以下は理解できました。

  • 選手含め、莫大な資産をなんとか回して売上を出している(資本回転率は0.9と微妙)

  • 売上に対して、販売費および一般管理費を通じて営業利益は1%くらいしか残らない

  • 黒字化にあたり、運営コストが莫大なため、本業の売上は中々上げ辛く、選手の移籍による収益確保がとても重要だと思われる

これらを踏まえ、①~③を解いていきましょう

②サッカークラブはどのようにして資金のやりくりをしているのか?

The Liverpool Football Club and Athletic Grounds Limited. “Annual report and consolidated financial statements”,   https://backend.liverpoolfc.com/sites/default/files/2023-03/Liverpool%20Football%20Club%20Annual%20Report%20and%20Consolidated%20Financial%20Statements.pdf

PDFファイルでテキスト認証しなくてだるかったので、原文そのまま載せます。これは売上の詳細を説明しています。数字はなかったですが、主な収益源は広告、ホーム試合のチケット代や、テレビ放映権で、多分22年はUEFA欧州選手権の参加に伴って売上が好調みたいです。費用のところはそこまで新しい情報がなかったのでカット

今までの情報を踏まえると、サッカークラブというものは運営コストが莫大にかかるものの、収益確保のためには、「選手の育成と売却によるキャピタルゲインの獲得」、「UEFAなどの世界大会への出場権獲得」が非常に重要になってきそうですね。チケット代や広告などを安定的に確保するためにはクラブのファンを増やしていくことも要因の一つになりそうですが、売上を上げるという観点では今のリバプールの状況を踏まえるとそこまで重要ではないかもしれません。

③移籍金って、結局どういうことなの?

さて、最後に、結局移籍ってどういうことなのか?をクラブ運営の立場で考えてみます。
サッカークラブが移籍によって収益を得るためには、移籍先から支払われる移籍金が必要です。※移籍違約金を設定するのが今のトレンドになっていますが、一旦無視します。

そうなったときに、収益確保の観点では以下を留意する必要があるでしょう

  • 契約期間中の移籍をすること(契約が切れてから移籍されると移籍金が一銭も入ってこない!!)。転じてどんな選手においても契約更新は基本的に怠らない

  • 取得時の移籍金はなるべく低く(育成が理想)、売却時はなるべく高くすること

  • やばい選手は市場価値(移籍金)が落ちきる前に早く売却してしまうこと

これらを踏まえると、昨今ニュースで流れてくる移籍の情報から、クラブ側の意図が理解できるようになってきました。遠藤航さんの取得は安い金額でとってきたにもかかわらず大活躍していて、非常に効率の良い投資であったし、南野拓実さんは取得時16億円くらいだったのがモナコへの移籍金は28.5億円で、12億円位のキャピタルゲインを古巣に残したことになります。(投資判断としてはとても良かった)

さて、今日の内容を改めてまとめます。サッカークラブの運営に際して、財務的な観点では以下が言えるでしょう。

  • 選手含め、莫大な資産をなんとか回して売上を出している(資本回転率は0.9と微妙)

  • 売上に対して、販売費および一般管理費を通じて営業利益は1%くらいしか残らない

  • 黒字化にあたり、運営コストが莫大なため、本業の売上は中々上げ辛く、選手の移籍による収益確保がとても重要だと思われる

  • 収益を上げるためには移籍金によるキャピタルゲインの獲得と、UEFAへの出場がとても重要

  • キャピタルゲインの獲得のためには、契約期間内の移籍が必須だし、市場価値が落ちてきている選手はなるべく早く、高い金額で売却する必要がある

サッカーの移籍関連のニュースが流れてきたら、この記事のことを思い出していただけると幸いです。

この記事について

タイミーで事業管理をしている福島が日々感じたことから思考を巡らせ、備忘していき、学びを積み上げていきます。あんまり業務に関係ないこともつぶやきます。
「オードリーのオールナイトニッポン 📻 で毎週フリートークしているのをリスペクトしていて週次でnote更新をしているSho1さん」をリスペクトしているので、僕も見習って週次くらいで更新し続けたいなと思っています。

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