は、博士、どうしたのですか？

ワシは研究者として禁断の領域に入ってしまったかもしれん。

どういうことですか？

ただ知りたい。そんな些細なきっかけだったのに、気が付いたら自分さえ止められない欲望という大きな怪物に支配されてしまった。

何があったのですか？

これじゃ。

こ、これは？

この箱の中が見えるか？私は数日前この中に、あんパンと食パンとカレーパン、そしてばい菌を入れた。

ま、まさか。

この意味が分かるか？

ば、ばい菌が圧勝してる・・・。

そうじゃ、同じフィールドなら、あんパン、食パン、カレーパン寄ってたかってもばい菌には勝てん。

そんな。

ワシも様々な仮説を立ててきたが、どうしても自分の目で見て確かめてみなたくなってな。本当にやってもいいものかと躊躇したが、熱い胸の奥のパッションがこの手を止められんかった。

これをどうするつもりで？

さあ、そこまで考えとらんかった。

これYouTubeにアップしましょう。絶対バズりますって！そうなれば研究費の足しになりますし。

いや、これを子供たちが見たらどう思う？ワシは子供の夢を奪うために今回の実験をしたのではない。ただ己の欲望に負けてやっただけだ。こんな汚い大人のエゴで、未来ある子供たちを泣かせてはならん。

そうですね。この箱どうします？

キッチンハイター持ってきてくれ。

ブシュー！

今日見たことは二人だけの秘密にしよう。誰にも言ってはならん。

はい。

それと今日を持って研究を引退する。

ええっ！本当ですか？

うすうす感じてはいたが今回の実験が最後になる。そんな覚悟を持ってあの時、箱にばい菌を入れた。後悔など何もない。やらない後悔よりやって後悔とは、うまいこと言ったもんだ。小僧、この研究所はくれてやる。ワシの唯一の後継者だからな。

博士はこのあとどうするつもりで？

ワシは今回の実験で絶望を見た。が、と同時に新たな夢が見えた。その夢に向かってもう歩き出しておる。夢を見るのは何歳になってからでも遅くはない。

―――２年後

ウチに原稿持ってくるなんてあのじいさんガッツあるよな。

最近の若いヤツにもあんなガッツほしいよな。

で、どんな原稿持ってきたんだ。

あ、絵本なんだけどな、これ

除菌戦隊ハイターマン？

完膚なきまでに敵を倒す、主人公の理にかなった攻撃が完璧でおもしろいんだけど・・・

だけど？

夢がないよね。