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赤い魚、青い魚

パートナーのオッサンと僕の休みが合う日曜日の夜。

今夜も映画をみようかと誘ったら、オッサンは水草を買いに行きたいという。日中は家の中で過ごしていたので、少し外を歩きたい気がした。映画よりいいかも。夜の8時を過ぎていたけど、近所にある熱帯魚店へ歩いて行くことにした。

日曜の夜に限ったことではないのかもしれない。夜の熱帯魚店は、昼間とは違うなんとも言えない雰囲気がただよう。僕の頭の中では槇原敬之(マッキー)の歌が流れる。日曜のデートでスネてしまった「彼女」との熱帯魚店での思い出をつづった曲だ。

オッサンが流木と水草を品定めしている間に、僕は水族館を楽しむように魚を見て過ごす。キラキラと泳ぐ魚たちを見ていると時間を忘れる。

マッキーを聴き始めたのは18才のとき。大学に入り一人暮らしをして、ゲイコミュニティに参加し始めたころだった。マッキーがゲイなのかどうなのかは関係なく、彼の書く歌は人を好きになることに後ろめたさを感じる僕の心にひびいた。

たぶんマッキーが歌を歌わなければ、僕の人生は全く違うものになっていたと思う。彼の書く歌詞とメロディーが、僕のこころを作ったと思う。作ったというよりも、守ったと言ったほうがピッタリくるかもしれない。僕はマッキーの歌に守られて危険なゲイの青年期を命からがら生き抜いた。

日本のゲイの自殺企図率は一般の6倍ぐらい高い。ゲイコミュニティに参加していれば、精神疾患や自傷やアディクションがありふれたものなのだと自然に分かる。

自殺で友人や大切な人を失うゲイは多い。おかしなぐらい多い。僕には同じ大学のゲイの友人が2人いたけれど、2人とも自ら命を絶ってしまった。10年以上経った今でも、彼らの死を思うと胸が張り裂ける。同じ未来を歩めない事がたまらなく悲しい。

閉店時間ギリギリになって、ようやくオッサンがくねくね曲がった流木を1本と色や形の違う水草を3株選んだ。会計をする店長とオッサンの会話に耳を傾けながら、僕は光あふれる水槽の写真を撮った。

赤い魚、青い魚。生まれる場所は選べない。体の色も選べない。それでも、限られた世界で精一杯生きる。

◆追記 つづきの記事があります。
悲しみを力に
https://note.com/baku2020/n/n189ed3848663

ソバニ色
https://note.com/baku2020/n/n0c2b55cdf93f

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