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「賃金の日本史」

「賃金の日本史・仕事と暮らしの1500年」高島正憲著・吉川弘文館2023年9月発行

著者は1974年生まれ、日本銀行金融研究所を経て、関西学院大学教授。専門は経済学、「経済成長の日本史」などの著書がある。

19世紀前半頃、江戸の大工の生活の記述が「文政年間漫録」に載っている。

1年で60日休み294日働く大工。日当は銀4匁2分、飯米料(一種の手当)1匁2分、現在価値で合計10,800円である。年収は銀1貫587匁6分(310万円)夫婦子供の3人で、支出は飯米代銀354匁(70万円)店賃110匁(22万円)年間支出合計は1貫514匁302万円)余剰8万円とある。

1年間で体調悪い日、休めば余剰は減る。子供2人なら不足する。カツカツの生活である。江戸時代職人は宵越しの金を持たない。

本書は農業、商工業の人々の生活実態の歴史的分析である。古代、中世、近世の賃金の歴史を見るユニークな本である。貨幣の歴史、その現実は、中国渡来銭の銭貨に依存した中世の実態はあまり知られていない。

網野善彦は中世、南北朝以降の時代から、現在の日本の原風景が形成されたと言う。それ以前の日本は、現代日本の習慣、生活とは全く異なっていると言う。足利時代が一つの日本の原風景の転換期かもしれない。

古代・奈良時代、下級役人の生活は厳しい。平安時代は上級役人、下級役人との給料の格差は8,000倍ある。格差社会である。

江戸時代の職業多様化など、今まで知られていない職業が多くある。江戸時代の最下層は「願人坊主」・神社仏閣に代わりに参拝祈願する商売である。変わった職業では猫の蚤を取る商売もあった。

格差社会の現代と比較しながら読み直すと興味深い本である。

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