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社会分断化は格差拡大・中流崩壊が原因

「中流崩壊」橋本健二著・朝日新書2020年7月発行

著者は社会学専攻の早大人間科学学術院教授、「アンダークラス」ちくま新書「格差と階級の戦後史」河出新書の著者である。

戦後の高度成長期「一億総中流」の言葉が流行した。丁度、サラーリーマン中心の中流社会全盛の時代である。新自由主義が世界を覆い始めると格差社会という言葉が流行した。

1977年5月、経済学者・村上泰亮氏が「新中間階層の現実性」の小文を朝日新聞に発表。自分を中産階級と考える人は国民の9割を占めると言う。田中角栄の日本列島改造論が世に出たのは1972年、経済成長の時代だった。

1980年代、インフレと失業に悩む欧米諸国は新自由主義と緊縮財政の流れが強まり、サッチャリズムとレーガンミクスの経済政策が採用された。著者も日本の格差拡大のスタートを1970年代後半から1980年代初めと主張する。

バブルの中で夢見た中間層は格差拡大の流れに気が付かず、1990年代中頃のバブル崩壊後「中流という幻想」に気が付き始めた。格差拡大論をリードしたのは、経済学者・橘木俊詔氏である。「日本の所得分配は国際比較からも不平等化し、先進国の中でも平等度が高い国ではない」と言う。

2000年2月、日経新聞「経済教室」で、経済学者・大竹文雄氏は「格差拡大はみせかけ論」を主張。「格差拡大は格差のある高齢層増加によるもの、実質的な格差拡大ではなく、高齢化によるもの」と主張した。

総中流の思想は権力支配体制の正当性を示すもので格差拡大を認めるわけにはいかない。アベノミクスのトリクルダウン理論は経済政策正当性の言い訳に使われた。

現在、格差拡大、貧困拡大は隠すことのできない事実となった。金融資産5,000万円以上保有する富裕層は448万世帯、国民全体の8.4%、その金融資産総額は556兆円、国民金融資産全体の35%を占める。

格差拡大は大衆層の健康悪化を進め、GDP成長率の低下を招く。教育格差は人的資本不足を招き、生産性を低下させる。

米国大統領選が話題だ。共和党トランプ、民主党バイデンの熾烈な戦い、分断化の拡大が進んでいる。トランプ支持理由は経済問題。支持層は抑圧された白人労働者、高齢者である。

米国は先進国中、最も格差拡大の大きい国。日本もその後を追っている。なぜ分断化するのか?人は理由を聞く。答はひとつ、中間層崩壊と格差拡大である。米国は先進国トップの格差社会、白人中間層が崩壊した。

コロナ後、資産バブルと格差拡大が日本経済の大きな問題となる。米国民主主義と大統領選挙、日本学術会議、学問の自由、トランプ大統領、菅首相の発言が共に常識外れ、普通の理屈では理解できない。

ただ、米国は明るい、開け広げの非常識。対して、日本は暗い、陰湿な非常識にみえる。米国の歪んだ民主主義、分断化の現状は明日の日本の姿。それは米国以上に深刻かもしれない。

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