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円の実力とはなにか?為替の通貨戦略

「円の実力・為替変動と日本企業の通貨戦略」佐藤清隆著・慶應義塾大学出版会2023年12月発行

著者は1968年生まれ、横浜国立大学教授、国際社会科学研究院長である。
本書は円の実力とは何か?円の国際化は進んだのか?日本企業の円建て決済はなぜ進まないのか?を問う。そこには日本経済の実力の低下、日本企業の競争力の低下が根底にある。それを証明するのが実質実効為替レートの減価である。

実質実効為替レートは通貨の購買力の強さを示す。この減価は物価水準の国内海外の差を表し、経済成長率、生産性の差である。日本は1990年から二回の円高局面、円安局面を経験している。とりわけ最近の円安局面は歴史的である。

円の実力とは通貨としての国際的機能が十分示されているのか?である。1998年外為法改正で日本の資本移動、為替取引の自由化は進んだ。以前より円の国際化を目指したが、現実は進んでいない。

そこにあるのは日本企業の独特の通貨戦略がある。原則日本企業は為替変動を輸出相手国に負担させることは困難である。その原因は、日本の製品競争力が絶対的でないこと、競争国との競合の存在にある。

比較的競争力のある一般機械、電子機器などでさえ、輸出の半分以上は相手国通貨か、またはドル建て決済である。商社など三角取引、アジアから輸入し、米国に輸出する場合でも、アジア現地通貨建て、ドル建て決済が中心となっている。

中小企業のみが為替変動リスク回避のため、円建て決済が多く使われる。金額、規模とも小さく、変動リスク分だけ、輸出価格が低下する傾向がある。
近年の原油価格高騰から、日本の貿易収支赤字は固定化している。第一次所得収支で赤字カバー、経常収支は黒字化する。しかし所得収支の黒字資金の日本還流は少なく、円買いが進まない。

現在の円安の原因は金利の内外差が拡大、縮小しないことに原因がある。日銀のマイナス金利解消も、低金利に変更がない。円安状況は今後も長期化するだろう。

今後の課題は円安をどう改善するか?である。そのためには金利対応だけでなく、生産性向上、研究開発投資による競争力の向上が必須条件である。


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