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日本の財政政策は正しい?「21世紀の財政政策」

「21世紀の財政政策・低金利、高債務下の正しい経済戦略」オリヴィエ・ブランシャール著・日経新聞出版2023年3月発行

著者はマサチューセッツ工科大学名誉教授。専門はマクロ経済学。著書に「格差と闘え」がある。本書は2023年度ベスト経済書に選ばれた。

本書は1995年以降、先進国は低金利、高債務の状態にあるという。とりわけ日本は失われた30年と言われ、インフレ目標の未達、巨大な財政赤字、GDP比250%の巨額債務に苦しむ。では日本の財政政策は失敗だったのか?

著者は、日本の財政政策はおおむね適切であったと判断する。その理由は何か?著者は下記のように言う。

慢性的な需要不足に直面した場合、短期金利についても長期金利についても名目金利を可能な限り引き下げることが、金融政策の正しい姿勢である。

それでも不十分な場合は、需要や経済活動をさらに活発化させるために財政赤字が実際に役立つ。この点で、財政赤字は考えられているほど危険なものでも、コストのかかるものでもない。

超低金利下では、債務ダイナミクスによって債務のGDP比率を上昇させることなく、プライマリーバランスの相当な赤字を計上することが可能となる。

また、超低金利はリスク調整後の資本収益率も低水準であることを示すシグナルであり、債務による資本の置き換えが厚生面で大きなコストをもたらすこともない。

低金利政策、財政赤字は財政債務のコストを下げ、同時に厚生面でのコストも下げる効果があり、必ずしも悪とは言えない。問題は債務の持続可能性である。

今のところ日本の債務持続可能性に深刻なリスクはない。唯、将来の不確実性があるため、リスク発生の可能性はある。それは東南海地震のような大災害により、巨額な財政負担が発生するリスクである。

故に、税の平準化や所得再配分へ向け、債務縮小、プライマリーバランス黒字計上への努力が必要である。しかしマクロ経済の不安定化、総需要低迷が続けば、総需要維持のため、プライマリーバランスの赤字計上する勇気も必要である。

21世紀の財政政策はこのように民間需要を拡大させ、著者の言う中立金利を上昇させて、債務返済を促進する多様的な財政政策が重要と主張する。

「中立金利」とは、生産が潜在生産量の水準にあるときの貯蓄と投資が一致する「安全金利」を言う。「自然金利」とも言われる。日本の安全金利は実質ゼロ%近くで推移してきた。潜在成長率とも近似値となっている。

「実質金利」は名目金利-期待インフレ率であるが、名目金利はゼロ以下に出来ないため、「実効下限制約」が発生し、金融政策の有効活用が出来ない。故に財政政策に頼るしかない。

この悪循環が日本のGDP低迷の原因であり、「安い日本」の本質である。通貨安政策は基本的に新興国の政策である。このままではいつかは円貨建て資産の国外逃避が生まれ、資本逃避も始まる。日本国債の暴落リスクが表面化するときだろう。

従って今からリスク回避の手段を考えておく必要がある。しかし現状維持中心の政治、経済では将来リスク、不確実性には十分に対応できないだろう。

それでも総需要の低迷が続くならば、プライマリーバランス赤字計上も回避しない勇気が必要である。不確実な財政破綻を恐れ、プライマリーバランスの回復に方向転換による反応ショックリスクの方が危険である。絶妙なパワーバランスを調整すること。それが21世紀の財政政策のポイントである。

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