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「日本辺境論」

「日本辺境論」内田樹著・新潮新書2009年11月発行

著者は1950年生まれ、神戸女学院大学文学部教授、専門は仏現代思想、映画論、武道論である。

本書は、日本人とは何者か?を問う。そして著者は、常にどこかに世界の中心を必要とする「辺境の民、即ち辺境人」と言う。

但し、日露戦争から太平洋戦争までは、唯一、辺境人の特性を忘れ、日本が中華と信じ、中華皇帝として天皇を奉じた特殊な期間と言う。結果的に日本人は自尊心はあるが、自己の文化的劣等感を持ち、辺境人の宿命から逃げきれない。

その解決策は、辺境人の特性を第三者的に見つめ直し、理解しながら、欧米、全世界に立ち向かう姿勢を維持するしかないと言う。

丸山真男「超国家主義の心理」で日本人の特性を説明する。「自己の思想と行動の一貫性より、その場の仲間の親密性を優先する態度にある。つまり長いものに巻かれろの姿勢」である。

従って日本人は「国家とは何か?」「国民とは何か?」の答えを出すのは、私たち一人一人の個人の資格においてであるという考え方が定着していない。

日本は明治以降も国民国家になりきれなかった。故に自分の意見を言えない。虎の威を借りた狐。識者、新聞の社説などの他人の意見の受け売り、借りものの意見でしかない。なぜなら、自分自身の問題として考えた経験がないから。

新渡戸稲造の「武士道」本居宣長の「大和心」の文化意識に対して、英国批評家マシュー・アーノルドは「情緒によって感動させる道徳」と定義した。世界標準の真似をすることは得意も、世界標準に自ら作り上げようとはしない。日本人評価は厳しい。

丸山真男は言う。日本人は「現実主義者」であると。即ち、これから起きることは含めず、すでに起きたことだけを現実として受け入れる。そこにあるのは未来志向でなく、被害者意識である。従って、自分からどうこうしようとは考えないと。

昨今の政府・自民党の政治資金、派閥パーティ券問題も、日本人の特性、政治への対応姿勢が生み出したと言える。

自分がどうしようと考えず、虎の威を借りる態度である。最後は現実主義者として、仕方がないと現実を受け入れる。これでは何時まで経っても改善は覚束ない。哀しい辺境人である。

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