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日銀はお金を創造できるか?

「中央銀行はお金を創造できるか?信用システムの貨幣史」金井雄一著・名古屋大学出版会2023年6月発行

著者は1949年生まれ、名古屋大学名誉教授。英国貨幣史、金融経済学が専門である。

日銀総裁が黒田氏から植田氏に交代した。10年にわたる安倍政権のリフレ政策、マネタリズムからの転換が問われている。本当に変換ができるだろうか?いささか疑問である。

それは日銀周辺やエコノミストの間に長きにわたり蔓延し、かつ常識化している貨幣論、金融論の基盤となっている「外生的貨幣供給論」から完全脱却できるか?が疑問であるからだ。

「外生的貨幣供給論」とは、貨幣は経済活動の外部で創られ、ある程度自由に投入、引上げが可能である。それ故、中央銀行は貨幣流通量を変動させて、景気を改善する政策が可能と考える理論である。

本書は、英国の金融史、貨幣史を辿り、資本主義の貨幣供給においては「内生的貨幣供給論」が正しく、「外生的貨幣供給論」は成立しないことを明らかにしている。

「内生的貨幣供給論」とは、貨幣は経済活動の内部で創られ、内部で消滅する。従って外部から増減させることはできない。中央銀行の政策は、「間接的」に貨幣増減に影響力は有っても、貨幣量そのものを増減することは「直接的」にはできないと主張する理論である。

前者外生説の信用創造は、本源的預金又は中央銀行の貨幣供給増加で銀行券を受け入れた商業銀行が行う貸出サイクルを通じて預金が増加すると考える。マネタリーベース増加分×信用乗数=マネーストック増加量である。
後者内生説は、貨幣は銀行による信用供与が先行し、その後に貨幣が生まれる。銀行が貸すときのみ、信用創造される。貨幣があって貸借関係が成立するのでなく、貸借関係により貨幣が生まれる。

マネーストックは信用創造によって形成される。従って、中央銀行はマネーストックをコントロールできないと考える。

著者は、外生説を天動説に、内生説を地動説に例える。その決着はいつまでもつかず、現在も継続している。本書は内生説の正しさを主張する。即ち、貨幣は印刷機で創られない。故に金融政策の限界が存在すると言う。

1990年代、岩田規久男と翁邦雄「マネーサプライ論争」も、岩田の外生説と翁の内生説の対立である。現在、岩田理論の間違いは黒田日銀政策挫折で証明されている。

現在でも、地動説が拒否され、天動説が主張されるのはなぜか?原因は「失われた30年」で日本に席捲した「新自由主義」にある。自助、規制緩和、民営化、市場主義のネオリベラリズムにある。

現代資本主義の特色は「格差拡大と金融化」にある。即ち経営者資本主義から投資家資本主義に変貌した。必要なのは貨幣に先行する「信用取引」のコントロールである。

我々は「富の拡大」を求めるのか?それとも「生活の質向上」を求めるのか?今一度、立ち止まる必要があるだろう。

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