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不在の神をビジネス化した「キリスト教の本質」

「キリスト教の本質・不在の神はいかにして生まれたか」加藤隆著・NHK出版新書2023年10月発行

著者は1957年生まれ、千葉大学名誉教授。専門は聖書学、神学、比較文明論。「別冊NHK100分de名著集中講義旧約聖書」などの著書がある。

キリスト教の神はユダヤ教の神と同じ「ヤーヴェ」である。イエスはユダヤ教徒指導者の一人であった。イエスはヤーヴェの声を聞き、その教えを伝えた。故にキリスト教を知るためにはユダヤ教の流れを知ることが重要である。

本書は、一神教であるユダヤ教、キリスト教に於いて「神が沈黙した現象」を取り上げ、そこにキリスト教の本質を問う。

ユダヤ教は最初の人間・アダムから始まり、ノアの箱舟のセムの子孫であるアブラハムまで辿る。

アブラハムの息子・イサクの流れにあるモーセがユダヤ教の起源である。そして旧約聖書が書かれ、ユダヤ教が発展した。

アブラハムのもう一人の息子・イシュマエルから生まれたのが、ムハンマドによるイスラム教である。三つの一神教は同じ系列の宗教である。

そこからヤコブ、ヨハネと続き、イエスの出現でキリスト教の起源となった。ここから生まれたのが新約聖書である。即ち、神との古い約束から、新しい約束、契約へ移行する。

それはユダヤ教の律法による掟を守ることからの解放である。これはイエスの教えでなく、伝言者パウロが唱えた。「神への愛と隣人愛」である。それを守れば、全ての人が救われると言う。

ユダヤ教は紀元前722年ユダヤ王国がアッシリアに滅ぼされた。バビロニア支配下でバビロンの捕囚を経て、解放されるも、ペルシャの支配下となる。

これらをユダヤ教徒は「神の沈黙」と呼ぶ。ここからエルサレムに戻らない「ディアスポラ」ユダヤ人が発生した。世界に流浪するユダヤ人出現はユダヤ教の教えに従った結果でもある。

「神の沈黙」「神の不在」を利用したのがキリスト教の指導者・パウロたちである。著者は言う。「パウロは神になり、神にあり方を裁き、神以上の者になった」と。

キリスト教はイエス崇拝によって、イエスを神格化し、元々なすべきことはないにもかかわらず、存在するかのように宣伝し、宗教集団を作り上げた。「神なし領域での宗教ビジネス」それがキリスト教の本質であると断定する。

フォイエルバッハも「キリスト教の本質」で、「神学は人間の願望の客観的投影に過ぎない」と言う。つまり「神学は人間学である」と。

キリスト教は分派集団を重視し、宗教をビジネス化する。故に国家統合の手段と利用され、ローマ帝国の国教となる。更に世俗化して、西洋文明維持、運営に活用された。

「教会の権威」が否定されたのは、1687年デカルトが「方法序論」で「我思う、ゆえに我あり」と科学的思考が始まった近代以降である。

その後、1618年の30年戦争で分派争いは極限を迎え、キリスト教の影響力は低下、キリスト教の存在感は徐々に薄れ、現在に至る。

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