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慢性疾患患者とメンタルヘルス患者、新型コロナウイルスで忘れられたリスク集団

著者:アナ゠カストロ
初出:2020年3月24日、https://www.elsaltodiario.com/coronavirus/enfermos-cronicos-pacientes-salud-mental-olvidados-crisis-covid-19

公的医療機関の予約と治療は全てキャンセルされた。メンタルヘルスケアは最重度の患者だけに制限された。

彼等は自宅に閉じ込められている。新型コロナウイルス感染のリスク集団だからだ。彼等は誰の目にも触れない。恐ろしくて買い物にも行けない。行くとしても緊急に必要な時だけ。教区民として出掛ける場所が薬局だ。薬局で肉体と精神を生かすために必要な薬をもらう。マスクなどの手段を誰も与えてくれない。住民の大部分も同じだ。実際、この憂慮すべき事態(あらゆる意味で)が起こる前には誰もそんなものを見たことがなかった。彼等は危機に瀕している集団の一つだ。以前から様々な病状を抱え、現在の不確実な情況の影響を受けやすいのである。

最近承認されたペドロ゠サンチェス政権の登場によって移動制限がさらに強化されている中、慢性疾患や精神疾患を持つ人は、その疾患のために自宅で過ごすことが多く、勅令で外出禁止となっても、慣れていて好都合だろうと考える人がいるかもしれない。だが、違う。この報告を書くに当たってインタビューした慢性疼痛と精神疾患のある患者8人の場合、治療の予約や医療的処置が予想できない形で全てキャンセルされ、ある時は身体的に、全ての人が精神的に、その症状が悪化した。実際、この分野を専門とする3人の医療従事者とも連絡を取ったが、皆このことを証言していた。

さらに、慢性疼痛と精神疾患のある患者はスペインで決して少なくない。スペイン保健省が作成し、国家統計局(INE)のウェブサイトでも公開されている最新の2017年国民健康調査--2018年6月公表--を確認すれば分かる。また、「疼痛観測研究(el Estudio el Observatorio del Dolor)」に示されているように、スペイン人口の17%が慢性疼痛に悩まされている。特に女性にその症状が多い。精神疾患については、15歳以上の10人に1人の割合で精神疾患に関わる何らかの問題に悩まされており、ここでも、女性が男性よりも多く報告されている(男性7.2%に対して女性は14.1%)。

成人に多く見られる疾患の中でもこうしたグループに影響しているのは、慢性腰痛(腰椎と頸椎)・片頭痛・鬱病・慢性不安・喘息・慢性閉鎖性肺疾患である。多くの場合、これらの疾患にFEDER(スペイン希少疾病連盟)が示す希少疾患を付け加えねばならない。例えば、子宮内膜症は女性の10人に1人が罹患している。未だよく分かっていない慢性疾患だが、線維筋痛症も主に女性が罹患している。

慢性疾患患者の大部分が予約と治療のキャンセルについて電話で連絡を受けていた。ラ゠パス病院(マドリー)で治療を受けていた40歳の中枢神経系疾患患者もそうだった。しかし、インタビューした8人の内1人を除き、いかなる文書も病院から送付されなかった。慢性骨盤痛と泌尿器・消化器系障害、鬱病、慢性不安、転換性症候群を持つ女性患者の場合だけ、電話での連絡に加え、3月18日にヒメネス゠ディアス財団大学病院から電子メールで以下の連絡があった:「現在の保健アラートによる異例の措置を鑑み、保健省の指示に従って、外来診察・診断検査・日帰り入院・入院予定・優先的ではない外科処置など、予定されていた活動で緊急を要しないものは全て停止いたします。医師の判断により患者ポータルを通じた相談を行える場合、病院からご連絡いたします。/よろしくお願いします。/なお、患者ポータル(ウェブサイトや携帯アプリ)では、検査結果や報告書など多くのことを参照できますのでご承知おき下さい。」

ドセ゠デ゠オクトゥブレ大学病院の小児手術室の看護師ハラ゠ガルシーアもこの詭弁を認めている。彼によれば、「マドリー州の公共ネットワークの他の病院もそうですが、ここも特別措置を取っています。目下のニーズを満たしつつ接触感染を避けるために、診察と緊急性の低い手術処置を中止し、スタッフを他のサービスへ配置転換しています。」彼は、病院経営陣が発信するガイドラインはこれまでも変更されており、今後も変更し続けるだろうとコメントし、次のように言う。「慢性疾患の患者さんも、そのニーズが無視されないので、安心です。取り消されるのは、緊急を要しない診療予約だけで、健康保険カードで処方された薬は予防措置として自動的に更新されます。しかし、ある病状が他よりも無視されることは決してありません。」非常事態のために、そして接触感染の機会を減じて患者自身の保護・利益となるようにするために、他のサービスを優先しなければならなかったにも関わらず、彼はこの患者グループに安心感を与えるメッセージを送りたいと思っているのである。

それにも関わらず、この脆弱な患者グループの不安は高まっていた。前述の患者の内、一人目は次のように述べている。彼の疾病は今のところ安定しており、ある程度普通の生活を送れているものの、「不安に蝕まれている」と述べている。彼は「これはジェットコースターのようになって」いき、臨床心理士の元に行けるとは思えないと考えている。彼の妻も呼吸器の問題でリスク集団の一人であり、「隔離を告げられるとすぐに解雇され、絶え間ない不安に悩まされている。」二人目の患者、ヒメネス゠ディアス財団大学病院のACVさんは、言葉を見つけられない。彼女は、毎日自分でカテーテルを入れねばならず、他の人以上に感染症にかかりやすいため、薬局に行く以外は自宅に閉じ籠っている。彼女の慢性疼痛は既に悪化している。この危機の中で悪化し続け、抑鬱と不安症状の激化に悩まされている。「ほとんど毎日、生きていたくないんです・・・ただただ、早く明日になれば良いと思っているだけです」と彼女は述べている。また、自分の「身体も心も、しかも勅令によって」「閉じ込められている」ことに大きな怒りを感じ、「自分のものだと思えない身体を養うために」食事をするなどとてもできないと思っている。

不安・パニック障害の患者LRSさんには何の通知もない。彼女は既に、社会保険の精神科医との予約を諦めている。現在経験している特殊な情況が彼女の症状を悪化させている。「不安に何度か襲われたことがありました。全般的に、緊張と不安の状態が非常に高まっているのです。症状が顕著になってきたので、自己責任でロラゼパムの服用量を増やすことにしました。」幸運にも、彼女は、外出禁止中にスカイプを使って心理士との個別相談を受けている。彼女は次のように詳しく述べている。「公的保健制度では受けられないサービスです。」さらに、このサービスは、彼女が不調を感じたときにはいつでも電話してくれる。「割り切れない感じです。ウイルスが本当に危険だなんて全く理解できない。メディアの情報や政治家の言っていることも混乱しているでしょう。何か、映画の中にいるみたいですね。家事・家族・介護・仕事上の責務で参っています。全てをやるのは無理ですね。友達に会えなくてとても寂しいです。」彼女はできる限り外に出ないようにしているが、外出時にマスクをしていない。マスクを持っていないからだ。

JSVさんは、足と膝の様々な疾病に起因する慢性疼痛を患って5年になる。それと共に、適応性抑鬱障害と不安障害になり、心気症と広場恐怖症の経験もある。ルーゴの片田舎に住み、幾つかの医療ユニットに予約を入れているが、今のところキャンセルされてはいない。「私の身体症状は悪くなっていません。心理的な点で言うと、数日前、ある少女についての記事を読んでいたら、彼女は、精神疾患のために外出や人付き合いをしないのに慣れていたため、彼女の生活は外出禁止でもほとんど変わらなかったと言っていました。自分にとっては日常生活でも、他の人達にはそれほど大きく影響するのだと彼女は驚いたそうです。私も少しばかり同じです。(中略)私は、痛みのために友達と出掛けるのを何度も止めています。ここ最近、自宅にいてもコンサート等の様々な文化イベントを楽しめます。多くの人にとっては、常時の外出禁止が疾病と疼痛なのです。」彼は、スカイプを通じた個別心理相談に参加できると考えている。

グトルン゠パロミノ゠ティラドさんはカディスに住む21歳。混合型不安抑鬱障害に悩まされて2年になる。彼女の場合、これまでも何度か精神科の予約が延期され、今回も延期の電話があった。他の患者同様、彼女も症状の悪化を訴えている。「何度かパニック発作があり、眠れず、足がしびれる感じがして、とても疲れています。とても参っていて、疲れているのです。」彼女が精神科医や臨床心理士と会える見込みはない。「無料でオンライン相談をしている心理スタッフは予約がいっぱいで、私には私費で予約する余裕など無く、病院も診療してくれない」からだ。そして、次のように付け加える。「問題の深刻さを完全に理解しています。でも、精神障害と慢性疾患を持つ人は完全に取り残されています。母には希少疾患があり、実際、私と同じ情況です。精神保健センターの組織はお粗末で、私達に必要な精神科ケアを行ってはくれません。これまで欠陥だらけだったとすれば、今はもっと欠陥だらけなのです。」

アリシア゠ゴーメス゠ベニートさんは、既に、インスタグラムの「女性への配慮(Cuidando en Femenino)」プロジェクトで精神衛生の重要性に関する意識高揚を独自に行っている。彼女の症状は鬱と不安である。「不安の発作に陥ると、眩暈・吐き気・全身の痛みを感じます。40代になってからは、怒ったり悲しんだりして泣きはしても、こうした危機はありません。」このように述べ、自分の「頭は、普段の生活よりも危機の時の方が良く働く」と断言する。社会教育者として、彼女は、自分が危機の時代に支援するよう「訓練」されていると述べ、それに加え、彼女は長年個人的に治療活動もしている。彼女は、こうしたグループのように情況を非難することも必要だが、もっとポジティブなニュースを広めて「こうしたパニックの時に気持ちを落ち着かせる手助けをすること」も必要だと主張する。

IDさんは、身体的にも精神的にも様々な疾患に悩まされており、自分にはまだ相談予定の通知が来ておらず、誰も自分と連絡を取ろうとしない、と述べる。彼女は、「さらに長い待機リストにいて身動きが取れない」と感じている。彼女は、外出禁止の前から自分の身体的健康が悪化しているのを既に分かっている。そして、自分が広場恐怖症でもあると告白する。「待合室は最も苦手な場所の一つです。今は思い切って保健所に行くつもりもなく、症状が悪くならないよう祈るばかりです。」彼女はスカイプを通じた臨床心理士との個別相談を受けるゆとりがあり、緊急時であってもこのリソースに頼り続けているが、そのメンタルヘルスは悪化している。「数カ月間、精神科の薬を減らしていたのですが、毎日の服用量を増やさねばならなくなりました。その意味で、とても怖いのです。本当に怖いのです。私の不安・抑鬱・強迫的行動は、ここ数日で急速に増えています。過去数カ月自分が行ってきた活動全てが無駄になったような、知らないうちに後退してしまったような、そんな気持ちです。自分の体が、体が飽和状態になってしまうのが怖い。何か起きてしまうんじゃないか、自分の面倒を見られなくなるんじゃないかと本当に恐れています。私の生活はそれほど変わっていません。これまでも家で独りぼっちだったのですから。でも、私を根底から支えてくれたパートナーに会えず、リスクと不確かさが増えていく情況はとても不安です。新しい症状が出て、その理由が分からない、どうしていいか分からない。恐ろしくてたまりません。」

こうした患者が疑問視している医療グループについて、匿名で話してくれたクリニコ゠サンカルロス病院(マドリー)の精神科医は、日々のガイドラインに従って働き、5月以降の予約を取っていると話す。ただ、「同僚の半数が感染や感染疑いで休みを取っていて、医師の数は減っています。集中して活動することも、睡眠や休憩を充分に取ることもままなりません。」実際、彼は今週、新型コロナウイルス患者病棟の一般医として配属されている。精神保健センターで、緊急時や深刻な重度のケースを除き、劇的にサービスが減っていることで患者にどのような影響があるのか聞いたところ、彼は次のように答えている。「全てはこの状況がいつまで続くのか・どのように推移するのか次第でしょう。経過観察をしている患者さんには様々な症状があります。患者さん達は、それほど症状が悪化していなくても、(重篤な急性疾患や新規の救急患者を除き)緊張と不安の中で待たされていて、余り長くはこのままでいられないでしょう。これが実情です。ある種の病態(重度の恐怖症性不安障害・強迫性障害・精神病性障害・重度の鬱病など)については、大きな影響を受け、著しく悪化する可能性があるため、今も今後も特に注意深く対応していきます。」

もう一人の公衆衛生従事者で臨床心理を専門にする医師マリーナ゠カレテロ゠ゴーメスは、次のように考えている。「新型コロナウイルスに関わる一般的な衛生状況が変化するにつれ、ここ数週間で精神保健サービスの配慮も変化しています。現在、電話で患者と応対し、患者の状態を把握することが一般的です。緊急時だけ対面で活動を続けています。メンタルヘルス患者は皆、この健康危機の期間だけでなく、恐らくその後のフォローアップでも影響されると思います。メンタルヘルスケアの需要が高まる見込みを考えれば、情況を見直さねばならなくなるでしょう。既に待機リストとフォローアップリストが危惧するほどまで長くなっているのであれば、医療チーム--特に臨床心理士の--が強化されなければ、対応の遅れがさらに顕著になるでしょう。多くの人にとって、その症状が進展するにつれ、現状がトラウマの経験になってしまいます。かなりの割合で専門的支援が必要になるでしょう。また、精神障害のある人の一定数がその症状を悪化させ、現在治療介入の第一線にいる同僚の多くが心理的支援を必要とするようになる可能性もあります。これも、解決すべき健康問題の一つなのです。」

一方、慢性疾患のある人に個別面接やオンライン相談で心理的ケアを行っている熟練の臨床心理士ヘイスース゠ムニョス゠デ゠アナさんは、「できる限り寄り添えるよう、ビデオ会議・電話・電子メールで」患者に対応し続けている。彼は「私が相談に乗っている人一人一人に連絡して、オンラインや電話で支援を受け続けるかお聞きしました」と述べ、この患者集団が持つ脆弱性に注意喚起している。「慢性疼痛のある人達には健康面と社会面(家族など)双方の支援ネットワークが必要なのですが、現在の情況がこのネットワークに影響を与えかねません。ある種の相談は延期されるかもしれません。現在、感染リスクのために実施できないのです。ウイルスを拡散させないために自宅に留まったり、孤立した状態にいたりすれば、家族の支援を得ることが難しく、支援グループに参加することもできなくなります…」ムニョス゠デ゠アナさんは、個人的な意見として、次のように締めくくる。自分にとって「この情況は、自分の限界・自分の手腕・物事の見方との出会いでもあります。私は、テクノロジーが許す範囲内で、できる限り彼等に寄り添っていたいと思います。」

民間のヘルスケアに頼らない限り、ケアと支援はなくなる。こうした患者に残されているのは、薬剤師から得られる情報だけだ。「マスク・ジェル・消毒液・アルコール・手袋の問い合わせが増えています。最初の頃は、この情況について聞かれたものでした。今では、医療従事者よりもメディアの方が世論を動かす力を持っています。私たち医療従事者は、ただ自分の仕事をするだけです」とハビエル゠ビロリアさんは言う。薬学部を卒業して薬剤師として働いている彼の活動も影響を受け、最大限の対策を講じなければならなくなった。このグループは「マドリー薬剤師公認協会(Colegio Oficial de Farmacéuticos de Madrid)」の指針に従って運営されている。ビオリアさんは次のように言う。「もちろん、私は患者さんを普段通り見ていません。慢性疼痛の患者さんは特に影響を受けやすいのです。治療をそれほど受けていないのですから。さらに、既往症のある人の方がコロナウイルスに影響されやすく、感染した人の多くは慢性疼痛を訴えているようです。例外的な情況なので、薬局は形を変え、薬剤師は、在宅の感染者が薬を使って楽に生活できるようにし、他の人達にも最善の専門的アドバイスをするようにしなければなりません。」

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