見出し画像

生活の建築知識.6

おはようございます。

ほぼ毎日外出していろんな街で仕事をする生活を送っているのですが、初めて行く街はやはり新鮮で、ついつい街並みを眺めてしまいます。
そうしていると、ちらほらコンクリート打ち放しの外装をしている建物を見つけます。
これは癖で、その表面に目がいってしまうのですが、何を見ているかというとそれが本当に打ち放しで仕上げられたかどうかです。
安藤忠雄さんの建築の多くはコンクリート打ち放しを採用されており、全てを見たわけではありませんが、おそらく本当に打ち放しで仕上がっています。
このすごさは同業者でなければなかなか伝わらないとは思いつつ、コンクリート打ち放しとは何なのかを今回は説明していきます。

コンクリート打ち放しと聞いて、色々なイメージを持たれることでしょう。
・かっこいい
・冷たそう
・重そう
・何も仕上げをしない
主観的なイメージに関してはそれぞれあると思いますが、冷たそうは確かに合っている一方、熱いとも言えます。
コンクリートは、断熱性は高くありませんが蓄熱性は高いとされています。
つまり一度達した温度は緩やかに変化することになります。
打ち放しの場合、外部にコンクリートが接しているので、外気温の影響をダイレクトに受け、室内に対してはどちらかと言えば負荷がかかる状態と言えるでしょう。
なので室内側にしっかり断熱を行うか、高性能な空調設備を設けることが必要となります。

次に、重そうということに関しても正しいと言えます。
打ち放しに限ったことではありませんが、鉄筋コンクリート構造はコンクリートだけでなく、名前の通り鉄筋も内部に入っています。
簡単な説明ですが、なぜ鉄筋を入れるのかというと、コンクリートは圧縮力に強いが引張力に弱い性質があります。
一方、鉄筋は引張力に強いが圧縮力には弱い性質があります。
2つを組み合わせることで、お互いの構造的な弱点を補い合い、強みを活かせるとされています。
他にも鉄筋の酸化をコンクリートのアルカリ性が防いでくれたり、お互いの熱膨張率が近いなど何かと相性が良いため、合理性がある構造体となります。
話は戻りますが、何tもの鉄筋を使用してコンクリートで固めるため、他の構造体と比べても重いはずです。

そして、何も仕上げをしないという観点から見ると一概にそれは言えません。
なぜなら、打ち放しとするためには手間とコストが非常にかかるからです。
知らない方も多いとは思いますが、普通にコンクリートを打設しても残念ながら打ち放しのようにはいきません。
打ち放しにしたければ以下の条件を整えなければいけません。
・綿密なパネル割り
・全て新しいコンパネベニヤでの型枠
※通常複数回使い回す
・通常以上の型枠補強
・入念な打設計画
・コンクリート充填が滞らないこと
・入念な充填
項目で言えばこんなものですが、何よりこれをまさに一発勝負で決めなければいけません。
また型枠の内側にコンクリートを流し込むため、型枠を外すまでは成功したかわからない状態となります。
見えない状態のものを仕上げるという、非常に難しい作業を強いられます。

プロの立場でこんなことを言うと誤解を招くかもしれませんが、実情を伝えるためにあえてお伝えします。
はっきり言って、絶対成功出来るかというとかなり難しいです。
どんなに気を付けてもやはり流体のコンクリートを完全にコントロールすることは難しく、大きめの気泡が残ってしまったり、良くないですが充填出来ていない箇所(ジャンカと言います)が発生したりします。
さらに悪いと型枠がズレたり、最悪の場合コンクリートの荷重に耐え切れず型枠が損傷してしまうケースもあります。
理由としては、通常コンクリートの充填は全体的かつ徐々に高さを揃えながら型枠の上部まで入れていきますが、打ち放しは打ち継ぎ跡を出したくないので、同じ場所に一気にコンクリートを打ち込むため、コンクリートの重みに加え常時流体のエネルギーを一箇所で受け続けることとなり、通常以上に負荷がかかるからです。

とにかくコンクリート打ち放しは施工が難しく、完璧な状態にはなかなかなりません。
しかし、街で見かける打ち放しは綺麗になっていると思います。
それは補修を後から行なっているからです。
大きめの気泡跡は埋めたり、打ち継ぎ跡が残ってしまったらコンクリート特有のパターンを付けて目立たないようにしているのです。
一見するとわからないくらいに補修は綺麗に行われますが、むしろ補修特有のパターンが職業柄わかってしまいます。
それを見るたびに現場の大変さを思ったり、逆に補修跡がないと感心したりしています。

補修を行なったコンクリートはあまりにも綺麗になっているため、補修をしていないものの方が見た目は無骨に見えます。
正確に言えば、撥水のため塗装はしているので色合いはそのままということもありませんが、街中でゴツゴツしたコンクリート外壁の建築物を見つけたら、それは本当の打ち放しかもしれません。

もしコンクリート打ち放しを希望される方がいましたら、安藤忠雄さんの建築物を見に行って、本当の打ち放しがどんなものか確認してから検討されると良いでしょう。

では、また。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?